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目を閉じれば  作者: さち
第1章 止まった時間と冷えた心
9/33

2015年2月25日 14時半 さちside

高校3年生が卒業するにあたり

毎年行われている送別会


私は部活に所属していないため

観客席からみていた

高等部は全員強制出席

正直帰りたかったが

彼女が出るのを見たかった

なんでもできる彼女が部活で輝いている姿を

少しでも目に焼きつけたかった

彼女が所属する体操部の出番は

第2部の一番最初だった


この学校には

落語部という珍しい部活がある

それは講堂の舞台の幕を閉じて行われる

その後ろに微かに


バタンバタン


とマットを広げる音が聞こえた



そろそろだ

彼女のやる技は何だろう

彼女のダンスの立ち位置はどこだろう

そればかり考えていた



ついに幕が開いた


体操部を引退した3年生が

後輩の名前を呼んでいる

この中には彼女の名前も入っていた

体操部ではなかった3年生も

体操部の演技を楽しみにしていたのか

会場は一瞬で熱気に包まれた


彼女は笑顔だった

色々な人と目が合えば手を振っていた


一番のサビは中学生が前だったため

彼女はよく見えなかった


二番に入ってすぐ彼女がでてきた

彼女が担当した技は

ハンドスプリングだった

頭から爪先まで全神経が集中されているように綺麗だった

この体操部でそれをできるのは彼女だけだった

もちろん成功した

会場からは歓声があがる


二番のサビは高校生が前だった

高校2年が一列目を占めているものの

彼女は二列目のセンターにいた


思わず息を飲んだ


周りと同じ振りを踊っているのにも関わらず、彼女だけが浮き上がって見えた

彼女だけに目が惹き付けられた

こっちも楽しくなるような

そういう躍りだった


中学3年のとき

体育祭のダンス委員にもなっていた彼女

「ダンス習ってたの?」

そう彼女に聞いたことがあった

「習ってないよ!

小5まで日本舞踊やってたくらい!」

「何やったの?」

「わからないかもしれないけど、

小4のときに浅草公会堂で

春興鏡獅子っていうやつの胡蝶をやったの」

「え!調べてみる!」

「面白くないと思うよ?」

「気になるの!」

「そうなの(笑)」

「で、なんでそんなにダンスも上手いの?」

「上手くないよ!」

「そんなことないよ!教えて!」

ダンスをなかなか覚えられなかった私に

クラスが違うのにも関わらず

嫌がる素振りも一切見せず

昼休みを削ってまで教えてくれた


彼女はよく学年中から悪口を言われていたが、彼女のダンスにケチをつけるものは誰一人としていなかった

それは彼女の実力なのか、才能なのか


ダンスの授業でも

先生はよく彼女を褒めていた

ダンスを覚えるスピードもそうだが

キレや感情の込め方が段違いだった

やったことのないダンスのジャンルさえ

努力で補っていたが

それを他人に見せることはなかった

授業前後に誰にも見られないところで練習していたらしい


彼女は苦しみや悲しみだけじゃなく

努力も人に見せなかった

それくらい人に見せてもいいじゃないか

そう思った


どうして彼女は母親と同じ道を選ばなかったのか

表現者としても成功するはずなのに


彼女は自分の意思で日本舞踊の世界には

戻らなかった

週6の学校生活と練習を両立できないこと

そして何より成績が落ちたら大変になると言っていた


どうして彼女は成績を落ちることを

そんなに恐れていたのか


その理由を私は知らなかった



高校にあがってすぐその理由は判明した

彼女の太腿や肩付近にある痣によって


それまでも彼女は服で隠れて

見えないところに沢山の痣があったらしい


どうしてそれでも誰にも助けを求めないんだろう

不思議だった


私はずっと彼女は強いと思っていた

けれど本当は誰よりも弱かったのだ

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