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導き

やはり、視線が注がれるか。


地上に出て街を歩きながら向けられる視線に嫌気が差す。


流石に、後ろをちょこちょこと歩く少女には向けられていないけど、ここまで目立つのは好きではない。


目立つときに目立つ、目立たないときに目立たない。一般的なそれに紛れ込むのが一番重要なのだ。


「それで、娘。帰る場所とかはあるのか?」

「う、ううん。どこにもない……です」

「そう」


なら、仕方ないか。


少女の方に顔だけを向けて、私は喋る。


「私にとっては貴女がどうなろうと関係ないし興味のかけらもない」

「うう……」

「助けが欲しいなら自分で助けを求めるくらいしろ。私はさっさと立ち去らせて貰う」


俯いて立ち止まる少女を放置し、私は街の中を歩く。


流石に、強く言い過ぎたか。あそこまで強く言えば自立について考えてくれるだろう。


「うん……?」


後ろを引っ張られるような感覚がして振り返ると先程の少女が私の服を引っ張っていた。


「何のつもり?」

「助けて下さい……!このままじゃ私……」


涙目で懇願してくる少女に困りながら目を開く。


そして、理解する。


この娘……魔力の流れが不規則かつ不安定だ。


魔力の流れは多かれ少なかれ、強さがある。それが上手くいくかいかないかで肉体的な負荷も変わってくる。


負荷が強ければ肉体は悲鳴を上げ、病を発症しやすくなったり、体調を崩しやすくなる。


無論、治す方法はある。けれど、それは……。


「何故、私に願う」

「貴女は私に手を差しのべてくれました。だから……その……」

「はぁ……分かった。貴女は私が助けてやる。ただし、その過程は苦しいものになるが、それでも良いのなら、な」

「はい、それでも構いません!」


不遜な態度をとる演技をしながら向日葵のような笑顔で私の手を掴む少女の手を呆れながら掴む。


魔力による病は基本的に本人しか分からない事が多い。その上、その揺れ幅も個体によって異なってくる。そのため、治せる人間は限られてくる上、自分に合った人間を選ばないといけない。


この娘はその対象を私にした。……私とて、これを行うのは好ましくないがな。


「私は貴女を助けるつもりはない。貴女を強くするしか方法はない。そして、強くなるためには魔術を習得した方が一番早い」


魔術は深く極めようとすれば極めて難しく、困難な道を進むこととなる。だが、浅い部分、嗜み程度の魔術なら早くて半年くらいで使いこなせるようになる。


また、魔術を使うためには規則的な魔力の流れが必要となってくる。彼女の病を治すにはちょうど良い。


私としてはこの方法は効率的だと思っているがあまり好きではない。


これでも、私はストイックな方だと自負している。やるのなら徹底的に行いたいが、それでは少し困った事がある。


それこそが、この手法の絶対的かつ致命的な欠点。『魔力の流れが不安定だった者に魔術を教えると魔術師として大成してしまう』という点だ。


これは様々な記録を調べ、導きだされた『必然』だ。事実、この世界に存在する魔術師が所属する『魔術師協会』と呼ばれる組織があるのだが、ここのトップやその幹部は元は魔力の流れが不安定だった者たちばかりだったし、歴史に名を刻んだ魔術師や探検者として大成した魔術師、ランクは低くても実力のある魔術師の多くは幼少期は魔力が不安定だった者たちばかりだ。


『魔力が不安定な者は神に魅いられている』、村にいた時に偶々酒場にいた魔術師が言っていた言葉だ。


私としてはどうだっていい話だったが、今回の件は私にとって嫌な流れだ。


「貴女は私の手で生き方を歪められる。それでもいい?」


私が真剣な声音を出して問うと少女の手は強ばり、握る力が少し強くなる。


村に来た魔術師の話では『魔力の不安定さを解消するために魔術を習うのだけは止めておけ』と言っていた。当時は意味が分からなかったが、村を出て調べてその理由が分かった。


『その理由で魔術師になった者は魔術なしでは生きられなくなる』からだ。


魔術師は基本的に何かしらの叶えたい目的がある。無ければそもそも、魔術師になろうとも思わない。


だが、この娘たちのような連中は生きるために魔術を習う。魔力が不安定な者はいつ死ぬか分からない恐怖に常に怯えることとなる。それはもう必死になって魔術を習得していくだろう。


そして、何時の間にか魔術が生活の軸となり、魔術師以外の生活を送る事が出来なくなる。


これは魔術師にはよく陥りがちな事だ。私のように魔術を『道具の一つ』として捉えていない者は魔術が自分の人生に大きく影響する事を分かっていない事が多い。伝説的な魔術師や実力のある魔術師も見方を変えれば魔術に『縛られてる』と見えなくないしな。


普通……『国のために尽くしたい』や『誰かを守る力が欲しい』とかのような願いを持って魔術師になる奴らにとっては別に構わないがこの娘たちは違う。


あくまで生きるための『手段』だったものが何時の間にか『目的』に刷り変わってしまうのだ。そして、最後は破滅する。


「生き方を歪められる」と言ったのはこれが原因だ。私はこの娘が持っている願いを捨てさせる事となる。この娘がどうなろうと知ったことではないが、この娘がどう思うかだけは聞いておかないといけない。


「……構いません。私は、もう既に……歪んでいますので」


俯き、考え抜いた少女は真剣な表情で私の瞳を見上げる。


その瞬間、私の身体におぞましい何か降り注ぐ。


気がつかなかった。いや、隠していたのか。この娘の目には……狂気が宿っている。私も狂気染みている方だと客観視しているが、この娘も私とは方向性は違えど狂っている。


「かつての私はただ純粋に日々の生活に幸せを感じてました。ですが、あの日から……私の頭にはあいつらの顔がちらついて離れない」


……ああ、そうか。この娘は……。


「あいつらを消すためなら何だってする。私はそう決めているんです」


復讐者だ。


復讐、私はそれを肯定している。


愛したものを砕かれ、怒り、憎悪となり砕いた者を破滅させるまで止まる事のない過去にしがみつく亡霊。それこそが復讐者だ。


それが生み出した惨劇は私の作り上げる惨劇とは方向性は違えど、違った味わいがある。


この娘が復讐者だったとは驚きと共に俄然やる気が湧いた。


冷徹な仮面を被り内心の表情を隠しながら少女の手を引く。


殺人鬼と復讐者。相容れない狂人だが復讐者は未完成、なら、なるべく完成に近づけるようにしますか。


「それと娘、お前の名は何だ」

「私の名前はシルフィです。シルフィ・メサイアです」

「私はシルバ。名字もあるけどあまり喋りたくない」

「分かりました、シルバ師匠」

「……その呼び方だけは止めてくれない?」

「では師匠で」

「…………」


そう言うことじゃないけど……まあ訂正させるのも面倒だし良いか。事実は事実だし。

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