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目を閉じれば  作者: さち
第2章 動き出した時間
18/33

欲しいもの


「あずさちゃんは将来、何になりたいの?」

「何にも考えてない(笑)」

「おいおい、もう高2だろー!」




そう、何にも考えてない

本当はここまで生きてる予定じゃなかったからだ

14歳のあの日消えるはずだった

それをやめたのも自分だが


大人になる自分を想像できなかったのだ


ただ、目の前のことをやり遂げるのに

必死の毎日

周りにとって、当たり前の生活を過ごすだけで

自分にとってはとてつもない疲労を

心にも体にも負っていた


一人になれば、

笑うことも泣くこともない自分が

誰かがいると

常に笑顔を貼り付けていた

心はずっと消えることしか考えていないのに


一瞬、顔の筋が全部緩んで

表情が消えたのが自分でわかった


「どうした?」

「なんでもないよ(笑)」

「嘘つけ、今にも死にそうな顔してたぞー」

「してないよ」

「してましたー」

「ただ、疲れただけ…」


それが何を意味するのか

貴方はわかっていた


「そっか…

大丈夫だよ、ひとりじゃない」

「ん?」

「ひとりじゃないから

辛かったらいくらでも話きくから」

「うん」

「よしよし」


頭を撫でられた

この人から頭撫でられること多いな

葉山先生は

自分がずっと欲しかったものをくれる

「大丈夫」「ひとりじゃない」

っていう言葉も

頭を撫でられるという行為も

涙を拭われるという行為も



どうしてこの人は

こんなに欲しいものをくれるの?


人ってこんなに温かいっけ?

今まで関わってきた人たちは

結局、自分が一番大事で

自分が傷つくなら平気で他人を傷つける


自分からいじめられてる人に

手を伸ばしたくせに

いじめられそうになったら

平気でその手を離し傷つける方にまわる


汚い人間にしか会ってこなかったのだ




その夜、葉山先生にDMを送った


たくさん相談した




自分を受け入れてくれる人がいたというだけで心も体も楽になり

何年かぶりに安心して眠りについた

翌日、目が覚めたときも

今までぶら下げていた鉛が取れたように

軽く感じられた




最初は葉山先生って呼んでいたが

次第に二人のときは

臣史くん

そう呼ぶようになっていた




何か嬉しいことがあったときも

悲しいことがあったときも

全部、言っていたね


貴方は嬉しそうだった

優しいお兄ちゃんだった



「葉山先生!見て!」

学校の成績表を見せたときも

「すごいじゃん!よくやったなー!」

そうやって褒めてくれた


高校時代、貴方は学級委員も務め

学年での成績はトップクラスだったのに

それを当たり前だと思っていない

できたら褒めてくれる

お母さんとは違かった




それでも、家に帰れば

重苦しい空気、冷えきった空気

部屋の隅で縮こまることしかできない


「どうして1位じゃないの?」

「ごめんなさい…」

「努力不足よ」



お母さんが怖い


1位ってそんなに偉い?

1位を取ることがそんなに大事?



そう言えたら楽だけど

反抗したら何をされるかわからない

ただ黙って言うことを聞くしかない


この人には抵抗する気力も勇気も

どうしても持てなかった


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