おまけ② あの日あの時あの場所で
おまけ②【あの日あの時あの場所で】
それは、戦いを仕掛ける数日前のこと。
尊、刀悟、大、護、優の5人は食事をしていた。
その時の会話である。
「尊さん尊さん」
「うるせえ」
「僕聞きたい事があって」
「なんだよ」
「僕は殺人鬼として指名手配されているのに、怖くなかったのかなーって。なんで国に留まったのかも気になるし」
急に刀悟が尊に対して尋ねた質問に対し、尊自身はさほど興味なさそうにしている。
「別に」
「別に怖くなかったってこと?僕の顔が優しいから?美人だったから?」
「誰もそんなこと言ってねぇだろ、なにお前」
「僕は確かに美人だよ。なんてったって、女性と思われちゃうくらいだから。でもね、これでも僕男だから、あんまり美人とか言われても嬉しくないわけだ。まあ、かっこいいって言われることが今までなかったからなんとも言えないんだけど、どう思う?僕ってかっこいい部類に入るのかな?」
「知らねえよ。そこまでお前に興味ねえから。なんで俺がそこの判断をしないといけねえんだよ」
「えー、尊さんってば冷たい。僕と一緒に逃げた仲じゃない」
「一緒にって、お前のせいで俺まで追われたんだろうが」
「そんなことより、尊さん綺麗に食べるんだね。魚の骨ってそんなに綺麗に取れるんだー。僕感動しているよ」
「一々うるせぇな。どうでもいいだろそんなこと」
「尊さん、照れてるでしょ。褒められなれてないのかな?もっと褒めてあげようか?」
「おい、お前少し口閉じてろ」
「あ、そういえば僕の親どこに住んでるんだろう。引っ越したのかな。そしたらわかんないよなー。まあいいか。別に顔を見せようってわけじゃないし。里帰りなんて可愛いものじゃないしね」
「耳ついてんのか」
「可愛いって言えば、蘭刃さんって可愛い顔してるよね。女の子みたい。僕もよく女の子みたいって言われるけど、それよりも女の子っぽい」
「お前、自分が女みたいって言われることに対して抵抗ねぇだろ」
「抵抗がないわけじゃないけど、慣れただけかな。昔から言われてるとね、こう、感覚が麻痺するというか、受け入れられるというか、そんな感じ?尊さんだって、きっと小さい頃から無愛想だとか無頓着だとか言われてるから今もそんな感じでしょ?」
「張り倒してやろうか」
「その点、僕はこう見えてもナイーブなところがあるから、正直言って、女性見たいだと言われると、とてもカチンとくるんだよね。なんていうか・・・キレる?みたいな感じかな?僕男だけど?っていうね」
「俺、いつまでお前の話聞いてればいい?」
「あれ?僕が質問しなかったっけ?何を質問したんだっけ?ああ、そうだ。僕のこと怖くなかったのって話だ」
刀悟とは違い、喋りながらも食べ続けていた尊はすでに食べ終えていたのだが、刀悟の皿にはまだ食事が残っていた。
残すのかと思っているとそうでもないようで、味わって食べているのだと言われた。
刀悟の問いかけに対し無視しようと思っていた尊だが、刀悟があまりにしつこく聞いてくるものだから、これ以上耳元でああだこうだと言われるのも面倒だと、尊は頬杖をつきながら飴を噛み、答える。
「危ねぇ奴だとは思ったけど、理由のねぇ殺しはしねぇ奴だと思っただけだ。勘だけどな」
その思いがけない答えに、刀悟は思わず言葉を失う。
口をぽかんと開けて尊を見ていると、見るなと言われた。
刀悟は嬉しそうに♪を奏でながら食事を再開し始める。
その向こう側では、大が何やらみなを鼓舞するためなのか、護や優に対して演説するかのように熱く語っている。
一方、まだ食事中の護は、他の人が適当に箸で食べている物をナイフとフォークで食べているし、口元を丁寧にナプキンで拭っている。
優は食べ終えた食器を片づけながら、食後に何か飲み物を、と大の演説をクスクス聞きながら準備をしている。
「それに・・・」
そんな光景を見ながら、尊は目を細める。
馬鹿みたいに元気で素直で、人の心を動かそうとする奴。
何を考えてるか分からないが、自分に正直で隠れた優しさを持つ奴。
調和を重んじながらも、強い意志を持つ奴。
変で関わるのはもうこりごりだが、意外と人間らしい一面を持つ奴。
不協和音はいつだって、耳触りだと言うが。
「こんな風に、馬鹿な奴らと会えんのも、最後かもしれねぇしな」
「あ、尊さん今笑ってた?」
「目が腐ってんのか」