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襲撃、変生

「料金は一〇五四ゴールドとなります」


換金所で換金し得た銀貨と銅貨を袋に入れて『カード』に保管する。


カードは使用者の魔力を自動で登録するから盗まれても使われる事はない。しかもプロテクトも完璧で一切の解除が出来ない。


さて……初めて自分の力で得た金だけど何に使いましょうか。


「えっと……シルバさんで良いかな?」

「はい、そうですが。何かようか?『黒雷』のゼリアス」


金の使い道に悩んでいると背後から話しかけられる。ため息をつこうとしたがすぐに止めて振り返り、表情には出さないようにしながら冷めた目で背後に立つ黒いローブを着た優男を見る。


ゼリアス・ミストレインボ。黒い雷を自由に振るう様から『黒雷』異名を持つ『上位』探検者で、魔術師の中でも攻撃力に限れば一〇指には入るとされている。


また、人格者のお人好しで困っている人がいると自前のポーションを無料で配っているそうで、市民からの受けもよくその顔立ちも相まって非常にモテる。


事実、私に向けて受付嬢や女性探検者から嫉妬の視線を向けられている。私としてはこんなのと関わりたくないですけどね。


「はは、初日でも僕の名前を知っている何てね。ちょっと驚いたよ」

「別に。ちょっと情報を手に入れていただけですから」


こいつには裏表はない。だからこそ嘘をつくこともないし疑わない。


「それで、何のようだ?」

「いやー……君、僕たちの『クラン』に入らないかい?」

「「「「!?!?!?」」」」


やりやがったな、このクソヤロウ……!


爆弾発言で周囲からのどよめきと向けられる視線に内心怒りを滲ませ、洩れ出そうになる殺意を押さえ込みながらマントに隠れた『ザバーニーヤ』に手を掛ける。


「クランというのは……説明いるかな?」

「不要ですよ」


クランというのは探検者通しで円滑にダンジョン攻略するために結成する集団だ。ダンジョン攻略以外にも、それらに関連する商売に成功したクランもあるが、ここでは省きましょう。


ゼリアスが所属するクランの名前は『古き者たちの図書館』。設立二〇〇年という最古のクランであり所属する探検者の実力は高く、十指の中に入る。


しかし、その入団方法は極めて特殊で最高幹部五人の誰か、またはクランマスターの眼鏡に叶った者にこの六人の誰かが勧誘するのだ。そのため有名なクランでありながら人数は少ない。


その特性と実績、実力から若手探検者からは憧れの的となる事が多い。


けれど、私にとっては良い迷惑でしかない。というか、邪魔です。


冷めきった内心で毒を吐く。


やっと自由になったのに態々檻の中に戻るような事をしたくない。それに、私の楽しみ――殺人をするのに制限がかかる。そんなつまらない事には成りたくない。


「断ります。生憎と私は貴方たちのような人たちに縛られた人生を送りたくないので」

「はは……これは手厳しい拒否の仕方だね」


差し出されたゼリアスの手を払いのけて私は支部の外に出る。


さて……では行きましょうか。


雨の降りしきるフェードの街をフードを被り小走り気味に歩く。


雨は良い。太陽のような残酷な光はなく、雪のような酷薄な風景もない。雨は時に悲しみを写し、その悲しみを作り上げるからだ。


路地に入りすぐの所にある小さなパブ『ヴィンテージ』の前に足を止め、地下に降りる階段を見下ろす。


「ここですか」


ここで、奴隷の販売がされているのですね。


少しだけ笑みを浮かべ魔術を発動させると両腕に獣の手のような形状の水が纏わり付く。


やはり、雨は良い。自分の魔力で水を作らなくても外部の水に干渉して使えば良いだけだから。


鍵のついた扉に手を押しつける。たったそれだけで扉は奥に吹き飛ぶ。


唖然とする広い店内が騒然となるまでの数秒の内で店内に入り、氷で出入口を塞ぎ私は宣言する。


「さあ、宴を始めましょう」


宣言をした瞬間、ここの守りを任されているであろうチンピラがナイフを持って突進してくる。


撫でるように獣の手を振るいチンピラの頭を真横に弾き飛ばし一回転しながらもう一つの手で奥の客を潰す。


チンピラが突き出した剣を体の軸をズラして避け、逆にチンピラの胸を革鎧ごと貫手で穿つ。引き抜き様に体を横断し振り下ろされた剣を飛び退いて回避する。


「ふぅ……」


息を整えると体を沈め床を蹴る。


攻撃が身体に触れそうになった瞬間、横に飛び退き壁を蹴り客を蹴り殺し、殺した客を蹴って違う客を獣の手の大振りの一撃で殺す。


「【宝瓶宮:水線の網】」


客を回し蹴りで殺しながら魔術を唱える。


身体の周りに大きな水の球体が生まれ、そこから細く強靭なロープのように水の糸が伸びる。床、壁、天井に触れた糸は反射し店内を張り巡らされていく。


「足、足が……!足が……!!」

「た、助けてくれ!金ならいくらでもや」

「う、腕が……ヒギャア!?」

「何も悪いことをしてないのに……!」


客も、店員も、チンピラも、奴隷も関係なく網にかかり、体を切り落とされていく。


あぁ……やはりこれが一番良いです。


恍惚な笑みを浮かべながら作られた舞台に立ち故郷の踊りを踊る。


【水線の網】は一撃で死ぬような魔術ではない。 しかし、張り巡らせれた糸に触れたものは問答無用で切り落とされる。操作できる私を除いて。


もしルー=ガルーに使っていれば確実に勝てた……とは言いきれませんが、ダメージを負わせる程度の事は出来たでしょう。使わなかったのは……まぁ気紛れでしたが。


「この……クソアマ!!」


おや、まだ生き残っていましたか。


魔術具であろう杖を構えた店員を見ながら私は嗤う。杖から炎の玉が放たれるが、私に当たる前に消し飛ぶ。


……全く、この程度の魔法で殺されるとは不快ですね。


不機嫌になりながら粘土を片手で捏ねるように水球を操り糸を足に突き刺す。


「なっ!?」


地面に倒れる男の真上から反射した糸が登る。


手に、胸に、喉に、腹に、背に、頭に糸は突き刺さっては反射し、反射しては突き刺さる。


苦しみながら肉塊へと変わった店員に近づき、その頭を凍らせて潰す。


さて……これであと一人ですか。


「ひっ……!」


奥の倉庫に隠れていた恰幅の良い男を引きずり出し目の前に倒す。


恐らく、この店の店主でしょうか。まぁ、どうでも良いですけど。


『ザバーニーヤ』を腰から引き抜き、両足を切断する。


「ヒギャアァァァァァァァァァァァァァ!?」


腕を切り落とし声帯を切り、眼球を抉り、耳を切り落とし、肋骨を砕き、骨盤を破壊する。


すべての攻撃で出来た傷を凍らせて無理矢理止血させると『ザバーニーヤ』を腹に差し込む。


「ガヒュ!?」


空気が抜けるような音をたて男は悶えるため体を氷で床に固定させる。


さて……面白い事になるぞ。


含むような笑みを浮かべながら私は何度も男の身体に『ザバーニーヤ』を突き刺す。


「ギ、ギギ、ギギギギギギギギギギギギ」


次第に男の声は虫の羽が擦れるような音へと代わり、肉体は内側から押されるように膨れ上がり、白かった皮膚は汚れた緑色へと変色していく。


劇薬『タイラント』。取り込んだ生物を異形の怪物へと変化させる最悪の毒の一つ。現在は使用は勿論、製法を知ることすら禁止されている。


故郷の村の倉庫に保管されていた書物から作り方を知っていたとは言え、初めて使ってみたが……うん、気持ち悪い。もう使わないようにしておこう。


見るに絶えない醜い相貌を持った怪物は氷の拘束を打ち破り起き上がると同時に拳を振り下ろす。


振り下ろされた拳が私に振れようとした瞬間、拳は大きく弾かれそのまま怪物は床に倒れる。


「無駄よ。貴方の攻撃は私に通じない」


白く輝く紋様を怪物に見せつけながら目を開いて冷酷に見下ろす。


世界にはごく稀に生まれつき何かしら術式を身体に刻まれている人間が生まれる事がある。それらさ『呪刻子』と呼ばれ、迫害の対象にされる事もあるが、その多くが魔術師として大成している。


私も、『呪刻子』の一人だ。


私の場合、『雨が降っている時、あらゆる攻撃を防ぐ』術式を保有している。ピーキーだが効果は絶大で、炎の玉は触れる前に消し飛び、今の怪物が攻撃を仕掛けてもふれる前に弾かれる程だ。


でも、これはこれで良いですね。これなら、この街で面白い事に出来そうだ。


怪物――『タイラント』の腹を幾つもの氷の塊で吹き飛ばし、壁を破壊して外に吹き飛ばす。


異形の怪物が人の前に現れればどうなるか、決まりきっている。怪物を作り出したのは私だけど、処分は押し付けさせて貰います。


不遜な笑みを浮かべながら魔術を発動し水を纏い周りから見えなくする。


さて、私は特等席で見させて貰いますか。


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