扱いにくい代物
私には生まれつき、羽がついている。
どんな羽かというと、自分の意思とは別に勝手に私をどこかへ連れていったかと思うと、見事に水溜まりに着地して私をずぶ濡れにしたりと、とても扱いにくい代物だ。
今までそれが厄介で厄介で仕方なかった。
みんなに歩幅を合わせてついていきたいと切に思っているのに、体の自由が効かず置いていかれたり、反対方向に行ってしまったりするからだ。
何度羽をもいでやろうと思ったことか。
得体の知れないものが、常に心の中に波紋をつくる不快感というものを私は知っている。
ところで、私は人に興味が持てない人種だ。
人と長く接していると、どんなに親しい人でも疲れてしまう。
そんな私なりに、常識からはみ出さないようにと、今まで気を遣って生きてみたのだが、周りに合わせることが難しかった。
ある時、疲れて羽の好きにさせてみた。
私の体は羽の思うままとなり、顔は俯き、だらりと項垂れた格好になる。
そこで初めて、高く飛び上がった空から、地上の世界を俯瞰した。
私の目は、その得も言われぬ景色に奪われた。
『これを見せたかった』
そう言われた気がした。
羽は、私に新しい世界を教えてくれようとしていたのだ。
それまでは、太陽を見上げても眩しくて目を開けられなかったから、世界がどんなものなのかわからなかった。
けれど、羽を広げ、雲の上まで来てしまえば、世界を見渡せる。
大きな雲による地上の翳りも、丁寧に並んだ人工物も、どこまでも広がりを見せる蒼い海も見渡すことが出来る。
今苦しいのは、今度羽を広げた時、高く飛ぶためによく沈むジャンプ台に体重を乗せているからだ。
どこまで行くのか、と不安になるのは当たり前だ。
どこまで沈むのかわからないから不安なのだ。
でも、そんな時は思い出して。
君が乗っているのは、よく沈む"ジャンプ台"。
ジャンプ台とは、より高く飛ぶためにある。
加えて"自由の翼"が相棒だ。
どこまで飛べるのかは、生涯自分次第。
『次は何を見せてくれるの?』
たまに、水溜まりにうっかり落とされながら、
私は今日も羽に身を委ねている。