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目を閉じれば  作者: さち
第2章 動き出した時間
16/33

傷を癒してくれる言葉

これ言ったら引かれるかな…

無意識に左腕を触った


「どうした…?」

「え?あっ…」

「左腕、どうした…?見せてみ」

「……」


貴方はその怯えた目をした

自分に気づいたのか


「大丈夫だよ」


優しく言った

ずっと欲しかったその言葉をくれた


「あのね…」


左腕のセーターをそっと捲られる


見られる…

この人には嫌われたくない…

怖い…どうしよう…


「痛かったな…」

「え…?」

「頑張ったな」


ずっとずっと欲しかった

他の人なら何とも思わないかもしれない

お母さんは褒めてくれたことなんてなかった

いつも「出来て当たり前」

「こんなので出来たつもりなの?」

そればっかだった


ずっと何重にも鍵をかけて閉ざしていた心が

凍っていた心が

少し和らいでいく気がした


「……」


ずっと泣いてなかった

でも気づいたら涙が流れてた


「なんで泣くんだよ(笑)」

「おーい!葉山、泣かすなよー(笑)」

「院長!違いますよ!」


「ありがと…」

「ん?」

「葉山先生、ありがと…」

「なにが…?」

「何でも」


笑顔で頭を撫でてくれた


「とりあえず、消毒しちゃうな」

「うん」


まじまじと見られる傷口

自分以外でそんなにそこをずっと見られることはなかった


「ここ今日やった…?」


確かにそこは今日の朝、切ったところだった


「うん…」

「ちょっと腫れてるね」

「うん…」

「触られて痛くない?」

「ちょっと痛い」


腕についていた固まった血を

綺麗に拭き取っていったあと

真っ白な包帯で巻かれた


「気持ち悪くないの?」

「なんで?」

「みんな、気持ち悪いって言うから」

「そんな心がちっちゃい奴らなんか気にしなくていいんだよ

よく一人で頑張ったな」

「…うん」


また、溢れてくる涙

それを拭われる


「本当は泣き虫なんだな…(笑)」

「うるさい…」

「ははっ…(笑)口悪いなー」


「ん?なに?あずさちゃん腕怪我したの?」


院長が話に入ってきた


「そうなんですよー!

どっかにぶつけたみたいで腫れてたので

湿布して包帯巻いときましたー」

「おっちょこちょいだなー」


上手く誤魔化してくれた



小さな声で言われた


「何かあったら話してくれていいから

直接言いづらかったら、DMでもいいし」

「ありがと」

「おう」




涼から裏切りにあって以降

初めて誰かに受け入れてもらえた気がした

自分はまだここにいていいんだよって

言ってもらえてる気がした


行く度に確認される

傷が増えてても怒らずに

また頭を撫でてくれたことも

包帯を巻いてくれたことも



その一つ一つが

何重にもかけてしまった心の鍵を

開けていってくれた




巻かれた包帯を見る度に

自分にはあの人がいてくれる

そう思えた


たったそれだけだけど

また、前を向いて歩き始めたていたんだ



その日から

パニック障害の発作も

PTSDによるフラッシュバックも

極端に減っていった

毎日のように起きていた発作が

1,2週間ないこともあった


1日に十数本増えていた

リストカットの傷も

多くても1日3本程度までしか増えなかった

しない日も多くなっていったんだ







色褪せていた景色が

また色を取り戻し始めていた



くすんだ青にしか見えなかった

空がまた綺麗な青に色づいていた


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