最奥の闘い
「はああっ!!」
接近してきたジェシカの太刀を身体を逸らして躱しながら水を纏った拳で殴り付ける。
制御された衝撃がジェシカに響くと同時に大きく吹き飛ばされる。
「やああっ!」
すかさず背後にいたリューズの杖が振るわれる。
『シルバーサン』で流れるような動作で振るわれる杖を受け流し魔力を操作、水の刃を振るう。
リューズは杖を水平にして水の刃を防ぐ。威力で少し身体を後退りしたところで後ろに下がり、腰袋からピンクの心臓を取り出す。
すかさず回り込んできたジェシカに向けてアンダースローで投げる。
「『カースハート』」
「ッ!?」
私が名称を告げると同時にジェシカの顔の前に来ていた心臓が爆発、黒煙と黒い炎が広がる。
「ぐっ……!」
左腕に火傷を負い痛みに顔を歪めたジェシカに向けて水の矢を放つ。
ジェシカはギリギリのところで顔を逸らす。水の矢は頬を掠め後ろの壁に風穴を開ける。
へぇ、咄嗟の判断で後ろに飛び、尚且つ腕で顔をガードしたことで致命傷を避けたか。なるほど、実力は確かにあるということか。
突き出された杖を躱し左手に持ちかえた魔術具を振るいリューズを弾く。
僅かに怯んだところに回し蹴りを放つ。
「がっ!」
リューズは真横に凪払われ何度もバウンドする。
すかさず水の矢を向けるがそこに刀が振り下ろされる。
魔術具を逆手から順手に持ちかえて刀を受け止めて流す。
体勢が崩れたタイミングでジェシカを蹴りあげる。
ジェシカはギリギリのところで刀を垂直にして防ぎ、返す刀を振り下ろす。
ちっ……!
魔力を操作して作り上げた水の盾でジェシカの刀を防ぎ同時にジェシカ蹴りとばして距離をとる。
ジェシカが少し後ろに動いたタイミングで取り出した心臓を投げつける。
「はっ!」
ジェシカは呼気と共に刀を振り下ろし心臓を両断する。
それを見ると同時に私は口角をあげる。
最初に爆発物だという思い込みをさせることで簡単に私の罠に引っかかったな。
「ごふっ……!?」
口から黒い血が流れると同時にジェシカの口から血の塊が吐き出される。
驚愕したジェシカに魔術具を持ちかえながら接近しジェシカ目掛けて振り下ろす。
「ジェシカ!」
頭に触れる直前、リューズが飛び込んでくる。
杖の先端が軌道に割り込み魔術具が金属音と共に弾かれる。
くそっ、良いタイミングだったんだがな。
「ごほっ、ごほっ……!くそっ、何だ今の……!?」
「魔術具『カースハート』。人の心臓を生きた状態で加工した外法の魔術具です……!」
「ご名答」
よく分かったね。まあ、見た感じリューズがこのパーティの頭脳と呼べる人間だろうからこの外法については知っているか。
「人間の心臓に『刻印』して爆発するようにした軍用の魔術具。しかも、これは『呪詛魔術』まで仕込んでいるのですか……!?」
「心臓を『刻印魔術』で『生きた状態』と定義することでそれを破壊した者を『殺害した者』と定義させて呪う。面白いだろ」
本来の用途は死体の活用。野戦病院で死んだ兵士を加工して爆弾に変えることで有効活用しようというコンセプトだな。
まあ、色々と非道だったため『死霊魔術』と同じく禁術扱いされてるけど。
「外道め……!どれだけの人間を殺めたのですか……!?」
「さあね。顔も覚えてない」
私は地面を蹴り二人に接近し魔術具を逆手に持ち振り下ろす。
二人は地面を蹴って躱しジェシカはすぐさま地面を蹴って接近する。
呪われているのによく動けるな。私としても少し予想外だ。
「アアアッ!」
咆哮と共に放たれる突きをバックステップで躱しながら片手を腰袋に入れる。
「【光よ 癒しと共に」
ッ!!させるか!
地面から生えている結晶をリューズに向けて蹴りとばす。
飛ばされた結晶はリューズ目掛けて一直線に飛ぶがリューズは結晶を足場に跳躍、私に向けて接近してくるジェシカに照準を合わせるように手を向ける。
「浄めよ】!」
詠唱の完了と共に放たれた光の線がジェシカに直撃すると同時にジェシカの周囲に纏っていた呪いが浄化される。
ちっ……!流石、神心教の信者、神の奇跡とまで言われている『治癒魔術』の発展、『浄化魔術』も使えるのか……!
「身体が軽くなったなあ!!」
けど、それだけで私は倒せない!
間合いに入ると同時にジェシカが刀を振り下ろす。私は振り下ろされる刀を魔術具で横に薙いで弾きもう片方の手に水を纏わせ拳を握り殴り付ける。
「水拳」
「それはもう見た!」
ジェシカは膝と肘で水拳を挟み込む。
なるほど、これなら衝撃を拡散させる水拳を封殺できる上、私を固定させることができる。
「リューズ!」
「はい!」
リューズがジェシカの背を踏み台にして跳躍、杖を大きく振りかぶる。
見事な連携。示しあわせておらず、互いの行動をカバーできている。しかも、片方は殆んど前線で戦わない【ヒーラー】だ。称賛に値する。
けど、残念。
私は拳を開けジェシカの膝を掴む。
「【爆】」
私は『刻印魔術』なら何だって使えるんだよ!
膝に術式が刻まれると同時に膝から小規模の爆発が起きる。
「ぐっ!?」
爆発の衝撃と痛みで力が緩んだところでジェシカを蹴り反動で振り下ろされる杖を回避する。
「なっ!?」
すかさず照準を合わせ水の塊を作り出しリューズに向けて発射、リューズの腹に直撃する。
「がっ!?」
リューズは大きく吹き飛ばされ何度も地面をバウンドする。
最速の軍用魔術【爆】、を改造して『刻印魔術』にした。瞬間的な爆発力で推進力を手に入れることもできるが、こういった緊急回避にも使える。
本来なら近くの空気に刻んで使うけど身体が近くにあるのなら話は別。直接刻んで発動させた方が圧倒的に速く威力もある。
「あ、ああ、足がああああああああああああ!?」
「ごほっ、ごほっ……!ジェシカさ……!?」
ジェシカの絶叫と共にジェシカを見たリューズは息を呑む。
膝関節が爆破されたことでジェシカの片足は千切れて地面に落ちているからだ。
私が肉体に『刻印魔術』を使うことができる時点で攻撃性の『刻印魔術』を予測しておくべきだったな。まあ、禁術に拘っているように見させていたから無理もないけど。
「貴様あああああああああああああああああ!!」
リューズが叫ぶと同時に杖を握りしめ私に接近してくる。
怒りが籠っているな。けどな。
私は『シルバーサン』を鞘に戻し『ザバーニーヤ』を取り出して間合いに入り込んで振るう。その瞬間リューズの四肢が切断される。
「……えっ?」
リューズは驚きのあまり口をあんぐりと開けて地面に倒れる。
傷口からは血が流れることがないがピンク色のものが溶けている。
強酸性の毒液と超即効性の麻酔。すぐには死ぬことがないのは救いなのかどうか分からないけどな。
「リュー……ズ……!ジェ、シカ……!」
「リューズさ……ん!ジェシ……カ……さん!」
ああ、向こうの身体も少しずつ元に戻っているのか。少し邪魔をしないでもらいたいな。
「【鳥籠】」
術式が展開されると同時に透明な壁で倒れているリュウとツキシマを隔離する。
さて、これで邪魔は入らなくなったな。
「お前ええええええええええええええええええええええええええええええ!」
ジェシカの絶叫と共に背後を振り向き投げつけられた刀を弾き飛ばす。
そういえば、貴方もいたんだ。邪魔しないで。
投げた反動で地面に倒れたジェシカの残った手足を水を押し付けて拘束する。
「何を……するつもりですか……?」
「簡単だよ。おーい弟子!」
「……何のよう?」
私の呼び掛けと同時に一通りの作業が終了し終えたシルフィがこちらを向く。
仮面の術式は私が遠隔で解いておいたから私以外にも見えているはずだ。
「そっちの手筈はどうだ?」
「……万事順調。そっちは?」
「一人完全な無力化。もう一人は拘束してる。どうする?」
「……無力化している方は貰っても良い?見た感じ神心教だし私の復讐の助けになる」
「復……讐……?」
リューズの髪を掴み上げたシルフィは冷徹にリューズを見つける。
「そうだ。五年前、聖戦に協力しなかった異端としてただ戦を嫌っていた私たちの村を焼いたお前らを私は許すつもりはない」
五年前、聖戦……ああ、あれか。あれは私とは関わりがなかったけど何かしらあるのだろう。
「何を……神心教に従わない法国の民など、人ですらない……!」
「そうだよね。だから、私は法国を消す。神心教も消す。あの忌々しい神を信じる者共は全員、この世から消してやる……!」
なるほど、それがシルフィの動機か。
「だから、私はお前を儀式に組み込む。……別に良い?」
「構わない。それじゃあ、私はこっちを貰う」
そういってシルフィはリューズを引き摺って中央の柱に向かう。
さて、私は。
「くっ……殺せ!ここで殺せ!」
「殺さないよ」
やれやれ、これだと死ぬことが本望みたいになってしまうな。それはつまらない。
ここで二人にするつもりだったけど三人にしてしまうか。
私は落ちていた足を持ち上げる。
「【結びて呪え 編んで祝え 供物を代価に癒されよ 供物を代価に呪われよ ああ、悪夢に際限はない】」
術式が足全体に伸びると黒い炎と共に燃える。
同時にジェシカの傷口から黒い炎が灯り、次第に炎は足の形になっていく。
【ノロイノニエ】。本来なら儀式場を必要とするがそれは私にとったは必要としない。
「うそ……だろ!?」
「【ノロイノニエ】。良い『結界魔術』だ」
炎が消えるとジェシカの傷口から新しい足が生えていた。しかし、その足は元の足とは全く違う。
足には黒い百足のような痣が浮かび上がり、たまに蠢いている。
さて、魔術は完了したけど効き目がこのタイミングでは分からないのが難点だけど……ま、今はそんな事は良いか。
それよりもシルフィが私の作り上げた儀式をどう改造するか、それが楽しみだ。




