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魔術の基礎

「下で何かあったんですか?」


あー……あれを見てきたのか。


「別に、どうもしてないよ」


うん、何もなかった。そう言うことにしておこう。


用意した簡素な栗色の服に着替えながら問いかけてくるシルフィの質問にベッドに座り、答えながら『カード』から幾つかの書物を取り出す。


これらの書物は私が個人的に手に入れた魔術の教本だ。基礎的な内容はこれらに書いてあるから使い勝手はそれなりに良い。


「そういえば、種族は何だ?見た感じ小人族のようだが……それであってる?」


目を開き魔力を視認しながら私はシルフィに問い返す。


魔力は年齢によって量が増えたり減ったりする。シルフィの魔力量は体格からではあり得ない程に多い。それを納得させるのが小人族だ。


「えっと……はい、あってます。よく分かりましたね。……師匠?何で驚いているんですか?」

「……失礼。私も当てずっぽうだった」


流石に、この目のことは言えない。目は私にとっての切り札の一つ。裏切る可能性は低いとは言え、流石に教えることはできない。


目を見開き口に手を当てて驚くふりをする私にシルフィはジト目で見上げてくる。その隙にシルフィの情報を脳内で纏める。


ボサボサの髪の色は薄汚れた金色、二重の目の色は赤褐色、体格は小人族の基準で肉付きが良い、肌が少し青いのは少女の体調がまだ良くないからだろう、顔つきは十歳前後だが、魔力の量から恐らく一三歳くらいだろう。


情報を纏め終えると、膝を組み床に座るシルフィを見下ろす。


「魔術を教える前に、魔術と言うものがどのようなものか教え――!」

「えっ!?」


扉の奥から覗き見ている気配を察知し腰に着けた『シルバーサン』を引き抜き様に投げつける。


魔術具は扉を貫通し、壁に刺さる音がする。それと同時に床を走る音が聞こえる。


逃げるか。けど、逃がすつもりはない。


床を凍らせて覗きの足を凍らせると呆けているシルフィを蹴り飛ばし顎でしゃくる。


シルフィは慌てて部屋の外に出て、すぐに黒髪のウサミミの少女を連れてくる。


「え、ええ!?」

「……人が借りている部屋を覗くとは良い度胸だな、クソガキ」

「ひっ……!」


私が軽くドスを利かせ殺気を向けると少女は腰を抜かし床に尻餅をつく。


ふむ……なるほど、確かにこれは使いものにならない。


「まあ、良い。元より貴女の両親からの打診だもの」

「ひゃ、ひゃい……!」


殺気を和らげ膝をつき、少女の顎を指で軽く上げると少女は顔を赤らめてそっぽを向く。


「師匠、どういうことですか?」

「簡単な話よ。このガキも私の弟子になっているの。さっきのは……まぁ、気にしないでおいて」


年齢は一三歳くらいか。多感な時期ではあるが、シルフィや私の例からするとかなり普通の部類になる。


まあ、私たちが普通じゃないのだろうけど。


「それで、名前は?」

「ひゃい!セルディ、セルディ・リーン、一三歳です!」


少女は顔を真っ赤にしながら俯きながら自己紹介する。私は少女を床に座らせるとベッドに戻り、座って足を組む。


まさか、『粉砕』と密偵の子がここまで普通の少女だとは、予想出来なかった。けど、予想出来ないほうが面白い。


「それじゃあ、最初の授業を始める。絶対に聞き逃さないように」


『カード』を三度小突くと翡翠色の粉のような吹き出る。近くのペンを手に取り魔力を流し空中に文字を書くと粉が固まり、文字が浮かび上がる。


まさか、『カード』の『ボード機能』を使う日が来るとはね。使う必要がなくて殆んど忘れていたのだけど。


「今日教えるのはまず魔術と言うものが何なのか、ね。これを知らなければ魔術師は勿論、魔術を教わる何て思わないことね」

「「!!」」


二人は顔を引き締め正座をして私の一挙手一投足を目で追う。


少し言い過ぎたかな。けど、これくらい言わないといけない程に魔術の最初の理論は絶対的に必要なものだ。


「魔術と言うのは、魔力をエネルギーに術式を通し、世界の法則に介入、操作し力へと変換する技術。これが一番簡単な方式ね。中には法則を塗り替えるものや歪めることで力を出す方式もあるけど、私はこっちの方が簡単だからそっちを教える」

「えっと……法則ってなんですか?」


そこからか。


シルフィの素朴な質問に頭に手を当てる。


まあ、元奴隷だったシルフィは勿論、セルディも最低限の学はあるだろうけど法則の説明は難しいか。


少し頭に手を当てて考え、『カード』から木の板と火打ち石を取り出す。


「それじゃあ、どうして火打ち石で木の板が燃えるの?」

「えっと、鉄板に火打ち石を力強く擦ると火花が出てそれが木の板に移って燃えるから……ですか?」


その通り。流石に元奴隷のシルフィも答えれるし、セルディも不満そうに頬を膨らませているが分かっている。


それじゃあ、これは答える事は出来るかな。


「それじゃあ、何で木の板は燃えるの?」

「「……?」」


二人は首を傾げ、頭を悩ませる。


「火がつく過程。それが法則だ。魔術はこれに干渉、上書き、歪曲させ異能力を世界に出現させる」

「それじゃあ、法則が違えば使える魔術は変わるの?」

「そうね。そこも説明するか」


ペンで大きく円を描き、四方に四つの円を作る。そこに『火』『水』『風』『土』と書くと二人に向き直る。


「基本の魔術はこの四つに分類される。これら四属性に法則を区切る事でこの世界の法則に干渉する」


尤も、私の場合は水属性単品だけどね。


私は他の属性の魔術は使えない。使えるのは水属性と系統外だけ。系統外は特性上使えるものと使えないものがあるし、実質的な戦力は水属性だけだ。


「人によって使う魔術に向き不向きがあるのは魔力自体が色のようなものがある。この魔力と法則の関係性こそが『属性の理論』と呼ばれる」


より正確に言えば、『属性の理論』は相克の関係や法則に対する干渉力にも影響してくる。


私の水の魔術だって無制限と言えるものではない、水を作り上げる法則と水を操る法則は違うものだから僅かな手間がかかる。


法則についての説明は……まだしなくて良いか。


色々と考えているとセルディが手を上げて質問してくる。


「あの、何故区切る必要があるの?」

「制御の問題だ。様々な派生が出来る以上数は無限に等しい。それを全て自分の思考の中に落とし込めれる?」

「……うん、無理!」


元気でよろしい。……本当に密偵の娘なのか怪しくなってきた。


「まあ、今日はこれくらいで良いか」

「えっ?どうして?」

「まだ私は出来ます!」

「そうじゃない。これらをレポートに纏めて使えるようにしなさい」


そういって『カード』から紙の束を出して二人の前に置き、分厚い魔術の教本を手渡す。


「えっ……?まさか……宿題?」

「そうだよ。一二ページ『属性の理論』を明日までに纏めて来なさい」

「やだー!!」

「逃がすと思うか?」

「……はい」


軽く殺気を向けると逃げようとしたセルディは怯える兎のように縮こまる。


宿題を渡すとセルディはとぼとぼと部屋を出ていき、フリーズしてるシルフィの頭を叩く。


「あいたっ!?」

「文字は読めるだろうし、さっさと取りかかれ。言っておくが、私は一日で理論を頭に叩き込んだ」


村に来た魔術師から教本を貰い、半日で魔術の基礎理論は頭に叩き込み、一日で簡単な魔術はマスターした。頑張れば誰だってそれくらい出来る。


……まあ、その時には両親から「秘密にしろ」とか言われたけど。


「言っておくが、私の教育方は基本的にスパルタだ。数日の内には魔術を発動させれるようになれ」

「む、無茶苦茶ですね!?」

「因みに、私は一日で簡単な魔術が使えるようになった。これくらい、頑張れば誰だって出来る」

「無茶苦茶だ!?」


無茶苦茶だろうとなんだろうと使えるものは増やしておくべきだと思うけどな。

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