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目を閉じれば  作者: さち
第1章 止まった時間と冷えた心
7/33

2015年2月23日 16時

廊下も教室もどこも騒がしい

帰宅する人

部活に行く人

7限がある人


人が多いところも

騒がしいところも苦手だ


「死ね」「消えろ」

その声がまた何処からか聞こえてきそうで

「気持ち悪い」

「何考えてるかわからない」

偏見の目でしか見られない

苦しい時間、場所


学校が終わったということは

「どうしてお母さんの言うことが聞けないの?!」

「あんたなんか私の子じゃない!」

「あんたなんか生まなきゃよかった!」

そう言うあの人の所へ帰らなきゃいけない


家にも学校にも何処にも

自分が安心していられる場所はなかった

涙を流すことさえ許されなかった

泣けば

「また泣いてる」

「泣けばいいと思ってるのかよ」

「泣いてても何にも解決しないんだよ!」

そういう、同級生たちも教師たちも

「なんで泣くの?!

私が悪いことしてるみたいじゃない!」

「あんたが悪いのになんで泣くの?!」

そういう、あの人も


泣いたとき傍で

「大丈夫」

そう言ってくれる人はいなかった

ただ誰かに傍にいてほしかっただけなのに

その言葉が欲しかっただけなのに


誰もいなかった

何一つ叶わなかった


求めれば求めるほど叶わない

いつ、それに気づいたのか

そして絶望したのか

もう覚えてはいなかった


中学2年のとき、

リストカットしてることが

学年中に知れ渡った

いつ、何処で誰に見られたのか

誰が広めたのか

それはわからなかった

しかし、それからというもの

廊下を歩けば

「やばくない?リスカだって、

気持ち悪い」

「病んでんじゃん」

元々、学年中の名前も顔も覚えていた自分

ほとんどの人と話したことがあった自分

仲良く話してくれる人も

部活の同期もみんな

裏ではそう言っていた


知れ渡ってしまった以上

隠す必要もなくなり

どうせ言われるならと

どんどんエスカレートしていった


ある先生は

「何か悩んでるなら相談してね」

そう言ってくれた

けれど、大人なんて信用できなかった

自分の立場が危うくなれば

すぐに手のひらを返す

そんな汚い大人たちに嫌気が差していた

だから

「大丈夫ですよ」

そう笑顔で返した


この苦しみも痛みも

誰にも理解してもらえるわけがない

こんな汚い自分を見られたくない

傷つけられるのが怖い


なら、誰も信用しなければ良い

そう考えてしまった

それが自分を余計に苦しめていることを

気づいていなかった


本当はひとりじゃなかったのに


当時は

自分はひとりで

この苦しみも悲しみも痛みも

背負っていかなければならない

誰かに話すなんてあり得ない


だから、辛いことがあったとき

誰かに話せば、それが半分になるなんて

嘘だと思っていた

幻想でしかないと思っていた



「あずさ!」


現実に引き戻される


「ん?」

「和真が呼んでる!」

「え?なんだろ…」


和真とはD組の担任だ

女子校では男の先生は大抵舐められ

裏ではあだ名で呼ばれる


D組の教室に行くと

生徒に捕まっている和真の姿があった

「鈴木先生」

「あ、見崎」

「何かありました?」

「委員会のことで」

「はあ…」

「3年生が書いたこの活動記録

見崎にも目通して欲しくて」

「何でですか?」

「2年生にも見てもらってるんだよ

トリプルチェックだよ!」

そう言われれば拒絶する理由などない

ざっと目を通しても

不自然な部分も誤字や脱字も見当たらなかった

「いいんじゃないですか?

特に問題はないかと」

「ああ、そうか

ありがとな!

わざわざ呼び出して」

「別に大丈夫ですよ

じゃあ、失礼します」


「あずさ」

「安加里」

「もう帰る?」

「帰るよ」

「一緒に帰ろう!」

「いいよ、鞄取ってくるね」

「うん!階段で待ってる」

「わかった」


安加里は

中3のときに同じクラスになった

それ以前から交流はあったが

ここまで仲良くなるとは思っていなかった

しかし、仲良くなったことで

安加里を傷つけてしまった

安加里をリストカットという

終わりの見えない地獄へ道連れにしてしまったのだ

その罪は永遠に消えることはない

だから、安加里が挫けそうなときも

苦しいときも悲しいときも

傍にいると約束したのだ

それでしか、安加里に対して犯した

罪は償えないと思っていたから

そんな目にあわせてしまった

自分だけでいいはずだったその行為を

させてしまったことを

本当は謝らなきゃいけない

ごめんねって

けど、安加里は優しいから

「なんで、あずさが謝るの?」

そう言ってくれるだろう

謝ることで安加里が責任を感じて

傷つくくらいなら

一生、黙って傍にいればいい

安加里の安心できる場所になればいい

それで安加里が前に進めるなら

自分はその為に利用されても構わない

その覚悟はできていた

利用されるのは慣れてる

いつだってそうだった

利用されては傷つけられてきた

けれど、その人を恨んだことなんてなかった

それが自分の人生だと

疑わなかったから

誰かの踏み台になる人生でしかないのだと








2度目の自殺未遂まで

あと少し

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