Re1 魔法少女の終わりと始まり
今日から更新していく新しい作品です。
異世界で無双する作品ですが、とても真面目かつ、重厚なストーリー、奥深い設定……とかは無いです(キッパリ)
コメディ調で無双しつつ、ちょっと変わった魔法少女を楽しんで頂ければと思います。
最後に、最初に何話か更新させて頂きますが、次週の更新からは1話ずつの更新になるので、作品はそこまで長くない予定ですが、最終話更新はいつになるやら……まあ、気長に楽しんで頂ければ幸いです。
魔法少女。
読んで字のごとく魔法を扱う少女のこと。
そんな存在になれたことに私は感動すら覚えていた。
弱きを助け強きを挫く。
そんな存在が憧れていたモノではなかった私には、特に『自分が魔法少女になれた』という点が大きかった。
弱きを助け、強きも救う。
それこそが私の望む正義と優しさだったから。
だから、本当に嬉しかったんだ。
魔法少女になれたことが。
「お疲れ様。廻くん」
「はあ」
で、そんな恵まれた魔法少女こと三角廻十六歳は今、謎の空間で謎のおじいさんに労われていた。
「君は本当に大した子だよ」
「は、はあ」
黒いだけの謎の空間に似つかわない豪奢なテーブルとイス、食器。
なぜか知らないうちに椅子に座らされている私はテーブルの上の物に目を向ける。
豪奢な家具に似つかわしい豪勢かつ大量の料理。
これ、私の目の前にだけやたらとあるんだけど、食べていい奴なのかな……。
「本当に、お疲れ様。どうぞ、好きに食べて、飲んで、くつろいでおくれ」
「は、はい。ありがとうございます」
私の心でも読んだのか、気を利かせてくれたのか、おじいさんの方から料理を勧めてくれた。
なので私はおじいさんの労いの言葉と称賛に感謝を述べた。
だけど、なんでこんな状況になっているのか、いまいち掴めてないんだよね。
なので、料理も手に着かないし、あ、でもお水は欲しい。
ごくごく……ふぅ。ちょっと落ち着いたかも。
「ふむ……」
「?」
私が状況を把握しようと思考を巡らせていると、おじいさんがながーく蓄えたひげをさすりながら口を開いた。
「君、死んだよ?」
「……?」
突如降りかかった言葉に言葉も出ない。
え、何? 死んだ? 君? 私??
「やはり、覚えていないか」
「何の話ですか?」
いまいちこの状況も掴めていないが、この話はもっと掴みどころが無いように思う。
死んだって、誰が。私が? 今こうして生きているのに。誰の話なの?
「君は魔法少女として戦っていたね」
「え……っと何の話ですか?」
急に魔法少女の話をされてとっさにとぼけたフリをしたけれど、おじいさんはそれを否定するように首を振った。
「誤魔化さなくてもいい。わしは知っているよ。君が魔法少女として悪と戦い、あの邪悪の塊であるノモルワを倒したこともね」
「!」
そこまで言われて私は思い出した。
そうだ。私は戦っていたんだ。
世界を滅ぼそうとする邪悪な存在のトップ、邪神ノモルワと!
「こんなことしてる場合じゃない!!」
「まあ待ちなさい……」
「ごめんなさいおじいさん! 私今――」
「待ちなさい」
「……っ」
私は急いで席を立って戦いに戻ろうと思ったが、席を立とうとした体が動かない。
まるで金縛りにあっているようだ。
「くっ……一体何を……!」
「ほっほ。流石歴戦の魔法少女じゃ。わしが何かをしたということまでは見抜いたようじゃな」
私の言葉にも、朗らかに笑って答えるおじいさん。
この人、何者?
「わしは神じゃよ」
「…………え?」
「神じゃ」
「髭?」
「それわしのチャームポイント。髭じゃなくて髪……じゃなくて神じゃ。神様」
「神様?」
それって、何。宗教の話なのかな。
「私そういうのはお断りしてるんです」
「宗教勧誘じゃないわい! いや神じゃけども!! ……普通そうに見えて微妙に天然じゃのう」
「なんででしょう。友達にもよく言われます」
よく親友に「めぐるんってちょっと抜けてるっていうか天然だよねぇ~」と言われたものだ。
って、こんな話を悠長にしている場合じゃないんだった!!
「この拘束を解いてください!」
「……無駄じゃよ」
「解く気がないなら、悪いですけど、力ずくで!!」
そう言って私は魔法少女に変身する。
そして、この拘束を……。
「はっ!」
「ぬうぅ!?」
あっさりと、破った。
しかし。
「じゃあおじいさん、私はこれで――って痛っ?!」
「じゃから、無駄じゃと言うとるのに」
私はおじいさんに背を向けて走り出したが、謎の空間で謎の壁にぶつかり、鼻を痛めてしまった。
「うぅ……なにこれ」
「ここからは出られんよ?」
「っ……なら収束砲で穴をっ!!」
「ちょっ! それは勘弁してほしいのじゃが?!」
どうやらおじいさんの反応を見るに、これは効果的な方法のようだ。
と、思ったのだが。
「実際穴は開くが元の世界には帰れんよ?! それにここわしの家みたいなものじゃし! とりあえずやめてもらえんかの?!」
どうやら違ったようだ。
この慌てようは私がどこかに行くことに対してではなく、自分の家に穴を開けられるのを嫌がっているようにしか見えない。
「……わかりました。でも、状況の説明をお願いします」
「うむ、わかった。一から説明するとしよう」
そしておじいさんから語られたのは衝撃的な事実だった。
私がノモルワを倒したこと。
しかしそのノモルワに最後の最後で慈悲をかけたところを殺害されたこと。
要約してしまえばこれだけだが、この事実が私には衝撃的だった……。
「死んだの……私……」
「そうじゃ」
「……ノモルワは?」
「奴も最後の力で君を殺した。奴は滅んだよ」
「そう……ですか……」
自称神様の言葉に、私は力なく項垂れた。
私……死んじゃったんだ。
でも、ノモルワは滅んだ……。
「それで、私はこれからどうなるんですか?」
「ふむ。それなんじゃがな?」
「?」
自称神様はまた長い髭に手をかけると、ゆっくりと話し始めた。
「まずはそこの食事を食べなさい?」
「え? あぁ……はい、いただきます」
とりあえず、死んだ体に意味があるかは別として、豪勢でおいしそうなお料理を頂くことにして、席に着いた。
「ん。おいしい」
「食べたね?」
「え? はい。おいしいです」
「では、異世界を救ってもらえんかね」
「……はい?」
このおじいさん、今なんと?
「異世界、ですか?」
「そう、異世界じゃ」
「唐突ですね……というかアニメの見過ぎですよ、神様。ファンタジー小説じゃあるまいし、剣と魔法の世界に異世界転生なんてあるわけないじゃないですか。非科学的です」
「現役の魔法少女がそれ言う?」
そう言われると確かに、私ってちょっと非科学的な存在かも。
「じゃあ異世界が仮にあるとして、どうして私が救うんですか?」
「君が正義の魔法少女だからじゃよ」
「死んでますよ?」
「転生させるから問題なしじゃ」
「問題大有りでは……」
その異世界とやらがどんな場所か知らないが、よそから来た魔法少女が世界の異変に介入するのはいささか問題があったりしないだろうか。
しかも一度は死んだ人間がなんて。
「異世界には悪の存在に困っている者たちがたくさんおるんじゃよ」
「そう、ですか」
「助けてあげたいとは思わないかね?」
「う……思います、けど」
「君の魔法少女としての力なら、きっとみんなを幸せにできるじゃろう」
「うぅ」
なんだろう、徐々に異世界に行く方に誘導されている気がするんだけど……。
「というかほれ、君、食ったじゃろ」
「え?」
そう言われて指されたのは、差し出された料理の数々。
まさか……。
「食べろっていいましたよね?」
「言ったのう」
「だから食べたんですが」
「そうじゃのう」
なんだろう、凄く嫌な予想が出てきてしまったんだけど、これってまさか――
「これ、賄賂ですか」
「さっすが天才魔法少女じゃ! その洞察力には感服じゃわい!!」
「スネ〇ですか!」
これ完全にス〇夫がドラ〇もん利用しようとして嵌める手口!
「これって悪を倒した私を労って用意されたものじゃなかったんですか?!」
「まあ、兼ねてはおるのう」
「兼用!」
「でも本題はこっちじゃ」
「せめて労いが本題であって欲しかった!」
なんてことだろう、まさかこんな卑劣な罠を使う神様がいるなんて。
「まあまあ、そういわずに、ほれ、たーんと食え、うまいぞう?」
「うっうぅううう」
た、確かに美味しかったけど!
でも食べたら負けな気が……でもでも、一口も二口も同じだし……どうせなら食べちゃった方が……。
「食わんならわしが食うが?」
「食べます!」
むしゃむしゃ……ごくごく……ごっくん…………ふぅ。
「良い食いっぷりじゃ。まるで飢えた獣じゃのぅ」
「もうこの数分で大分神様のこと嫌いになりました。私」
嵌めるし、急かすし、酷評するし。
なんて嫌な神様なんだろう。
「で、異世界に行ってもらいたいんじゃが」
「……はぁ。わかりました」
「おぉ、行ってくれるか」
「だって、行かないって言ったらどうなるんです?」
「記憶を書き換えてでも協力的にして、飛ばすしかないのう」
「いともたやすく行われるえげつない行為!」
この神様やっぱり嫌い!
「ふっ、計画通り」
「……なんですかそれ。計画?」
「うむ。まあそれはこっちの話じゃ。気にせんで行っておくれ」
「……はあ」
なんか神様に計画とか言われると、無駄に壮大なことに巻き込まれている気がするんだけど……。ただの夜〇月の真似だと思いたい。
「ということで、転移させるが準備はいいかの?」
「えぇっと……そうですね。あっ、向こうの言葉とか――」
と、私が言いかけたのも束の間。
転移魔法が発動したようで体が光り始めた。
「えっ……ちょっ……まだ話の途中!!」
「ぼりぼり――あー、うまい!」
「残った料理食べてるし!! やっぱ私、神様嫌いですーーー!!」
そう言い残して、私の体は宙に浮くと、しばらくして意識が途絶えた……。
ご読了ありがとうございました。