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Re10 魔法少女の評価

「あのメグルとかいう魔術師の女、帰してしまってよろしかったのですかな?」

「む?」

 例のエンシェントドラゴンの鱗の商談が終わった後、部屋に残ったザックからそんな質問を受けた。

「帰さなければどうすると言うのだ?」

「あの女は危険だと感じました。捕縛するという手は無かったものかと」

「ふむ。危険か。確かにそうだな」

 それに関して言うなら、自分もザックと同じ考えだった。アレは危険すぎる。

「あの女は危険だ。あまりに考えが読めない。まさかコレを金貨一枚などとのたまうとは」

「なんだ、そんなことを考えていたのか」

「私にはロバート殿のような眼はありませんからな、疑う事しかできません」

 そう言うとザックはまだ何か言いたげにこちらを見ている。

「どうした」

「あの女、どこまで本当のことを言っていたのです?」

「ふむ、それか」

 なるほど、確かに気になるだろうな。あのこれだけの品を持ち込んであの振舞だ。不審に思うのも分かる。

「全部だ。あのメグルという者は全て嘘偽りなく話していた」

「何ですと?!」

 私の言葉にザックは大声をあげて立ち上がった。

「落ち着けザック」

「しかし……! ロバート殿、貴方は審議眼を使っていたのですよね?」

「そうだ」

 審議眼。相手の嘘を見抜く特殊な魔眼。その特殊な眼を俺は持っている。故に、今回彼女を呼び出し、直接この眼で見極めたのだ。

「鱗を拾ったのも、自分が倒したのも、手加減をしたのも、殺してないのも、治療したのも。全てが本当だったよ」

「では、その。鱗を金貨一枚で買わない、要らないと言ったこと。そしてあの商談に満足していると言うような発言は」

「本当だ。彼女はアレを金貨一枚の価値も無いと思っていたし、要らないとも思っていたし。そしてその対価が情報源の提供だけで十分だと、思っていた」

「そんな……馬鹿な……」

 ザックが驚くのも無理はない。彼女はあまりにも物の価値を知らな過ぎた。あれ程価値のあるもの、戦争を起こしてでも欲しがる国があってもおかしくない。それをおとぎ話に詳しいだけの学者を紹介しただけであっさりと譲り渡す。明らかに異常だ。

「もしやアレが、伝説の?」

「可能性はあるな」

 彼女の話にも出て来た「魔法少女」世界の窮地に異世界より現れるとされる最強の魔術師。

 であるなら、あのエンシェントドラゴンをも倒し、その素材の価値が分からないのも頷ける。

 実際、ギルドに登録する際の職業欄には魔法少女とか書かれていたらしいしな。

 とはいえ恐らく、これは異世界人だからという理由には収まらないのだろう。

「彼女からすれば、エンシェントドラゴン『ごとき』の素材、大した価値は無い、という事かもしれんな」

「そんなまさか。いくら伝説の魔術師とは言え、相手もまた伝説級の存在ですよ。相手の力量が分からないと言う事も無いでしょう」

「わからんぞ、わかった上で、格下と判断し、価値無しと思ったのやもしれん」

「それは……」

 俺の予想にザックは押し黙る。これはあくまでも予想でしかない。しかし、それでも我々には想像もできないことが起きていると言うことくらいは想像できる。

「あの女のステータス、Bランク程度と聞いていましたが」

「あぁ、魔道具に細工されている様子も無かったし、アレはそもそも神の与えたもうた神器だ。偽装は出来ない」

「ならばスキルが優秀……という事ですかな」

「だろうな。実際登録時に書かれた魔術欄には知らない言語の魔術が記されていた。恐らくあれらの中にエンシェントドラゴンすら容易に倒すものがあったのだろうな」

「やはり捕縛すべきだったのでは……」

「何を言う。先程言った通り、彼女はエンシェントドラゴンすら加減して倒す実力者だぞ? どうやって捕縛すると言うのだ。下手に手を出して敵に回られて、お前はいかに責任を取る気だ」

「それは……しかし」

「気持ちはわかる。しかしな、アレは今はまだ利用できる存在だ。我々に対する敵意も無く、むしろこれだけの品をもたらしてくれる、人類史に対する利益の塊のような存在だ。それに仮に彼女に悪意があったとして、それを止めることなど人類には不可能だろう。であれば彼女が味方で居てくれるよう祈り、そうあるように努めるしかない、違うか?」

「……そう、ですね」

「そうだろう。なら、今後は彼女に恩を売ることも考えるべきだろう」

「あの女に恩を、ですか。可能でしょうか、そのような事が……」

 ザックは言いながら俯く、まあ確かに、あれだけ物の価値の分からない相手だ、恩を売ろうにも我々とは価値観が違い過ぎるところはある。それでも俺は恩を売ることは可能だと思っている。

「できるとも。今回のことでそれはわかっている。彼女は魔法少女について調べているようだったからな。こちらでそれに詳しい者を調べ上げておくんだ」

「そして、必要とされれば紹介する、と」

「冒険者ギルドの人脈を使えば、出来ないことではないだろう」

 冒険者ギルドは特定の国に属さず、世界各国に存在している。だからこそ広い情報網を持っている。これを生かせば有用な人物の紹介くらいは出来るだろう。

「さて、そうと決まれば、だ」

「はい?」

「この鱗、どうする」

「…………そういえば考えていませんでしたね」

 非常に貴重な品という事で、手に入れることばかりを考えていたが、どう扱うかまでは考えていなかった。

 軽率な行動と言える。これじゃあただの衝動買いだ。

余りのことに自分も興奮していたのだと、ここに来て気づいた。

「存外、手に入れると厄介な物にしか見えなくなってくるな」

「でしたら私が預かっておきましょうか」

「何を言う。お前に預けたら数日後、金に変わっているかもしれないだろうが……」

 そう言ってザックを牽制しながら思う。

 コイツも何だかんだこの鱗が欲しかったのだろうなと。商人気質なコイツの事だ。あの時安く買い叩けそうなら自分で買おうとしたかもしれない。抜け目ないと言うか、何というか。

 とは言えこの鱗、本当にどうしたものか。

 装備になるような量では無いしな……学者にでも持たせて研究させるのが良いだろうか。

 そんなことを考えつつも、結局すぐに答えはでない。

「(まあ、これだけの品なら使い道はいくらでもあるか)」

 今後、どこかの国との交渉にでも使えるかもしれないし。貴重な切り札というわけだ。

 そんなことを考えながら、俺はザックに別れを告げると、部屋を後にした。


ご読了ありがとうございました!

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