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鍛冶屋へ


 話はまとまった。いいことずくめだ。

 握手を交わし、契約の成立を祝う。


「いやあ、幸先がいい。どうもありがとう」


「なに、構わないさ。それじゃあね。道に迷ったら、王都に行きたいといえばいい。学院はそのすぐ東にある」


 言い終わると、アレイナは「風よ」と唱え、宙に浮いた。彼女の足と地面の距離は3メートルにもなる。


「いいかい。ちゃんと学院に来るんだよ」


「あの、その空に飛べるやつ、オレにもできます? 教えてもらえない?」


「教えるのに3年がかりだ。そんな暇はない。あんたには私の魔術は効かないしね。路銀はたっぷりあるんだ。馬でも何でも使いな」


 それを最後に、アレイナは東へ飛んでいってしまった。


 あちらには、ウォルターが住んでいた森と、近くの村、そして港町しかない。何の用なのか聞きたかったが、そう考える頃には、アレイナは夜空に消えてしまっていた。



* * *




 翌朝。


 空を飛べなければ、陸を行くしかない。


 地道に街道をたどって、ウォルターは1つ目の町に到着した


「なんだかずいぶん様子が変わってるな」


 街道が整備されたおかげか。それとも、町が発展したからこそ、街道が整備されたのか。どちらが先なのかはわからない。

 ウォルターの記憶の中では、町というよりも村で、畑と家の集合体、というほうが正しかった。しかし今では、そうした村から発展し、店は少ないながらも市場ができていた。気になるのは、家が2軒、壁を壊されていたことくらいか。


 壊れた壁よりも、ウォルターは市場のほうに興味がわいて行ってみる。

 どこかで魔獣の骨を買ってくれるようなところがないかパン屋で聞いてみた。


「魔獣の骨なんて、けったいなものを売ろうとしてるねぇ」


「つい昨日、魔術師なら金貨でこいつを買ってくれたんだよ」


 あの魔女は金貨を追加で50枚、行くだけでくれると言った。

 ならばさっさと魔術学院に行けばいいが、東の辺境から王国中央となると遠い。めんどうだ。

 何も金貨50枚、ぜひとも欲しいわけではない。金貨11枚が手に入っただけで十分なくらいで、まあ魔術学院にまで行ってもいいか、くらいなのだ。

 それよりも、道すがらどこかで魔獣の骨を買ってもらって、ある程度稼いで我が家に戻るほうがウォルターにはよかった。

 予定の倍、金貨20枚も手に入れば十分だ。倍ならきっと弟子も感心するに違いない。

 それが得られれば、半年ほど方々を回って錬金術の素材を探した後、我が家に戻ればいい。わざわざ王国中央まで行く必要はない。

 確かに金貨50枚は魅力的ではあるが、アレイナの口ぶりだと、魔術学院に入らされる。ウォルターが興味のあるのは錬金術であって魔術ではない。金を稼ぐためにとりあえず魔術学院は目指すが、どうしても行く、というほどの話ではないのだ。


 つまり、道すがら金貨10枚で残りの骨が売れれば好きに研究素材集めできる。

 

 さっそく、1つ目の町で売れないか試してみることにしたのだが、少なくともパン屋の主人の反応はよくなかった。


「それ本当かい? ここらでも魔獣を狩ったりするが、骨を売るなんて話聞いたことがない。昨日だって魔獣がこの町を襲ってね。死体は町の外に埋めたが、あんた、いるかい?」


「売るほど持ってるんでね。帰りに寄った時にもらうよ」


「売れるってんなら買ってってくれよ」


 パン屋は不満顔だ。

 なるほど、金貨で売れる代物というなら、銀貨ぐらいで買っていっても自然の成り行きだ。

 ウォルターはちょっと考えて、


「この町を魔獣が襲ったって、どんなのだった?」


 と聞いてみた。


「どんなって、影狼だったよ。普通、夜に動くんだが、どういうことか昼間に出てね。さらに珍しいことに、ちょうど魔術師さまが居合わせたから、大したことはなかったけれど、なんだかこのへん、ぴりぴりしているよ」


「影狼か。あんまり、欲しいもんじゃないな。火炎蜥蜴とか、化け蝙蝠とかは?」


「見なくはないけど、町の外に埋まってるのは影狼だよ」


「そうかぁ」


 ウォルターは肩を落とす。もしかしたらと思ったのだ。


「なんだい。魔獣の骨でも、やっぱり種類で違うのかい」


「いいや。うまく言えないんだが、材料としてピンとこないっつーか。影狼は散々使ったし……」


「お前さん、何を、というか何者なんだい。行商人にも見えないが」


「錬金術師だよ。名前はウォルター」


「ははあ。ペテン師か」


「あんたもそれ言うのか……」


 ウォルターは精神的に疲れてしまう。生まれてこの方、嘘をついたこと、ごまかしたことはあるが、それで金を稼いだことはない。


 それに錬金術師はすなわちペテン師、など、納得がいかない。


「どうして錬金術師をペテン師だなんて言うんだ」


「そりゃ、万病を癒す霊薬だの、銅や鉄を黄金に変えるだの言って、貴族のみならず王様まで騙したって言うじゃないか。世間の常識だぞ。そんなことも知らないなんて、どんな辺境から来たんだお前さん。ここだって辺境だが」


「あいにくここから一日歩けば着くところからだよパン屋さん。まあ、わかったよ。オレが錬金術師ってことは一旦忘れて、この町で魔獣の骨を買ってくれそうなところを知らないか?」


「わしに詐欺の片棒を担げって言ってるのか?」


「違う。何なら紹介相手にオレを錬金術師だって言えばいい。もしくはそのままペテン師だとでも伝えろよ。オレは骨を買ってもらいたいだけだ。騙すつもりなんかない」


「それならいいが、まあ、期待しないことだな。買ってくれそうなところに心当たりがないでもないが、売れるかわからん上に、銀貨どころか銅貨で売れるかどうかだ。それでもいいか?」


「構わない。あんまり安いようなら引き上げるだけだし、ものは試しだ」


「じゃあ町外れの鍛冶屋に行くといい。昨日から魔獣の動きが活発でな。急に仕事の依頼が入りまくって、もしかすると材料に骨を使うかもしれない」


 パン屋の主人の推測は、なるほどもっともなものだった。






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