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目を閉じれば  作者: さち
第1章 止まった時間と冷えた心
5/33

2015年2月23日 7時半

7:21


九段下で電車を降りる

エスカレーターをあがり、改札を抜ける


階段とエスカレーターで上に出る

近くの別の女子校と男子校の小学生たちが

横を駆け上がっていく

大声で笑っている

よく朝からこんなに体力あるな

何があんなに楽しいんだろう

自分にはわからない

わからないことが可笑しい…?



この坂、辛いんだよな…

なんでそんな高いところに学校あるかな…

けれどこの道を通るようになってもう4年近くが経とうとしている

あと同じ季節を感じながらこの坂を上がるのは2回

そう考えると6年なんて短い…

小学校の頃はあれだけ1年が長く感じたのに

最近は振り返ってるとあっという間だった

時は二度と戻ることはない

だからこそ、その一瞬を一秒を大切にしたい

肌で感じていたい

自分の意思で消えることもできる

けれど、意図せずに消える可能性もある

例えば、一秒後、一分後、

トラックに轢かれるかもしれない

その可能性は誰にだってある

けれどそれを常に意識して生きている人なんて

どれだけいるのだろうか…


ブレザーのポケットに手を入れると

「アレ」にあたった

これが一番、自分を安心させてくれるもの

誰よりも、何よりも


頼れる人などいない

それでいい

人はいつか裏切るんだ

そして、嘘つきだ

表向きではどんだけいい顔してても

裏では平気で悪口を言い合う


「気持ち悪い…」


7:27


学校に着くが扉はまだロックされていた

あと3分

早く開かないかな…


ガチャ…


開いた


扉を開け、下駄箱へと向かう

ローファーを突っ込み、代わりに赤い上履きに足を通す


階段へ向かおうとすると

印刷室から誰かが出てきた


「お!おはよう」

「おはようございます」

「今日も早いね」

「電車混むので」

「そかそか、まあ頑張れよー」

「はい、ありがとうございます!」


数学の先生だった

彼はすぐに職員室へ入っていった


誰とも話したくなかったのに…

タイミング悪いな

それにしても、

何故にこんなに階段を上がらなければならない

息があがる


5階の教室へ着くと

自分の教室へとりあえず鞄を机の横に

ブレザーを椅子へかける

そしてブレザーのポケットに手を入れ、

さっきの「アレ」を取り出す

そしてすぐトイレへ向かう

個室へ入り鍵をかける

こんな時間に誰も来ないけどとりあえず…



カチカチ…


ゆっくり歯を出していく

セーターの左袖を捲りリストバンドも外す

切るところがないほどそこは

縦にも横にも赤黒い線が広がっていた

ここならいけるな

それをゆっくり押しあてながら左から右へと動かす

歯が滑っていったところから

赤い液体が腕を伝う

それを5,6回繰り返す

とりあえず満足し、左腕をだらんと下げる

歯をしまいトイレットペーパーホルダーの上へ置く

指の先から便器の中へ

赤い滴が落ちていく


そしてそれは水の中へ溶け込んでいく

トイレットペーパーを右手で少し千切り

カッターを手に取り鍵を開ける

手洗い場へと行き、水を腕に直接かける

さっきとは比べ物にならないほど

多くの血が溢れ出る

赤い水が排水溝へと吸い込まれていく


もっと出ろ…

自分の汚い血なんかなくなればいい

血が出ていくことで

自分が背負った罪を少しは許してもらえる気がしたのだ

これは自分が自分に下している罰なのだ


赤い水で汚れた洗面台を綺麗にする

トイレットペーパーで左腕を拭う

そしてまたトイレへ戻りそれを流す


リストバンドを左腕に付け直し

セーターの袖も元に戻す


ジンジンという感覚が左腕を支配する

頭がすっきりしている

気持ちいい



そして、笑顔という名の仮面を貼り付け

教室のドアを開ける


「おはよう」

「あずさ、おはよう」



こいつも自分の笑顔に騙されている

笑顔でいれば自分の触れられたくないとこには

絶対触れられない

誰にもバレなくていい

こんな汚い自分を

弱い自分を


バレたところでなんになる

誰も助けてはくれはしない

むしろ、弱味に漬け込まれ

さらに傷をつけられるだけだ


だからこれでいい

今日も笑顔で人を騙すのだ

ある意味、演劇部より自分は優秀だろう

どんな感情を抱いていようとも笑顔が崩れないのだから

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