再生する森
ウォルターが旅立った朝から、4時間後。
村娘が『元』丸太小屋にやってきた。
「ようこそ。よく来てくれたわね」
セリンは、人の頭くらいはあるそこらの石を2つ並べて、2人のイス代わりにした。本当なら木製のイスを勧めたいところだ。が、見事に吹っ飛んでしまって跡形もなくなってしまっている。
「呼ばれたんだから、もちろん来るわよ。さっそく説明してくれる? 村のほうでの話し合いがなかなか決着つかなくって」
「ええ。ただ、どこから説明したらいいのかしら」
「そりゃあいろいろあるけど。どうして私をまたここに呼んだのか。どうして村の人たちを森に入れないようになんて言ったのか。あとは、ちゃんとあなたの師匠は旅立ったのかも気になるよ」
「後ろから答えていくわね。三つ目の質問について。約束どおり、師匠は朝方旅立ったわ」
「森に隠れてるなんてのは、なしだよ?」
「ちゃんと遠くに、西に旅立ったわ。もうあなたは二度と会うことはないと思う」
「ならいいけど」
村娘の一番気になっていたのは、ウォルターが旅立ったか、だったのだろう。雰囲気がいくらかやわらいだ。
掟や決まりごと、罰が機能しているというのは、村の秩序を預かる側にとって、とても大事なことだ。もしウォルターがまだ森にいた場合、厄介ごとが増える。重荷といってもいい。
村の男たちに、罪人を痛めつけて追い出すために森で人探しをさせる。これほど気が重くなることもそうそうない。
それをしなくていいとわかれば、肩の荷も下りるというものだ。
「安心した?」
「まあね。けど、聞きたいことは聞き終えてないよ」
「はいはい。次の質問だけど。なんで森に人を入れないように頼んだのか。早い話が、危険だからね」
「そうね。昨日思い知らされた」
地下にでもいない限り、森の木々が根こそぎ吹っ飛ぶなんて爆発、命の助かりようがない。
爆発は起き、これ以上ないほど危険だった。
「村の子の教育に悪いってのもあったけれど。とにかく、何をしでかすかわからない人だったから」
「村の噂以上だったよ」
ため息混じりにぼやく村娘に、セリンは苦笑いを返した。
ウォルターの弟子である自分は、その奇行について直接、より多く知っていた。混乱を招くので、あえて言わないでおいた。混乱させて、今日の目的を果たしにくくなっては困る。
「それじゃあ最後に、あなたの最初の質問——どうしてあなたをここに呼んだのか、に答えるわね」
「そう。それだよ。別に村で話してもいいじゃない」
「次に村を治める人だけに、知っておいてほしいことがあったの。これは村長も知っていることよ」
秘密の話だというなら、2人きりで話すのに、何ら不思議はない。
ただ、どういう秘密なのか。それが肝心だ。村長だけに知らされる秘密。重大なものであることだけは、村娘にも察することができたようだった。
村娘は緊張した面持ちになっている。
「セリン。どういうことなの」
これこそが本題だ。
秘密を話してわかってもらうことこそ、セリンの今日の目的だった。
セリンは、元丸太小屋の上に行って、杖を持ってセリンのそばまで戻った。
その杖は長さが一メートルほどで、節くれの残る簡素なものだった。そこらの木の枝を切り落としてきたものです、と言われても納得するくらいの素朴さだ。
ただし、唯一、村の老人の杖とは違うところがあった。黒い金属らしいものが、杖の頭に埋め込まれている。外側からは、四角い金属の面がある、ということしかわからない。
「その杖は、何?」
「ウォルターの造った道具よ」
「その、何か金属を埋め込んだだけの、ただの杖に見えるんだけど」
子どもの工作遊びでも、形だけなら同じものができあがる。そういう代物だ。道具には違いないが、大したものに見えようがない。
村娘は半笑いになった。
しかしセリンのほうは、村娘とは違う意味で笑っていた。あざ笑うのでなく、得意さをにじませて。
「よく見ててね」
セリンはあえて説明しなかった。見てもらったほうがわかりやすいし、説得力がある。
杖を、地面に突き立てた。
すると同じ場所から、植物の芽が出た。
それだけではない。芽は見る見る成長していく。芽は膝くらいまで伸び、若木となる。3回深呼吸する間には、見上げるほど大きな樹木にまで成長していた。
まだ、変化は終わらない。
一本だけの話ではないのだ。
次々、木が生えていく。
草がまばらに生えるだけになっていたはずの平野に、木々が何十本、何百本も、生えていく。まるで何十年という月日が、呼吸する間に過ぎ去っていくかのような変化だ。
村娘が四方八方見渡せば、そこには、昨日、爆発が起こる前と同じ、森の光景が広がっている。
爆発が起きた、というのは幻覚と幻聴だったのか。
それをはっきり否定する、『元』丸太小屋がすぐ近くにある。
では森が再生したほうが幻覚か。
または夢か。
村娘は、よろよろとした足取りで、今しがた生えて見上げるほど大きく成長した木の幹に触れる。本物だ。ざらざらしていて硬い。
幻覚や夢で、触った感覚はありえない。
村娘は眉間を押さえて、その場にしゃがみ込んだ。
「え、えーと、ごめんなさい。理解が追いつかない。私には、その、ウォルターさんが作った杖とやらを突き刺した途端、森が元通りになっていった。そう見えたよ。ごめんね、変なこと言って」
「その通りよ」
「は——」
「その通り。何から何まで正しいわ」
セリンは杖を地面から抜き、村娘のそばで、同じようにしゃがんだ。
「あなたの言うとおり。この杖で、森は再生したの。よかったわね、村の損失はまるごとなかったことになったわ。ばんざい」
「っじゃなくてぇ!」
村娘は大声を上げる。ほとんど悲鳴のようだった。目は潤んでもいた。
対するセリンは、目をぱちくりとさせていた。