追放処分
「何についてでしょう」
村娘はまだウォルターのことをにらみつけている。
一言謝るだけでは足りないらしい。
どこが悪かったのか、自分の口で説明しなければならないのだ。
「大切な森を、その、吹き飛ばして。けどな、あれは」
「聞きたくありません。どうせいつもの奇行でしょう?」
「村の人間から見ればそうかもだけど、あれは」
「錬金術の研究、ですか」
「そう、その通り!」
わかってるじゃないか、とウォルターは笑顔を浮かべる。
だが村娘は、ムスっとしたままだった。
「確かに、あなたがたの研究には、助けられてきました。主に薬をいただいた面で。今では村の収入の一部となった成果もあります。また病気が治るというのは、お金には換えがたい価値もあります。ただ、今回のことは、とてもかばえません」
「だめ、か?」
「想像してみてください。森で野草を取る子どもがいたら? もし吹き飛んだ範囲に、誰かいたなら? ここには私でなく、武器を持った村の男たちが大勢来ていたでしょう」
その目的は明らかだ。
暴力を背景にした、裁きが待っている。
しかし、結果としては幸いなことに、誰も死んでいないし、ここに来たのは村長である父親の代理の村娘ひとりだ。
少なくとも暴力的なことは起こらない。
「……じゃあ、きみは、ここに何しに?」
「話をできるだけ平和に終わらせるためです。セリンと私の仲が良いのも大きいですが。……というか、あなたたち、どうして生きてるんですか」
「錬金術の研究のため……?」
「殺されても死なないから、かしら」
村娘が固く目を閉じた。どうやら彼女にとって、師弟の答えはそろってズレていたらしい。
「地下にでもいたんですね。あれだけの爆発を生き残った理由はわかりました。死人が正真正銘、ひとりも出ていないのはよかったです。が、失われたものは、あります」
それが、この少々見晴らしの良すぎる景色だ。
殺風景でもある。
「出て行ってください」
びしり、と村娘は西を指差す。
「え?」
「え、ではありません」
「そんな、オレたち2人に出て行けって? いきなり? ちょっとそれは」
「いいえ。そしていいえ」
二度、村娘は否定を繰り返した。
「2人に、ではありません。ウォルターさん。あなただけです。いきなりでもありません。あなたがたの奇行がここに極まった結果です」
「……冗談?」
「本気です。すでに父の了解も得ています」
「あの、けどほら、オレ、錬金術師だけど、薬師みたいなことも、やってたじゃん? いなくなると、困らない?」
「お言葉ですが、すでにセリンさんが完璧にやってくださってます。何でしたらあなた以上に。というか、あなた自身がやったこと、ありました?」
「えーと、大昔、になら?」
「最近はどうなんですか?」
「そういや弟子に丸投げしてたなあ……」
つまり、村にはセリンさえいればいいのだ。
ウォルターは背中に冷たいものが流れるのを感じた。このままでは自分ひとり、追い出されてしまう。頼みは、村娘と親しいセリンだけだ。
「セリン?」
「師匠。本当に悲しいですが」
セリンはまた泣き真似をする。
助けてくれるつもりはないらしい。ウォルターはちょっと本気で泣きたくなった。
「その、過去の功績も、大事だと思うなあ! オレってば」
「それを考慮した上で、です。でなければ追放だけではとても」
うわー。めっちゃ冷たくて暗い目ー。
と、ウォルターは村娘の目を見て思った。
「言い訳の機会が与えられたりは?」
「今こそ最大限の温情を与えられていると、私は思います。村で血気盛んな男たちの前で、おままごとの裁判をしますか? それよりは、夜逃げするようであっても、大人しく西へ行ったほうがいいと思いますが」
いちいちもっともだ。
それに理路整然としている。代表を任されるだけあって、賢い娘なのだ。
「なあ、お前、村長の娘、だったよな?」
「それが何か」
「なんとなくあいつの面影がある……いややっぱわかんねえや」
「一発殴りたいです」
すまんすまん、とウォルターは軽く謝っておいた。
「ただ、うん。立派に育ったもんだとな。オレもうれしいぜ。それにこんな美人にもなって。賢くてきれいな嫁さんとか、もう貴族が膝をついて求婚にくるんじゃねえかっていうほどいい女だよな」
「それで?」
「あの、だから……」
「ほだされません」
「ちくしょうますます立派だな……」
ほだされない、ごまかされない、隙がない。
きっと次の次くらいまで、村長は安泰だろう。尻に敷かれて大変かもだが、そこは村の繁栄に比べればしかたない。
「わかった。出ていく」
こう言う以外、ウォルターに何が言えただろう。