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悪質な勧誘

「……ルーナさん。少し良いですか?」

「んー?なになにー?」


翌日、朝食を食べながら対面の席に座るルーナに尋ねる。


最下級のメイドである私たちの食事はパンに汁物、たまに野菜が出る程度のかなり少ないものになっている。


私としては少し不満だが、貧しい村から来た人たちからすればこれでも充分らしい。


「私の事、青髪の優男に教えましたか?」

「優男……ああ、ドグマさんのこと?」


あの男の名前はドグマと言うのか。


「ドグマさんは友達、というより年の離れた幼なじみかな。産まれが彼の父親の領地でよく遊んで貰ったからね」

「なるほど……」


幼なじみという関係である以上、不本意ながら友人というポジションに収まってしまった私の事を話していても不自然ではないか。


というか、私はあまり容姿や才能で褒められるのは好きではない。何事も実績で褒められたい。


「どんな性格の人ですか?」

「にしし~気になるの?」


私の問いにルーナはニヤニヤとませた笑みをしながら見てくる。


気になるか、と言われれば気になる。個人的には苦手なタイプだが、私の計画において面白い事になりそうだからだ。


だがなぁ……そこまで剣呑な目で見られるのは好きではない。


「……男性としては一切の興味はありません。あくまで絡まれると面倒なので性格を知っておきたいだけです」

「そっか、それは残念」


ルーナは少しホッとしたような表情をする。


まあ、うん。そういう事だろう。自分の幼なじみがいきなり現れた女に取られるのは不愉快だろう。


「ドグマの性格はいたって普通だよ。分け隔てる事なく平等に優しく接していて役人としてもそれなりに優秀。今は主に商業関係の仕事をメインにしている筈だよ」

「そうですか」


愛想のない答えを出して食事を食べ終えて盆を持ち上げて食事担当の人に渡す。宮殿には役人、使用人、貴族、王族とそれぞれに食事を作る料理人が雇われている。


その後、さっさと大部屋に戻りメイド服に着替えると宮殿内の清掃を始める。


商業関係の仕事がメイン……となればルビアか。あの面倒な女に話しかけるのは普通に嫌だからな、積極的に関わりたくない。

指定された宮殿内のホコリを羽箒を使って落としていきながら考える。


宮殿に入って半年はまだまだ新人、そのため普通に外に面した通路ばかりで内部に忍び込むタイミングもない。


それに、薔薇の仕掛け的にも忍び込む事が難しい。魔術具だから解こうと思えば解けれるが、解くとすぐに気づかれる。厄介なものだ。


渡り廊下の掃除をしている際に不意に殺気を感じとる。


それと飛来する矢を魔力を手の先に動かして掌から水の盾を産み出して攻撃を防ぐ。


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「シルバちゃん!?」


五月蝿いな。まあ、人を殴った事もない連中には人の命が狙われた瞬間は刺激が強すぎるか。


殺意があるのから殺してもいい気がするけど、死体の処理が面倒だし放置するとしよう。


それに、まだ行動を起こしていない状況で私の命が狙われた、ということで利益を得るのは一人しかない。


「認識阻害の『結界魔術』でも使えば良かったのでは無いでしょうか、ルビア様」


私を囲おうとしている人だけだ。


何時も通りの笑顔で歩いてくるルビアを見て騒いでいたメイドたちが静まり返る。


「うふふ、やっぱりバレますか」

「貴女しか利益を得る人はいませんからね。……仕方ありませんか」


私が指を弾くと他のメイドたちが何事もなかったかのように掃除を再開する。


やれやれ、無詠唱での『結界魔術』はあまり使えるものは少ない。その中で、一定空間内にいる任意の人物の記憶を改竄することができる【ミッドレイスの結界】を使う羽目になった。

それもこれも、目の前にいる女のせいだがな。


「【ミッドレイスの結界】……『結界魔術』の中でも高難易度の魔術を指を弾くだけで使用しますか。見込んだ通り、素晴らしい才能ですね」

「……才能を褒められるのはあまり好きではありません。それで、何故あのような事を?」

「それは勿論、貴女をメイドとしての格を上げるためよ」


やはりか。


間合いに入り、顔をルビアは両手で優しく触れる。


「おお……美しい」

「まるで絵画のようです……」


気づいたメイドたちの口から黄色に声を漏らす。


宮殿にいる王族の姫の中でも一、二を争い国外ではその美しさから『紅宝石』とも呼ばれる美貌を持つルビア。私もそれなりに整っているの方だという自負はあるし、黄色い声を漏らすのは仕方ないだろう。


まあ、端から見たら美しいが私からすれば怒りと殺意を必死に留めている状態だかな。計画に支障が出ても困るし、ここで皆殺しにしても問題はないからな。


「私は貴女の事を気に入っているの。メイドとしてではなく一人の女として、ね。美しく、それでいて女性的で強靭な身体と賢者の理性を併せ持つ貴女を」

「……あくまで私は農民の産まれ。ルビア様に仕えれる身分ではありません」

「あら、私は身分で人を判断しませんよ?」

「それでも、私は他者のやっかみを買いたくありません」


最下級のメイドは貧民や農民が多いが逆に上のメイドは役人の娘や下級貴族の娘が多い。そこに平民かつ異民族である私が入ったら変なやっかみを買う事は予想できる。


だが、ここで拒否する事は難しい。証人があまりにも多すぎるのだ。


「それで、どうしますか?」


それを見越した上で、この女はこのタイミングを狙ったのだ。

この女がほぼ毎日私の元に来ていたのもこれが理由。私の行動と出会った位置を観察しスケジュールを予測、仕掛けるタイミングを設定、私が攻撃を防ぐ事を見越した上で待機し、衆人環視の中で私を勧誘する。


自らの地位と高い頭脳を利用した勧誘だ。だが、それに乗らせて貰おう。


「……分かりました」

「「「おおおお!」」」


私が諦めたように呟くと周りはどよめき、ルビアは満面の笑みを浮かべる。


「あらあら!やっと折れてくれました」

「ですが、一つ言っておきます。……次に同じような事をすれば、流石の私も怒りますよ?」

「ふふふ、それは分かってますよ?ですが、私は変えません。これが私の武器ですので。それと、昇進の通達は夕食までにはいきますので」


そういってルビアは私の顔から手を離す。


背が私より低いルビアは少し上目遣いで見上げた後、そのまま立ち去っていく。


やれやれ……だが、これで計画を前に前進させることができる。なるべくやっかみを買わないよう行動したかったのだが。


考えながら仕事に戻ると隣に嬉しそうな笑顔をしたルーナがやって来る。


「やったねシルバちゃん、昇進が確定したよ!」

「……そういえば、昇進すると何をするのでしょうか」

「うーん……でも普通なら役人の人たちのサポートをする立場になるんじゃない?」

「そうですか」


まあ、それで良いだろう。そっちの方が計画を手早く進める事ができる。


私としては無駄に上の昇進は好ましくないしな。


「そういえば、ルーナさんは昇進をしたいと思いますか?」

「それは勿論したいよ~。私、このまま宮殿を出ても路頭に迷っちゃうし。シルバちゃんが羨ましいよ、魔術の才能があってさ」


ルーナが少し嫉妬が混じった視線を向けてくる。私としてはあまり好ましくない視線だ。


「そうでしょうか」

「そうだよ。私、何をやらせてもダメダメで、皆から何時も怒られてばかりだったんだ。だから才能を持ってる人が羨ましい。妬みにも近いかな」


妬みね……まあ、魔術なんて道具に才能を求める必要はあるのだろうか。


「なるほど……で、私の事を嫌いになりますか?」

「まさか。シルバちゃんの事は大好きだよ?でも、私よりも見た目も良いし賢いし、さらに魔術まで使えて……羨ましいよ」

「魔術くらいならやり方さえ分かれば誰だって使えますよ?」

「え?」


魔術はどちらかと言えば才能よりも経験と知識、そしてどこまで業を深める事が出来るかが重要になる。才能が関与するのは魔力量だけだ。


「まあ、使えるのと使いこなすのは意味が違いますが。魔術は才能よりも経験と知識、そしてどこまで業を深めれるか、これが重要なんですよ」

「へえ~。それなら、魔術を教えてくれる?」

「無理です。時間が足りません」

「ちぇ~」

「けれど、文字を教えることはできますよ?」

「本当!?」


提案に乗っかるようにルーナはキラキラとした目で私を見てくる。


そういえば、昇進の絶対条件に文字の読み書きが出来るかがあったな。文字の読み書きが出来ればそれだけで良いのか。


「まあ、今日の夜に届く昇進の結果次第ですけど」


ルーナは私の言葉に少ししょんぼりとしながら掃除を再開する。


白薔薇メイドの教育係の補佐にでもなれば文字の読み書きを教える事は出来るけど、役人たちのサポートに回されると確実にこっちに来れる機会は無くなるからな。


「まあ、今は目の前の仕事を一つひとつ、丁寧に消していくのが大切ですよ」

「そうだよね~」


そういって私も羽箒で掃除していく。


だが、不完全ながら計画を進める事が出来たのは上々。それに、面白いものを見れた。


計画の実行時に使うのも面白そうだ。

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