2015年2月25日 14時半 さちside
高校3年生が卒業するにあたり
毎年行われている送別会
私は部活に所属していないため
観客席からみていた
高等部は全員強制出席
正直帰りたかったが
彼女が出るのを見たかった
なんでもできる彼女が部活で輝いている姿を
少しでも目に焼きつけたかった
彼女が所属する体操部の出番は
第2部の一番最初だった
この学校には
落語部という珍しい部活がある
それは講堂の舞台の幕を閉じて行われる
その後ろに微かに
バタンバタン
とマットを広げる音が聞こえた
そろそろだ
彼女のやる技は何だろう
彼女のダンスの立ち位置はどこだろう
そればかり考えていた
ついに幕が開いた
体操部を引退した3年生が
後輩の名前を呼んでいる
この中には彼女の名前も入っていた
体操部ではなかった3年生も
体操部の演技を楽しみにしていたのか
会場は一瞬で熱気に包まれた
彼女は笑顔だった
色々な人と目が合えば手を振っていた
一番のサビは中学生が前だったため
彼女はよく見えなかった
二番に入ってすぐ彼女がでてきた
彼女が担当した技は
ハンドスプリングだった
頭から爪先まで全神経が集中されているように綺麗だった
この体操部でそれをできるのは彼女だけだった
もちろん成功した
会場からは歓声があがる
二番のサビは高校生が前だった
高校2年が一列目を占めているものの
彼女は二列目のセンターにいた
思わず息を飲んだ
周りと同じ振りを踊っているのにも関わらず、彼女だけが浮き上がって見えた
彼女だけに目が惹き付けられた
こっちも楽しくなるような
そういう躍りだった
中学3年のとき
体育祭のダンス委員にもなっていた彼女
「ダンス習ってたの?」
そう彼女に聞いたことがあった
「習ってないよ!
小5まで日本舞踊やってたくらい!」
「何やったの?」
「わからないかもしれないけど、
小4のときに浅草公会堂で
春興鏡獅子っていうやつの胡蝶をやったの」
「え!調べてみる!」
「面白くないと思うよ?」
「気になるの!」
「そうなの(笑)」
「で、なんでそんなにダンスも上手いの?」
「上手くないよ!」
「そんなことないよ!教えて!」
ダンスをなかなか覚えられなかった私に
クラスが違うのにも関わらず
嫌がる素振りも一切見せず
昼休みを削ってまで教えてくれた
彼女はよく学年中から悪口を言われていたが、彼女のダンスにケチをつけるものは誰一人としていなかった
それは彼女の実力なのか、才能なのか
ダンスの授業でも
先生はよく彼女を褒めていた
ダンスを覚えるスピードもそうだが
キレや感情の込め方が段違いだった
やったことのないダンスのジャンルさえ
努力で補っていたが
それを他人に見せることはなかった
授業前後に誰にも見られないところで練習していたらしい
彼女は苦しみや悲しみだけじゃなく
努力も人に見せなかった
それくらい人に見せてもいいじゃないか
そう思った
どうして彼女は母親と同じ道を選ばなかったのか
表現者としても成功するはずなのに
彼女は自分の意思で日本舞踊の世界には
戻らなかった
週6の学校生活と練習を両立できないこと
そして何より成績が落ちたら大変になると言っていた
どうして彼女は成績を落ちることを
そんなに恐れていたのか
その理由を私は知らなかった
高校にあがってすぐその理由は判明した
彼女の太腿や肩付近にある痣によって
それまでも彼女は服で隠れて
見えないところに沢山の痣があったらしい
どうしてそれでも誰にも助けを求めないんだろう
不思議だった
私はずっと彼女は強いと思っていた
けれど本当は誰よりも弱かったのだ