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厄災の下準備

着地と同時に足の裏に滲むような痛みを感じる。


流石に百階層近くを飛び降りればそれなりの衝撃が入るか。


「師匠、フレキシブルな術式操作はどうやってるんですか?」

「単純だよ。術式に数を当てはめるだけだからな」


脇に抱えたシルフィの問いに答える。


術の出力、効果範囲、属性、特性と言った情報を文字や模様以外に数字を取り込む事で数字を変動させるだけで術式を変えることができる。


まあ、かなり難しいけど。


「とりあえず、数の計算はこれからの課題としよう」

「ううっ……」


さて、目的の場所から少し外れたか。まあ、誤差の範囲内か。


水の術式を操作して単眼の巨人をズタズタに切り裂き『カード』に収納する。


最下層のモンスターでもこの程度か。エンカウントするのも面倒だし少し探るか。


水の糸を壁全体に張り巡らせ階層全体の情報を獲得する。


……お?これは……。


私は探査した状況を理解すると同時に気配を変える。


「師匠……?」


気配の変化に気づいたシルフィが不安そうに見上げてくる。


「連中がついさっき、百階層に降りた」

「ッ!?……妨害、する?」


そういうとシルフィは懐から本を取り出す。


私はそれを手で制止させる。


確かに、『魔導書』を使えばそれはそれは面白い妨害が出来るかもしれない。


けど、それだと相手にシルフィの手の内が知られてしまう可能性がある。それは非常につまらない。


それに、今回生かすのは少なくとも二人だけなのだから『事故』ではなく『事件』にしなければならない。


「いや、しなくていい。向こうが目的地に着くまでに多少の時間があるし、最後のセッティングをしておいた方が良い。これを被って」


私は『カード』から二つの狐の仮面を取り出してシルフィに渡す。


「認識阻害を『刻印』した仮面だ、これで私以外の他の生物には認識されない」

「分かりました」


私はシルフィから腕を離して仮面を被り、壁に触れる。


さて、始めるとしよう。


「【刻み込まれるは滅びの叙事詩 終末に降り積もる呪いの雪 罪を嗤え 罪を嘆け 悪徳をここに再現せよ】」


【悪逆挽歌】と。


詠唱を終えると同時に壁に血管のような術式が『刻印』される。


まずは閉じられていた呪詛のを活性化させる【刻印魔術】を起動。ホント、【呪詛魔術】に適性があればもっと簡単に使えるんだけどね。


「【水の調 水面の波 即ち繁栄と衰退 永久の否定 流転の象徴 その理を体現せよ】」


【盛者必衰】と。


刻まれた術式の上に円形の魔法陣が刻み込まれる。


でも、【刻印魔術】の側面を持つ魔術であるのなら私はどんな魔術でも使える。これはメリットだ。


「師匠。師匠は何でそんなに極大の魔術が簡単に使えるの?」

「まあ、気になるか」


【盛者必衰】は所謂『都市喰い』と呼ばれる呪詛で疫病から戦争まで様々な厄ネタを引き寄せる力がある。解呪も非常に困難を極める上に効果も絶大、それこそこの魔術が発動すれば一年以内に都市が消えるほどだ。


けれど、その代償に長い準備期間と貴重な触媒を数多く必要とする。


私のように詠唱だけで発動できる時点で異常なのだ。


でも、何事にだって例外は存在する。


「それは簡単だよ。私の魔力は極めて特殊な性質を宿しているからだ」

「特殊な……性質?」

「【宝瓶宮】。私が生まれつき持っていた『十二宮』の一つと目される特殊な魔術だ」


大聖堂から強奪した資料によると、生物の中には稀に生まれつき特殊な魔術を行うための術式を持つものがいる。そういう人が使う魔術を教会は『生得魔術』と呼んでいる。


その中でも全世界で十二個しか確認されていない特殊な魔術。使用者の身体や他の魔術にも影響を与える特性を持ち、その特性から教会が躍起になって探している魔術。


それこそが『十二宮』。


「私の【宝瓶宮】の特性は『無限の魔力』と『魔術の簡略化』。尽きることのない水瓶のように、私の魔力に限度はない」

「魔術師としては反則では……!?」


背後で作業しながら驚愕したように驚くシルフィの言葉通り、【宝瓶宮】は魔術師として反則そのものと呼べる特性だ。


『無限の魔力』はどんなに魔術を使っても魔力が尽きないためにどれだけ魔力を食う魔術でも完全に使いこなせる。


『十二宮』の共通項、『魔術の簡略化』は大半の魔術的な儀式で触媒を必要としなくなる。まあ、【邪悪収集】や『軍用魔術』、【ジョリーロジャー】何かの一部の魔術ではまだ触媒や素材を必要とするけどね。


「けど、他の『十二宮』と比べればまだマシだよ。他の『十二宮』は純粋な戦闘能力に関係するからね」

「……何でしょう、魔術の深さが垣間見えた気がする」

「まあ、話を進めるより下準備を進めるよ」

「……分かった」


そういってシルフィは再び作業に戻る。


さて……これで呪詛の活性化に内部の魔力の汚染、更には都市喰いの呪詛を刻み込んだ。


これで後はシルフィの作業が終われば下準備は完了だ。


向こうもモンスターたちと戦ってコアまでの道を妨害されてるし、問題ないか。


さあ、開演まであと少し。あと少しで、惨劇が始まる。


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