表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/40

パーティー追放、そして覚醒

追放ものに興味があったので書いてみました。

「エリン、お前はこのパーティーから抜けろ」


唐突だった。


私ことエリンは何時もの酒場の個室でパーティーのリーダーのヴェルグから突然の解雇を宣言された。


それについては薄々察していた。だから私にとってはそこまで大きな動揺は走らなかった。そして、それはリーダーを取り囲む三人の纏っている空気からも察せれた。


「エリン、お前の実力を疑っている訳ではない。だが、お前の実力だともう俺らに着いていけない」

「分かってます、そんなことくらい」


それでも、着いていこうと躍起になった。


私の職業は【水属性魔術師】。魔術師系の中でも防御に長けた水属性にのみ特化したその職業柄、味方を守る事には長けていても元から誰かを傷つける事が嫌で自分から攻撃する手段は皆無だった。


まだパーティーが新米だった頃はそれだけでも充分だった。しかし、パーティーの実力が上がってくると私の出番はそう多くなくなっていった。今ではこのチームは『探検者』の中でも両手で数える程度しかいないSランクに上がってしまい、殆んどお払い箱になってしまった。


パーティーの負担になるくらいなら去ってしまった方が良い。


「それにね、エリン。……ヴェルグ様に助けて貰った恩でこのパーティーに加わった分際で今までよくこのパーティーに留まれたわね、恥を知りなさい」


隣を横切って出ていく【火属性魔術師】のサフィの囁きを聞いて唇を噛み締める。


確かに、私は村を盗賊に襲われたところをヴェルグに助けて貰えた。しかし、村人は全員死んでしまった。そのため、身寄りのない私をヴェルグはパーティーに入れて貰えたのだ。


「その……今までありがとうございます」

「あー、その……新しいパーティーでも探してくれよ。いざとなれば斡旋してやるからさ」


横切る【上級僧侶】のアスフィ、【剣士】のヴェルグが個室から出ていき、個室の中に私だけが残る。


やっと……一人になれた。


私は天井を仰ぎ見ながら黒いマントを脱いで身軽な姿になる。


「クク……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


そして、嗤う。


私の本来の狂声の嗤い声が魔術具で完全防音の個室内を満たす。


やっと……!やっとあのパーティーから抜けれた!やっとあの檻の中から出れた!やっと、本来の感情に嘘をついて物事を思ったりしなくて良い!!やっと、やっとやっとやっと!!あの地獄から解放された!


顔に手を当て、何時もは閉じている眼を見開く。


【水属性魔術師】?そんなもの、三年前にヴェルグと初めて出会った時についた嘘だ。まぁ、実際に本職と比べても変わらない程度の腕前は持ってるけど、それが本当ではないヒントはずっと与えていた。


例えば、何故、数少ない攻撃系の水属性の魔術の習得が出来なかったのか。


例えば、何故、攻撃の魔術よりも繊細な魔力のコントロールが必要な防御に長けたいたのか。


例えば、例えば、例えば――細かい、一つ一つは取るに足らない、それでも専門家から見ればあり得ないと言える行動の裏には私の本性が、本職が見え隠れしていた。それをヴェルグの愚物も、サフィのクソアマも、アスフィのクソガキも気づかなかった。


私にとってはこれはほんの遊びだ。私の正体に気づくかどうか、そのスリルを味わうための本当にちょっとした遊びに過ぎない。

でも、ちょっと残念だった。


私は個室内のテーブルに腰掛けると残念そうに息を漏らしてしまう。


気付いたからチームから追放したのではなく実力不足だと誤認したからチームを追放した何て、私の予想の斜め下過ぎて逆にお笑いだよ。


ま、どうでもいっか。


テーブルから腰を離すと、私はマントを手に持つ。


彼らにはもう興味も価値も失った。どうでも良い存在に成り果てた。私はもう何者にも縛られていない。今はこの自由を謳歌するとしましょう。


ああ、それともうこれは壊して良いよね。もうヴェルグの愚物たちから離れたのでし。


左の中指に嵌めていた黒い指輪を右手の親指と人差し指で挟み中指から外し指輪の水分を発散させ砂へと変える。


指輪が完全に黒い砂へと変わった瞬間、私の姿が変わっていく。


黒混じりの茶髪は鈍く光沢を持つ銀色の髪に。


きめ細かく白い肌は黒褐色の肌に。


左腕から植物を象った白い紋様が胸や臀部へと彩られ。


対面のガラスに移る瞳は白目の部分が黒く、赤い眼は金色に。


人の耳から南方に住むとある少数種族の特徴である少し尖った耳に。


かつての私、偽りの私に別れを告げ、本来の私へと姿を変えたところで私はガラスに向けて甘く蕩けるような笑顔を作るように口角をつり上げる。


三年ぶりに本来の姿になった。何せ、今の今ではヴェルグという存在に阻まれていたもの。そのせいで窮屈なヒューマンの姿をとる必要があった。


「そうね……名前はシルバとでも名乗りましょうか」


元より、私の名はシルバ・エリン。エリンは名字であり愚物たちにはそっちを名前で呼ばせていた。本名を彼らは誰一人として知らない。


さて……本来の人生、本来の才能、本来の姿で旅をしましょうか。


悲劇を、惨劇を、狂気を。私の手で生み出していきましょう。


私の本来の血に濡れた場所にこそ私の人生にはあるのだから。マントを裏返し白い裏面にして羽織る。マントについたフードを被り、狐の面を被り、個室から出て酒場からも出る。


とりあえず、今日は適当な宿でも探してふて寝しましょう。もう自由なのだから好きに生活をさせてもらいましょうか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ