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『反転』

「そういえば、何故師匠はどうして魔術を覚えたんですか?」


昼、二人に魔術の指導をしているとシルフィから質問をなげかけられる。


魔術を覚えた理由ねぇ……。殺人の効率化のため、だなんて言えないしなぁ……。


「まあ、偶然魔術の教本を貰えてね。興味を覚えたからそこから魔術にのめり込んでいった、と言ったところかな」


嘘は言ってない。


魔力を動かし、水の玉を生み出して動かしてみると二人は興味深そうに玉を目で追いかける。


「それでは、魔力と言うのはどうやって制御しているか分かる?」

「確か……イメージ、でしたっけ?」

「その通り」


指を弾くと水の玉は弾け、水飛沫が草の生えた庭に落ちる。


「魔術に詠唱や儀式があるのはイメージが難しかったり初心者でも使いやすいように調整されていたりするから。特に、私が使う結界魔術はその典型例みたいなものね」


結界魔術は様々な情報を書き込まなければならない。そのため、水属性魔術のようにイメージだけでは使用できない。


そのため、詠唱やら触媒やら、手順が必要となってくる。【宝瓶宮】は……正直に言ってよく分からない。あれはオリジナルであり、オリジナルではないしな。


魔術の教本を手に取り、パラパラとページを捲る。


とりあえず、今日教えるのはこの辺りの内容で良いかな。


「今日教えるのは『反転』かな」

「『反転』……うちに来た探検者がよく口にしている言葉だった筈です!」

「探検者の中には魔術を行使する人もいるからな。そいつらが口にするほど、ポピュラーなものとも言える」


『カード』のボード機能を起動させるとそこに四属性の相関図を描く。


「まずは復習。四つの属性を答えなさい」

「火は風に強く、風は土に強く、土は水に強く、水は火に強い、ですよね?」

「その通り。よく学んである」

「エヘヘ……」


頭を撫でると嬉しそうににやけるセルディ。頭から手を離し、四つの属性の文字を書いて丸で囲う。


「それぞれの反対に位置する属性、これは魔術師の中では比較的あるのだけどこの二つの属性を自由に扱える人がいる。これが『反転』と呼ばれている」

「あ、じゃあ探検者たちは……」

「そう。得意とする魔術の反対の属性の魔術も使える、ということになる」


無論、二つの属性を操れる魔術師はそう多くない。三つ、四つの属性を操れる魔術師は歴史上でもごく僅かにしかいない。


だが、ここからが本編だ。


「だが、系統外魔術はこの『反転』の特性が一気に変わる」


ボードに書いた絵を消し、大きく系統外魔術と書く。セルディは手を上げ、


「あの、系統外魔術はなんですか?教本にも書いてませんし……」


と質問してくる。


私は思い出したように少し間を空けて答える。


「……ああ、普通の魔術師は殆ど目を向けないからな。教本に載ってないのも無理はない」


系統外魔術を使うのは一部の専門家だけだ。そのため、通常の教本には載ってない。


「系統外魔術はその名前の通り、四つの属性に分類されない魔術の事を意味している。そのため、種類も豊富であり、適性も多い」


私の【刻印魔術】や【結界魔術】は勿論、【改造魔術】や【回復魔術】、【呪詛魔術】なんてものもあり、専門性がとても高い。


「この魔術において、通常の魔術以上に才覚や心の性質が必要となってくる」

「才覚……?」

「そう。普通の魔術は練習すればそれなりに使える。しかし、系統外魔術は違う。同じ魔術でも人によって若干の違いがあったりする」


私の【結界魔術】や【刻印魔術】だって、私の場合はこういった形になっているだけで、他の人間が同じ魔術を使えば別の形に変わる。


故に、系統外魔術は『術者の心の鏡』と言われているのだ。


「魔術に何を求めるか、それが系統外魔術の適性となりやすい。……そうね、少し見た方が早いか」


確か、それを見るための道具を持っていた筈だがら。


『カード』を操作して一つの石板を取り出す。石板には幾つもの円が重なり、その中に蛇や竜、馬と言った生物の紋様が、円の周りには文字が描かれている。


『カード』と同じくらい便利アイテムで教会が保有していたものだ。非常に便利だったため、教会の食事に毒を盛り、教会の人間を全員毒殺して回収したものだ。


直接ナイフを持って殺すよりも遥かにつまらなかったけど、それに見合うだけの成果があったと考えれる。


「それはなんですか?」

「『アインソフ』。系統外魔術の適性を調べる魔術具。さあ、この石板に手を置いて」


私が差し出した石板にセルディが少しビクヒグしながら手を置く。その瞬間、石板に刻まれた線が紅く光り始める。


「ひゃあ!?」

「手を離すな!」


驚いて手を離そうとするセルディに怒鳴り付けるとセルディは身体を硬直させる。


それと同時に紅い光は空中で文字の形になっていく。


「【回復魔術】と【製薬魔術】。それが貴女の魔術となる」

「へぇ……治療院とかに勤めれそうですね」

「まあ、そっちの分野に生かすのならな」


まあ、あまりしっくり来るものではないだろう。


私だって、いきなり『貴女は明日死ぬ』何て言われたらどれだけ真実だと訴えても嘘だと思ってしまう。


だが、【回復魔術】と【製薬魔術】はそこまで使い手がいない魔術だ。治療院に一人か二人、いるくらいのものだ。探検者の回復特化の人もそう多くない。


稀有な才能だけど……極めるのは極めて難しいけどね。


「それじゃあ、次はシルフィだな」

「はい」


セルディと交代しシルフィは石板に手を触れる。紅い光がセルディの時と同じように光始め、空中に文字が現れる。


その文字を見た瞬間、目を細める。


「……【魔導書】か。これはまた、とんでもないものが出たな」

「……?そうですか?」

「ええ。非常に、珍しく稀少な魔術。世界でも数人しか使い手のいない魔術」


私が持つ奥の手も『魔導書』の一種だけどまさか、ここでそれが出るか。こいつの復讐に繋がるか分からないけど、まあ別に良いか。


『アインソフ』を『カード』に戻すと先程のボードを出して説明する。


「系統外魔術の『反転』はこの魔術の性質が逆転する。簡潔に言えばそうなる。無論、逆転するものとしないものがあるけどな」

「えっと……それじゃあ、私の魔術の場合……『傷を癒す』魔術が『傷を悪化させる』魔術になる、ということですか?」

「そうなる。無論、これにも通常の属性魔術と同じ理論が適用される。それじゃあ、ここからが宿題。『反転』の理論を具体的な例を交えて纏めておきなさい」

「「はーい……」」


死んだ魚の目で答える二人を見て少し笑うと私は立ち上がり、部屋から出る。


さて……と。ここからは私は後始末といきましょうか。


悲劇を思い浮かべると私は自然と声を堪えながら笑い始める。恍惚に頬を朱色に染めるとマントのフードを被る。


さあ、悲劇を結末に至らせましょうか。


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