血の宴 上
夜、全てが寝静まった頃。私は宿を出る。空には月は出ておらず、照らすものもない中、疾走する。
静かな、照らす月がない夜というのは本当に良い。何せ、惨劇を生み出すのにちょうど良い。
「おい、おま――」
巡回する兵士の首を『シルバーサン』で切り落とし、近くの兵士に指を向けて指を弾く。
その瞬間、兵士たちの足元から水の刃が放たれ身体を切り裂かれる。
殺戮の邪魔をされては困る。故に、兵士たちは全員、消えてもらう。
死体から流れる死体から血を拝借し円を描き、文字と数字を書き連ねる。
「【クサリバコ】」
術式が刻み込まれた地面に手を置き、魔力を流す。刻み込まれた術式から血色の鎖が出現し死体に繋がると街全体に散らばる。
私は系統外魔術が『結界魔術』と『刻印』しか使えない。二つとも直接的な戦闘力は皆無だが、じっくりと時間がかけられる時なら、絶大な力を発揮する。
【クサリバコ】は『系統外魔術』の中でも極めて危険かつ凶悪な特性がある。その特性から教会が禁忌として『禁術』の認定をしている。
「さて……これでよし、と」
血色の鎖がなくなったのを確認すると再び疾走する。
領主の館を守っているのは私兵、つまりは傭兵である事は知っている。だからこその【クサリバコ】……異端の『結界魔術』を使ったのだけどね。
領主の館の門を挟むよう両隣にいる私兵の一人に狙いをつける。気配をゼロにして高速で接近し談笑する私兵の首を魔術具で切り裂く。
門の細い格子を蹴り、いきなり同僚の首が落ちて呆然とする私兵の首を『サバーニーヤ』で切断する。
二つの首が地面に落ち、身体が崩れ落ちるのと同時に着地し、門の鍵を砂に変えて開ける。
【破魔結界】により魔術具は完全に無力化されている。本来不審者としてアラームがならされ、兵士たちや私兵が来る筈だがそれはない。
この街の兵士たちは全員【クサリバコ】で死んでるし、アラームは【破魔結界】で壊されてる。私を阻むものは、殆んどない。
「ちっ……あの剣士たちとやりあって見たかったが、流石にいないか」
離れを確認しに行き、閉じられた扉を蹴り跳ばす。
だが、万が一の事もあるし、邪魔されたら困るし封じておくか。
「あ、貴女!いったい何を」
離れに術式を刻み起動させているとやって来たメイドが声を出す。
咄嗟に振り返り、地面を蹴って接近すると同時に両目を『ザバーニーヤ』で切り裂く。悲鳴をあげさせる間も無く順手に持った『シルバーサン』の突きで喉を差し込む。
『ザバーニーヤ』の猛毒と出血多量ですぐにメイドは死に、地面に倒れ、痙攣しながら生き絶える。
無抵抗だろうと非戦闘員だろうと関係ない。惨劇のための礎となって貰おう。
魔術具に付着した血と脂を手の甲で拭うと本館に入り、手の甲を扉に擦り付ける。
「【鳥籠】」
血が蠢き術式を作り上げた瞬間、開けられていた全ての窓が閉じていき、外に繋がる扉が閉められていく。
そして辺りにいなかった人たちが次々に屋敷の中に転移していく。
『結界魔術』の禁術の一つ【鳥籠】。建物を『籠』とする事で建物を簡単な檻へと姿を変えさせる。
これが禁術に指定されたのは縛り付ける存在を刻む事でそれが真実になるように事象を改編する事だ。あらゆる結果、概念を無視して閉じ込める存在を閉じ込める。それこそが【鳥籠】が禁術に指定された理由だ。
だが、これは本当に使い勝手が良い。何せ、標的を一つの建物に押し込める事ができるのだから。
「シエンさん!どこに行っていたのですか!?」
「ええ、少々用事がありまして」
ずかずかと近づいてくる侍女頭が手で顔を叩こうと振り上げる。
合わせるように逆手に持った『シルバーサン』で振るい、腕を切り裂く。
「ひぎぃ!?」
悲鳴をあげよろめく侍女頭の身体に氷のナイフを幾つも突き刺すとすぐに息を止め。床に倒れる。
「貴女方には死んでもらいます」
顔に付着した返り血を拭うと跳躍して階段の上に立ち、マントのひれで弧を描きながらくるりと回転する。
血で濡れるは惨劇なり、全ての血は私の杯に注がれる。
「さあ、血に満ちた宴を始めましょう」
妖艶な笑みを動揺が広がるメイドたちに向けると階段から落ちる。階段の段、その角を蹴り高速で近くのメイドに接近し二振りの魔術具を振るう。
「「「「キャアァァァァァァァァ!!」」」
刹那のうちに五人のメイドの身体が切り裂かれ床に倒れると、動揺は絶叫に変わる。
逃げ惑うメイドたちを殺すと二つの魔術具を腰に携えた鞘に納める。
こんな手法ではダメだ。つまらない。もっと楽しめる方法でないと。
「な、何で!?何で開かないの!?」
「貴女たちは既に籠の中の鳥だから」
扉をガチャガチャさせるメイドの心臓を背中から貫手で穿ち、残りも爪で切り裂く。
血飛沫の中を満面の笑みで通り、窓やら扉から脱出しようとする者たちを殺していく。
【鳥籠】のもう一つの特性はその永遠性。一度発動すれば周りの人間が無意識、かつ微弱に放出する魔力を取り込み半永久的に作動し続ける。それは極めて強固でろくな魔術では破壊する事は出来ない。
「た、助けてくださ」
「そう言って、助けなかったのは貴女ですよね?」
命乞いをしにきたメイドの首を手刀で切り落とす。
正直に言おう。私はヒューマンが嫌いだ。傲慢で、愚かで、多くは自分の常識から外れた存在を忌み嫌う。こんな下らない種族がこの世界でのさばっているのは好きではない。
もし、獣人ならどうしていただろうか。多くが好奇心の塊とも言えるあの種族なら身体の違い、身分の違い何て気にしなかった。
もし、エルフだったらどうしていただろうか。多くがプライド高いが優しいあの種族なら身体の違い何て受け入れるだけの器の広さを持っている。
ただ数が多いだけの人間が、ただ見た目が少し違うだけの私達を虐げる。生きていると実感を無理矢理失わせる行い。
誰かを殺す事でしか生きていると実感できない私に対する冒涜に等しい行い、それを傍観していた連中など、容赦はしない。
皆殺し、それ以外に道はないと知れ。