尋問、虐殺、異常
「うっ……いったい何が……!?」
「てぇ……!?」
おや、やっと目覚めたか。準備が終わって暇だったぞ。
ロープで手足を拘束された剣士と魔術師の驚く状況にナイフを手の甲で回しながら微笑む。
さて……起きた事だし始めましょうか。
「テメェ、一体何を……!?」
「自由な発言を許すとお思いで?」
口悪く問い質そうとしてくる魔術師の顔面を軽く蹴る。地面に倒れる魔術師の頭を踏みつけて嗤う。
「生殺与奪の権利は私の手の内にある。貴方たちに自由はありませんよ」
「テメェ……!」
ああ……その表情はいいですね。それでこそ殺さないでおいた甲斐があります。
睨み付ける剣士に向けて邪笑しながら足を下ろす。
「それより、あいつは……」
「斥候か?それならここに居ますよ」
辺りを見回す剣士の足元に置いてある布の包みを持ち上げ、結び目をほどく。
「なっ……!?」
「ひっ……!?」
いい表情です。態々取りに行った甲斐がありました。
首だけになった斥候を見て威勢のよさを失い、恐怖に顔を歪ませる二人の愚者を見て嗤いながら告げる。
「逃げ出したんですから、当然ではないでしょうか?」
「だが、殺すこともないじゃねぇか!!」
「あら、私を奴隷として売る、若しくは汚そうとしていた人に慈悲を与えるお人好しがいると思うか?」
奴隷はこの国では重罪だが、他国では未だ合法である場所が多い。そのため、この国では秘密裏に奴隷商が出入りしており誘拐した人を他国に持ち出し売っている。
その多くは探検者。死が隣り合わせのこの仕事ですぐに居なくなっても誰も不思議と思わない。だから私のような新米を獲物にするのは当然と言える。
卑劣。その上穢らわしく、悪辣。私は奴隷貿易を嫌悪している。私以下の汚く、惨めな邪悪を私は嫌悪している。
そして、それを取り仕切っている連中に荷担している初心者狩りを許すつもりは一切ありません。
「それでは私の質問に答えさい。それ以外の発言を許しません」
「はっ!誰が従うかってのこのクソアマ」
でしょうね。まあ、私がそれを許すわけがないけど。
唾を吐きながら抵抗する魔術師の足に逆手に持ったナイフの切っ先を軽く当てる。小さくできた傷口から出てくる血を見ながら薄ら笑いをする。
さて……そろそろですかね。
「その程度で話す――があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
嘲笑う魔術師の顔は一瞬で歪み、絶叫と共に涙を流す。
ナイフの切っ先から傷ついた場所からどんどん腫れ上がっているのだ、当然と言えば当然だろう。
ナイフを引き、手の中でくるくると回しながら悶え苦しむ男を見下ろす。
「な……!?があっ!?」
「毒だよ。私の魔術具の、ね」
驚愕する剣士の脚にナイフを突き刺しながら説明する。
「魔術具『ザバーニーヤ』。魔力を消費して様々な毒を吸収して再現する魔術具。一端の探検者である貴方なら『クルーシャスの悲劇』を知っているでしょう?」
尤も、今は私の問いに答えれるような状況ではないでしょうけど。
痛みで悲鳴を上げることなく地面をのたうち回る剣士と絶叫する魔術師の姿を見ながら嘲り嗤う。
魔術具『ザバーニーヤ』。世界に一九個しかない魔術具で一つひとつに異なる絶大な効果と代償を持っている。その凶悪な特性からその殆んどは神心教が封印している。私の場合、廃れた廃教会に封印されていたもの封印を解除してに持ち出したのだ。
心神教からしたらとんでもない盗人だが、使われない魔術具の方が空しいだけに過ぎない。
魔力を操作して毒を打ち消し、我に返った愚者の二人は私の顔を睨み付けてくる。
「私の質問に答えなさい。そうすれば命だけは助けてあげる」
「あ、ああ、わかった」
やっぱり、最初に恐怖と痛みを植え付けておけばその後が楽になるわ。
頭を何度も縦に振る二人に私は満面の笑みを向け、細目にしていた目を開く。
恐怖する二人を置いて私は二人に質問する。
「一つ目の質問。奴隷商はどこにいる?」
「た、探検者通りの裏路地、パブ『ヴィンテージ』の地下でストリップショーと麻薬と共に売っている」
「貴族街の酒場『ミーニャ』で最高級のエルフや獣人なんかが売られてる。お前をそこに売ろうとしていた」
『ヴィンテージ』に『ミーニャ』……主にこの二つか。
『カード』の『記録機能』を使って二つの奴隷商の組織の末端を記録する。
恐らく、この裏にいる組織は国際的な犯罪組織である『禁欲の法』でしょうね。あの組織と繋がっていると思われる盗賊を何度か退治したことがあるし、この二つも私がヴェルグの愚物たちに見られないよう隠匿した盗賊たちの送られていた手紙に書かれてあった場所だ。
それに、私の前で嘘をつくことは出来ないですし。
「二つ目の質問。奴隷商たちは手に入れた奴隷をどこに運ぶ」
「帝国だ。ミスレア帝国だ」
「法国。アーベルゲン法国だ」
嘘は……ついていない。
ミスレア帝国はこの国の西側にある大国。権威主義で私のような南方の少数種族を人として扱っていない。末期の国の一つで遠くない未来、確実に崩壊するでしょうね。
アーベルゲン法国はこの国の北側にある小国だが、心神教の宗主国。あそこの権威は他国の追随を許さないほどに強い。まあ、この二つは私の予想通りですね。
さて……これで必要な質問は答えて貰えました。この情報はとても良い。何せ、次の行動が簡単に決まりましたので。
軽くナイフを振り、剣士と魔術師の両腕と両足を切り落とす。そのついでに『ザバーニーヤ』の力で制限した毒を体内に入れる。
後は、この二人をどう惨めに殺すか、ですかね。尋問なんて、ただの遊びにすぎませんし。
「「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」
茫然、そして絶叫。
あまりにも突然の出来事に意識に間が空き、数秒後に毒と切断された痛みで鮮血を垂らしながら悶絶する。
あぁ……!やっぱり命を切り裂く時に出るこの絶叫は病みつきになりそうです……!やっと、待ち焦がれていた食事にありつけたような至福の時間ですよ……!!
悶え泣き叫ぶ二人の愚者を見ながら私は恍惚な笑みを向けながら通路を封じていた氷を解く。
その瞬間、グリーンウルフ、ゴブリン、ホーンラビット、ルー=ガルーが雪崩れ込んでくる。
予め呼び寄せて氷の檻で閉じ込めた。開いた場所に悶絶するご馳走があれば確実に飛び付く。抵抗出来ないようにしておいたから食べてくれよ?
「「ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」」
愚者たちの断末魔を聞きながら魔術で透明になると氷を解除してダンジョンを歩いていく。
さて、さっさと探索を再開しますか。……うん?ちょっとまって?
最初の曲がり角を曲がったところで違和感に気付き足を止める。
えーっと、確かここは『黒き洞窟』の上層部……『下級』にカテゴライズされている場所だった筈だよね。
「マテ、小娘」
なら、何で『上級』の魔物が上層部にいるんだよ!?
壁を蹴るような音と共に振り返り、振るわれた爪をナイフで弾きながら続く蹴りを水の障壁で防ぐ。
「がっ!?」
水の障壁を力業で突破した蹴りを腹に受け大きく奥に吹き飛ばされる。咄嗟に受け身をとり力を減衰させ、立ち上がる。
本気ではないとはいえ、私の障壁を突破しますか……。しかも、この威力……やはり見間違いではなかった。
「威力ヲ減衰サセラレタカ……小娘、中々ニヤルナ」
「まさか、この上層部にルー=ガルーが出現するとは思ってもいませんでしたけどね……!」
距離を取る白い毛皮のルー=ガルーに向けてナイフを構えながら口から垂れる血を拭う。
ルー=ガルー。『上級』にカテゴライズされる魔物の一つで広い空間での群れでの戦闘を好む。人のような姿をしているが頭は狼、身体には毛皮が生えており、一目見ただけで人ではないことが分かる。
カタコトだが人の言葉が喋れ、個体でも高い戦闘技術と身体能力を持つため『上位』の探検者たちですら手こずる相手。それが上層部に現れる何て、どんな異常事態何ですか……!!
「でも、ここで倒さないといけませんよね」
元より、この異質なルー=ガルーは上層部の探検者には荷が重いどころか敵対することすら許されない。見つけるよりも速くルー=ガルーに殺されるからだ。
見逃して惨劇を作り上げるのも良いですが……流石に向こうは見逃してはくれませんし、背中を見せればこっちが殺される。ここで殺しておかなければならない、か。
最高の具材は最高の環境で、最高の腕を持つ料理人が調理しなければ最高の食事にはならない。今は最高の環境ではない以上、このイレギュラーは不要だ。
「デハ、始メルカ――死闘ヲ」
「ええ、そうですね。……さぁ、血に満ちた宴を始めましょうか」
仕方ありません……全力で行かせて貰いますか。