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惨劇開演

ムカつく。ムカつくムカつくムカつく……!


忌々しい神心教の女を引き摺りながら怒りに狂う。


こんな外道どもに触れる時点で汚らわしい。


柱の近くで女を投げる。四肢を切断された女はそのまま地面を転がり身体を動かそうと必死にもがく。


強酸と麻酔……二つを使うことで五月蝿い声を出すことも出血多量で死ぬことも許さない状況を作りだしたのか。ホント、趣味が悪い。


けど、だからこそ愛おしい。


私は恍惚に顔を歪めるがすぐに何時もの無表情に変わる。


いけないいけない。私のこの感情は師匠に知られてはならない。師匠にとって私は呈の良い道具であり共犯者、その立ち位置である時点で普通の関係ではない。


そもそもの話、師匠はどうしようもない殺人鬼だ。私の殺し方とは全くと言って良いほど噛み合わない。まあ、気にくわないだけで否定するつもりはないけれど。


「感謝します、師匠」


私は一度落ち着いて冷静な声音で呟く。


やはり感情が揺さぶられると冷静な口調が抜け落ちてしまう。奴隷だった頃の名残だけど、何時まで経っても慣れる事はない。


私は『タルタロス』から題名の書かれていない本を取り出して白紙のページを捲る。


『魔導書』のスタイルは兵士の詰処から盗んだ書物から詳しく詰めることができた。『魔導書』は基本的に本一冊で一つの魔術しか使えない。その上、執筆の際には一文字一文字に魔力が消費していく。師匠から渡された角砂糖程度の大きさの魔力の塊から際限なく魔力を供給できなければ流石に一冊を書ききることは出来ない。


さらに言うと本が高い。一冊金貨二枚も必要とする。


師匠の使う『刻印魔術』や鉱物などを加工する『加工魔術』の方が遥かに効率的に魔術具が作成可能だ。金も労力もそっちの方が安い。


けど、その反面ほかの魔術具とは比べ物にならないほどの効果が生まれる。とある作家は本の中に生み出した世界を一定空間内に侵食させて自分の都合の良い空間を一時的ながらこの世界に生み出す事ができる。


勿論、私の実力がそこまで達している訳ではない。けれど、術式に割り込ませることぐらいはできる。


「なっ……」


邪魔な神官の服装を引き裂き柔肌と豊かな胸を空気に晒して微かに怒り混じりに舌打ちをする。


この胸で聖女は無理だろ。神官の服装がダブついていて本来の体型を隠すものだとしても普通に羨ま妬ましい。小人族は成人しても普通の人間で換算すると十二、三歳ぐらいの身長までしか成長できない。


まあ、どうだって良い。私は私の魔術をするとしよう。


「何をするんですか……!?」

「君を贄に使う。それだけだ」


私はニッコリと女に笑いかけ、ページに手を置いて詠唱を開始する。


「【黒い歌 終焉の炎 破滅の夜】」


詠唱と共に本から黒い光が溢れんばかりに輝く。


「【築かれた砦は炎に包み込まれ 星空は黒い煙に覆われ 栄華を極めた街は荒れ果てる】」


足元から飛び出た黒い炎は円形に広がり女を取り囲む。


「【即ちこれは悪魔の所業なり】」


地面はひび割れ、周囲の壁から魔力が溢れ出る。


「へぇ……なるほど、これは悪趣味だ」


溢れ出た魔力により師匠の結界が壊され中から二人の男女が一斉に師匠に飛びかかり、すぐさま同じ手段で無力化される。


「【否定せよ】」


私の血管が隆起する。


「【否定せよ】」


私の目から見える世界が赤色に染まる。


「【否定せよ】」


口から鉄の味がする。


「【否定せよ】」


口から溢れた黒い血が地面に滴り落ちる。


「【否定せよ否定せよ否定せよ否定せよ否定せよ!!私は神を汚す者 私は神を否定せし悪魔なり!!】」


猛々しく、荒々しい詠唱と共に周囲の結晶が赤黒い光を放ち乱反射し始める。


あの結晶、魔力の塊のような物だったのか。師匠辺りは気づいていてもおかしくないけど。


「【書の名は【リンボ】!!原罪を浄化しない者の末路 まつろわぬ民たちの終焉の地 永遠の攻め苦とかつての否定!】」


血を呑み込んだ炎は爛々と燃え盛る。


「【我が驚天動地なる秘術を見よ! 忌々しき獣どもよ死に絶えろ! 貴様らの末路はこの有り様だ!】」


天を仰ぎ見るように手を広げ、手から落ちたページは一人でに動いていく(執筆していく)


「【さあ、罪よ 裁かれろ!執筆――完了】」


詠唱の完了と共に周囲の炎は消え光は赤黒い光は消える。


地面で声も出さずにのたうち回っている女を蹴って顔を見せる。


へぇ、私の魔力では足りないからこの女から魔力を絞り取ってみたけどまだ余力がありそう。魔力を無理矢理奪い取ったから激痛でのたうち回っているけど。


そして、


「おっと」


地響きと共に本を回収し女を引き寄せて後ろに飛ぶと同時に黒い炎が柱を呑み込む。


「なっ……!?」

「さあ、始まった」


炎の柱は天井を融かしぐんぐんと真上に向けて突き進む。同時に地面や床、残った天井に血管のような赤い線が走り結晶たちは黒く変色する。


「魔導書としては低いレベル。儀式でありながら素材を使ってないから効果も弱い。そのくせ魔力の消費も激しい。けど、このダンジョンの魔力は反応し活性化する」


ただでさえ、このダンジョンは師匠が呪詛で膨大な量の魔力を汚染していた。その上、私が取り替えたダンジョンコアに宿した黒い魔力によってダンジョンのモンスター生成機能などが諸々が狂っていた。


そこに私の魔力が最奥のコアの近くで発せられ最後の箍が外れた。最早、誰の手も付けられない惨状となっている。


「そして、あのダンジョンコアにあった感情は『ここから出して。この地獄から解放して』といったものだ。それが歪んで曲がればどういう結果になるか分かるか?」

「まさか……!モンスターの地上進出か!?やめろ、それだけは止めてくれ!」

「断る。それじゃあ、私たちは帰るとするよ。ああ、君たちは安全な場所に飛ばしておいてあげるよ」


師匠が水を解除すると同時にジェシカを蹴りとばして気絶させると私は魔導書のページを女に見せる。


女は魔導書のページを見た瞬間黒い光の粒子となり本の中に取り込まれる。


師匠の話だとこの魔術は禁術に指定されているらしい。まあ、私にはどうだっていい話だけど。


師匠は三人に特殊な『刻印』を刻むと同時に消しすと私の側に来る。


「師匠、どのように帰りますか?」

「うーん……あの大穴を使うか。あと、なるべく高台に行こう。どのような惨劇が見れるか楽しみだ」


ホント、悪趣味だ。けど、そこが良い。


「ああ、それと。良い狂気だったよ」

「ありがとうございます」


私は無表情を作りながら内心ガッツポーズを取りたくなる気持ちを抑え込む。


やっと本心から褒められた……!これからも、どんどん魔術を学んでいこう……!


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