貴方は不思議な人 さちside
彼女は
見崎あずさは
世間的に言えば
顔が整っている方に入るのだろう
彼女の母親は
中学生まで劇団ひまわりに所属していた
その当時、芸能活動ができる高校は少なかった
そこで彼女の母親は退団し、普通の生活をすることを選んだ
地元の都立の高校へ行った彼女の母親は
幾度となく先輩、後輩に関わらず告白をされていたらしい
私も彼女の母親を見かけたことはあった
確かに綺麗な人だった
だから、彼女の顔が整っているのも納得だった
私に話しかけてくる彼女は
本当に優しい
「さちちゃん」
そう呼ぶ彼女からは
負の感情なんかこれっぽっちも
感じられなかった
それなりに可愛くて美人で
年齢しては幼い顔
身長も女の子らしい
性格もいい彼女が
学年中から
悪口の嵐に晒されていることは納得できなかった
しかし、その状況に対して
私は何にも行動を起こさなかった
自分もされる側になるのが
堪らなく嫌だったのだ
私も弱い人間なのだ
彼女が怒るのは相当珍しく
この4年間で見たり聞いたりしても
3度しかなかったらしい
それは全部中学2年のとき、
一つ目は
すれ違い様に
何を言われたかは知らないが
余程彼女の気に障ったのかもしれない
いつも温厚な彼女からは考えられない
表情、そして低い声で
「言いたいことがあるなら直接言えよ」
そう、
当時学年のスクールカーストの
一軍と呼ばれていた人物の
肩を掴みそう言ったそうだ
二つ目は、
その当時、部活の学年責任者であった子が
親の転勤によりシンガポールへ行くため
転校したあとのことだった
その子の後任として、学年責任者になった
彼女が所属していた体操部は
チアリーディングのようなことをしており、
演目は全部員が出るように作られていた
部長から幽霊部員になった3人について
相談されたらしい。
文化祭で発表する演目を考えるのは夏休みの時期
そこが練習時間も考えるとタイムリミットだった
それでも部活に顔を出さない3人を
彼女は呼び出した
簡単に言えば
「部活に来るのも来ないのも自由だけど
人に迷惑をかけるとなれば話は別
文化祭の全体の演目も考えられないし、
学年の演目も考えられない
やる気がないなら、早く決断してほしい」
そう3人に言ったそうだった
そして2週間後、その3人は退部届を提出した
三つ目は
合唱コンクールの時期だった
そこでも彼女は監督者として動いていた
合唱コンクールの監督者は
各クラス、2名ずつ
もう一人は彼女と同じ部活に所属していた
見崎由佳
他のクラスからはダブル見崎と呼ばれていた
見崎あずさは
嫌われることを覚悟で
かなり厳しく指導していた
クラスのみんなが
「学年優秀賞をとりたい」
そう言っていたから
彼女のその考えをわかっていたかのように
もう一人の監督者であった
見崎由佳は常に励ましの言葉をかけていた
バランスが上手く取れていたのだ
その中で、課題曲の伴奏をしていた子に
本気で怒った
伴奏者も指揮者も生徒の中から選ばれる
選ばれればそれなりに努力をしなければならない
しかし、その課題曲の伴奏者は
自分が上手く弾けないのは
指揮者のせいだと愚痴をこぼした
「自分が上手く弾けないのを人のせいにするな
指揮者が先生に質問したり必死に練習して、良いものにしようとしてることを知ってるの?
そこまでみんなの為に練習してる人に対して文句言えるの?
お前が上手く弾けないのは指揮者のせいじゃない、単なる努力不足」
厳しいことを言っていたが
誰もそれを否定する者はいなかった
彼女が言ってることは正しかったからだ
その年の合唱コンクールは
C組が学年優秀賞をとった
彼女がいたクラスだった
みんな涙を流し喜んだ
私も涙するなか、
見崎由佳は彼女に抱きついて
「あずさ!やったよ!ありがと!」
そう涙声で言っていた
彼女は見崎由佳を抱き締め返した
「うん、由佳もお疲れさま」
そう優しく言った
一番、みんなの為に動いて
苦労も多かったはずなのに
彼女の頬は濡れることはなかった
その後、クラスみんなで
二人に対して寄せ書きをした
それを渡したときも
彼女は泣かなかった
「二人のおかげだよ!」
そうクラス中が口を揃えて言った
見崎由佳は
「ありがとう」と言った
しかし彼女は
「みんなのおかげだよ」
そう言った
そこはうん!とでも言えばいいのに
彼女らしいといえば彼女らしい
あずさは自分の手柄さえいつも人に譲ってしまう
どうしたらそこまで
底無しに優しくなれるのか
他人に対して妬みの感情をもたないのか
不思議だった
高校1年になってもそれは
わからないままだった
相変わらず彼女は誰にでも優しかった
自分の悪口を言ってる人に対しても
リストカットしていることで
周りから冷たい視線を浴びていることも
知っていたはずなのに