表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/40

初心者狩り

『カード』をダンジョン入り口の読み取り機の上に翳し、ダンジョンの中に足を運ぶ。


ダンジョン『黒き洞窟』。百階層にも及ぶ他のダンジョンの中でも類を見ない規模の広さを誇るダンジョン。その広さに加え、モンスターの種類も多く、『下級』から『上級』まで多くのモンスターが出現する。そのため、探検者も多い。


「相変わらず、淀んでいる……」


魔力の淀みは個人的にはあまり好きではない。専門職なら喉から手が出るほど好ましい環境なのだろうが専門職ではない私からしたら、ただ肌に刺さるような感覚がして気に入らない。


けれど、私の好き嫌いと環境は別。ここでの魔術を行使したりして魔力を消費しても外よりも速く魔力を回復できる。


不快感を感じながら薄暗い洞窟のような形状のダンジョンを探索する。


「キュウ!!」

「邪魔」


この程度、武器を使う価値もない。


曲がり角から飛び出してきた額に一本の螺旋する角を持つホーンラビットを蹴飛ばして壁に叩きつけて頭を潰す。


死体となったホーンラビットに『カード』を翳すとホーンラビットは『カード』に収納される。


職員たちは基本的な『カード』の『使用法』を教えるだけで『カード』の機能全てを教える訳ではない。業務に差し障るほどに『カード』の機能が多すぎるからだ。


『カード』のこの『拡張空間機能』を使えば採取のためのバックを持ってダンジョンに行かなくて済む。それを知ったのは一年ほど前だけど。


「さて……と」


そろそろ、ダンジョンも本気を出してくるかな。


地面から皹が入り、皹から細い手が出てくる。慌てることなく立ち上がり、腰のナイフを抜き取る。


ダンジョンにとって私たちは侵入者、侵入者に対してダンジョンは自分の尖兵を向けるのは当然。なら、こうしてくるのも当然と言える。


「「「「ギギギギギギギギギギギィ!!」」」」


皹割れた地面から出てくる緑色の肌を持つ小鬼、ゴブリンに向けてナイフを逆手に持つ。


さて……始めましょうか。


ゴブリンたちが私に向かってくるよりも速く、身体を沈め肉薄し、ナイフで首を切り落とす。


返す刃で別のゴブリンを肩から切り裂き、ナイフを順手に持ち代え近くのゴブリンに左手を伸ばし首を掴み眼球に突き刺す。


「ギギャア!!」


思考が追い付いたゴブリンが爪を振るう。振るう二の腕を掴み、腕を引いて引き寄せ、引き抜いたナイフで喉に突き刺しそのまま下に下ろし両断する。


さて……これで全部か。ゴブリンの群れとしてはそこそこ多い方だったかな。


ナイフについた血と脂を払い鞘に収め、ゴブリンの死体を『カード』に収納する。


さて……さっさと移動しようかな。流石にこの場所では後ろの連中も手出ししてこないだろうし。

ダンジョンの中を歩き、三、四階層ほど降りながら背後を確認する。


人数は三人くらい。歩き方からして剣士一人、斥候一人、魔術師一人と言ったところか。私に向けて欲望に満ちた視線を送っているし、上手く釣れたわね。


後は、人気のない場所にでも連れ出せば向こうから接触してくる。そうすれば後は……お楽しみの時間だ。


蛾のモンスター、ブラックモス。狼のモンスター、グリーンウルフと『下位』の魔物を見つけ次第片っ端から殺し続け、適当な行き止まりにたどり着く。


ここは階層間を繋ぐ二つの階段から遠い。そのため人通りも少ない。……ここなら向こうもやってくるだろう。


「ま、そろそろかな」


背後から放たれた矢を身を翻して回避する。


「【ショックボルト】」


続く雷の魔術を水の障壁で防ぐ。


本来なら水の障壁では雷の魔術は防げない。けれど、極めて純粋に近い水なら防げる。極めて高度な魔力操作技術がなければ出来ない話ではあるのだけど。


「動くな。もうテメェは逃げれねぇ」


はぁ……まあ、別に良いけど。


私に剣を向けて脅してくる男を見て内心呆れを覚えてしまう。


まさか、一番最初に投げられて気絶した男が初心者狩りだったのね。……まぁ、楽しむために相手を選ぶような真似はしないから良いのだけど。


「武器を下ろ」

「生憎だけど、私は貴方たちに従うつもりはない」


死ぬのは、貴方たちだ。


男の命令を遮りナイフを引き抜くと同時に身体を沈め、一気に斥候に接近する。


斥候の矢に当たるのは少々面倒だ、最初に潰しておく。


「ちっ……!!」


斥候の男が弓を捨てナイフを取り出し私のナイフを防ぐ。上に打ち上げて左手の拳で胸を叩く。


「がっ!?」


身体をくの字に曲げる斥候に止めを刺そうと逆手に持ち替える。だが、剣士が後ろから剣を振り下ろしてきたため右に飛び退く。


「【ショックボル」

「遅い」


ナイフを持たない左手を軽く振るう。それと同時に水の塊が顔を覆う。


「ガボッ!?」


斥候の溺れる声を流し聞きしながら男の剣をナイフの刃を滑らせるように受け流して防ぐ。


「なっ!?魔術だと!?」

「何も不思議な事ではない。術式のリアルタイムの操作さえ出来ればこの程度、造作もない」


尤も、言うのは簡単だが、行うのは難しいけどね。それでも、単一の属性の魔術に限れば数年ぐらいで習得できる。


男の大振りの剣を受け流し、隙を見て押し込む。たったそれだけで男は地面に倒され、転がっていた石に頭を打ち気絶する。


はぁ……この程度か。予想できていたとは言え、この程度だと本当に味気ない。


指を弾き、失神した魔術師が地面に崩れ落ちるように倒れる。地面に倒れる二人に水属性の魔術の派生、氷の魔術で拘束する。


さて、後は斥候だけ……と、逃げてるか。流石に実力の絶対的な差を見抜いたか。けれど、甘い。魔術師相手に逃げるのならもう一工夫しなければ逃げたとは言えない。


地面に落ちている弓を拾い上げ、壁に刺さっている矢を引き抜く。


ふむ……状態が悪いな。ろくに整備していないわね。弓や剣と言った武器は常日頃から整備しなきゃ。まあ、武器の状態は関係ないけどね。


弓に矢を番え、奥の暗闇に向けて矢を離す。矢は速度を保ったまま暗闇の中を一直線に進んでいき、見えなくなる。


久々に魔力を用いた自動追尾の魔術を使用したな。基本的に使ってもヴェルグの愚物たちが大体打ち負かすから意味なかったからね。


……それと、口調が安定しないな。さっきのような無愛想な口調と支部の喧嘩の際のどこか落ち着いた口調と、二つの口調が入り交じってる。多分、あいつらとパーティーを組んでいた時間が長くて口調の区別が難しくなったからでしょう。


まあ、少しずつ慣れていくしかありませんね。


「さて、と」


弓をへし折り地面に倒れる二人を拘束していた氷を解除して二人を壁まで引きずる。


後はお楽しみの時間としましょうか。ふふ、とても楽しみです。そのための準備もしないとね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ