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宿の女将

宿につくと、シルフィの服を剥ぎ取り、宿の浴室に叩き込む。元奴隷だったシルフィの身体は汚れきっているからだ。


まだ客もいない酒場のカウンターに座ると素朴な笑顔を浮かべる女将がやってくる。


「それにしても以外ね。貴女、案外無愛想なところがあると思ったけど、結構面倒見は良い方なの?」

「……さあ、どうでしょう」


宿の女将から差し出された紅茶を手に取り、飲み干す。


私の場合、無愛想と言うよりも無関心と言った方が良い。シルフィが興味を抱く程度には面白い存在だったから弟子にした訳で、興味を抱かない存在には基本的にぞんざいだ。


『エリン』として活動していた時は暇な時に子供の面倒を見ていた事もあったが、内心はずっと冷めていた。基本的に子供はあまり好きではない。


「ねぇ、貴女は魔術以外にも何か出来るの?」

「ナイフと剣が多少。それがどうかしたのか?」

「うん、ちょっとね」


女将はカウンターに肘をつき、私の顔を真っ直ぐに見る。


「最近、この辺りが物騒なのよ。ほら、繁華街の方で起きた未知のモンスターもあるでしょ」

「知ってる」


だって、あれを作り上げたのは私だし。


「それで、護身程度でも良いから魔術や武術を娘に習わせたいのよ」

「それなら、自分で教えれば良いのでは?元『上位』探検者『粉砕』のクラフト・リーン」

「あ、やっぱりバレてた?」


年若い女将は笑顔を浮かべると背中から身の丈ほどの斧を取り出して振り下ろしてくる。


カウンターを蹴って離れると同時に斧がカウンターを粉砕する。


飛び散る欠片を握り投げつけるが女将は斧の柄で弾き接近し斧を凪払うが身を反らして避けながら『シルバーサン』を取り出す。


バク転して距離をとり床を蹴り女将に接近する。女将は両手で斧を持ち、大きく振りかぶり私が間合いに入ると同時に打ち下ろす。


咄嗟に回避して壁に足をつけ蹴り、女将の胸を魔術具で切り裂く。


足でブレーキをかけ、のけ反る女将に接近し背中を蹴り上げる。女将は斧を床に突き、蹴りと同時に体を浮かせ天井を蹴り地面に着地し振り下ろす。


回避……は難しいか。


足を元を凍らせて滑らせ身体を移動させ斧を回避し魔術具を順手に持ち替え演舞のように身体を捻りながら振る。


女将は斧から手を離した左腕で魔術具を防ぐ。


キンッという音と共に魔術具は弾かれ大きく身体を弾かれてしまう。服の切り目から重厚な金属の籠手が鈍く光る。


驚く間も無く斧が振り下ろされる。咄嗟に斧の腹に当たる部分に魔術具を打ち込んで軌道を逸らして受け流し、一回転しながら蹴りを顔面に叩き込む。


「くっ……!なかなかやるね……!」


唇が切れたのか口から垂れる血を女将は拭い斧を肩に担ぎ、突進してくる。


避けるのを不可能と断じ水を纏い衝撃を緩和させ、壁まで吹き飛ばされる。


衝撃を緩和させてこれほど……流石、斧一つで最下層のモンスターと渡り合った逸話がある『粉砕』だ、相手もその気なら、こっちもそれ相応の力を扱わないのは無作法というもの。


魔術具を持たない左手を女将に向ける。その瞬間、床の木の板の隙間を縫うよう水が流れる。


目を見開き驚愕した女将は咄嗟に飛び退く。その瞬間、隙間から水の刃が現れ振るわれる。


続け様に床や壁、天井から水の刃を振るっていくが女将は壊れたテーブルや椅子を楯に回避していく。


やはり、見切りのレベルが高い。魔術が発動するタイミングとその順番をよく見て反応して躱し、防いでいる。


水の弾丸を作り上げ真っ直ぐに放つが女将の斧に阻まれて防がれる。


流石に、この程度では対応されるか。なら……。


隙間を流れる水を無くす。それと同時に接近する。女将の間合いに入ると同時に逆手のナイフを構え


「なっ!?」


そして手放す。


自殺行為とも呼べる私の行動に大きく振りかぶった女将は動揺し僅かに動きを止める。それと同時に足を踏み込み拳を握る。


「水拳」


拳に水を纏わせ、女将の腹に力強く叩きつける。


水拳は拳に水を纏わせて殴り付けるだけで、普通の魔術よりも遥かに威力は劣る。


だが、そんなものを私は使わない。それを発展させた。


「え……あ……?」


女将は頭に手を当てて数歩後ろに下がると、床に倒れる。


拳が殴り付けた衝撃を体内の水分に満遍なく行き渡らせる。たったそれだけだ。それだけで水拳は人を効率よく無力化できる魔術へと姿を変える。


まぁ、そんな事をしなくても普通なら当たり前のように魔術を使えばいいだけの話だが、今回のような無力化が好ましい時は使いやすい。


魔術具を拾い、鞘に納めると部屋の片隅を見る。


「そろそろ出てきたらどうだ?無意味な行動はしたくないのだが」


私の声に答えるように部屋の片隅から兎の獣人の男が現れる。


『姿隠しのマント』。あの国の密偵が重宝する魔術具。……まあ、深入りしなければ良いか。


「一応、私が密偵だと知っていても動じないのか」

「生憎、国がらみの問題はスルーしているので」

「妻と同じだよ。探検者はそういった人たちが多いのかな?」


確かに、あの愚物ども国絡みの問題は基本的に放置していた。それが移ったか……?


うう、背筋がゾワッてしてきた。考えるのは止めよう。


「それで、だ。まさか貴方たちは自分の娘を密偵にさせるつもり?」

「……そうだ。けど、それはまだ当分先のことだ」

「ふーん……まあ、別に良いか。引き受けるよ、それ」


女将の依頼を受け入れ、私は階段を登り二階に上がろうとして足を止める。


「あ、流石に弁償しないぞ。貴方たちが何とかしろ」

「厳しいな」

「襲いかかってきたのは女将の方だ、悪いのは私ではないのでな」


そう言い残すと私は階段を上がり、部屋に入って服を脱ぎ捨て下着姿になる。


まさか、密偵に最低限の能力を教える羽目になるとは……。また面倒なものを抱えてしまった。


けど、密偵と一流探検者の子の才能を見てみたいし、獣人の能力も見てみたい。シルフィとは違った方向性で興味が湧いたから受け入れた。


これがバレれば私も首と胴体がおさらばすることになるだろうけど……ま、そのときは女将も密偵も子供も殺してしまえばいいか。



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