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脇役人生異常あり!?  作者: 弱者
 第一章 プロローグ
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8話:ファック・マイ・ライフ!⑧


 (えん)(たけなわ)になる頃。


 俺自身も2杯目の酒を飲み干すと酔いが回り始めて、適度に気持ちよく、ほろ酔いし始める。



 酒の力によって、気分が高揚しているのがわかる。


 素面(しらふ)のときよりも饒舌になり、自制心を欠くなかで俺は満を持して聞いてみた。 


「そういえば、今日って、綾野も来ていないんだよな?」

「綾野?」


 桜木が若干間の抜けた顔で俺を見てくる。


「綾野って……春の初めの頃に転校してきた綾野愛花のことだよな?」


 確認するような口調で聞いてくる桜木。

 俺は「うん。そう」とだけ答えて、頷く。


 すると、同じテーブルに座る目の前の2人が口を開く。


「綾野が私たちの学校に転校してきたのって、私たちが6年生に進級した始業式の日じゃなかったっけ?」

「そうだっけ? そこまでは詳しく覚えていないや」

「たしか、そうだったはずよ。新しく学校に赴任してきた優子先生が自分の自己紹介をしたあとに、転校生の綾野のことを紹介したのを、私、覚えてるもん」


 そう言われてみれば、そんな気がしてくる。


「まぁ、でも、どっちにしろ、今日の同窓会にあいつは来てねぇよ」


 ぽつりと桜木は言った。


「やっぱり、来てないよなぁ」


 俺はがっかりしたかのような顔と仕草で頭を垂れる。しかし、本当は最初から予想していた事実であったため、本当はべつに気落ちしていない。


 それでも俺は3杯目の酒に口をつけながら、未練がましく話す。


「そうだよなぁ。優子先生と同じように同窓会のグループチャットにも参加してなかったし。それに……あいつが俺たちなんかと会いたいと思うわけがないよな」


 そのとき、


「綾野は今回の同窓会に誘ってもいないぞ。俺の知る限り、誰もあいつの連絡先を知らないみたいだし」


 中央のテーブルの真ん中の席から戸山が会話に入り込む。


 どうやら、聞こえていたようだ。


 さらに織部たちのグループも、『綾野愛花』という名前を聞いて、気になったのか、耳を傾けている。


「じゃあ、やっぱり、小学校を卒業したあとの綾野のことを知ってるやつはいないのか?」

「少なくとも俺は知らないな。みんなは?」


 戸山がみんなに問いかける。それがきっかけとなり、かつての転校背である綾野愛花という話題が瞬く間にみんなに広がる。


「私も知らないわね。あいつのことなんか、興味がなくて、どうでもよかったし」


 今度は織部が返事した。さらにそこから織部の取り巻きの1人が思い出したように口を開く。


「綾野って、たしか、桜大(おうだい)の付属小学校から転校してきたんじゃなかったっけ?」

「え、そうだったの!?」


 もう1人の取り巻きが驚きの声をあげる。


 桜大……国内でも最上位に位置する名門私立大学である桜花大学(おうかだいがく)の略称だ。


 お金持ちの子供を付属小学校から入学・在籍させることで多額の寄付金を得て、潤沢な資金力を駆使して、努力家で利発な将来有望な子供を外部生として取り入れる、そうすることによって、これまで数多くの著名人を輩出してきた日本を代表する超一流の名門大学だ。


「たしか、そうよ。転校初日、先生があの子を紹介するときに、そんなこと言ってたもん」


 今度は俺の座るテーブルの女が口を開く。


「あいつ、本当にお金持ちのお嬢様だったのね」


 感嘆の声を漏らしながら、織部はつまらなそうに呟く。


「でもよぉ、なんで綾野はうちみたいな市立の一般小学校に転校してきたんだろうな?」

「それは私も知らないけど……お嬢様の気まぐれってやつじゃないの?」


 女は言葉を濁しながら、適当な憶測を話してくれる。


「うちの小学校を卒業したあと、あいつ、どこの中学に進学したんだっけ?」

「また桜大の付属中学に進学して戻ったんじゃない?」

「ありえるわね」

「ていうか、そもそも、あいつ、6年の終わりの頃にはもうほとんど学校に来てなかったし、卒業式にも来てなかったじゃん」

「そう言えば、そうね」

「あいつにとっても、俺たちと同じ学校に通っていたなんていう事実はただの黒歴史だったんじゃないか?」


 

 みんなして、好き勝手な憶測を語り、綾野愛花漫談に花を咲かせる。


 当の本人である綾野がいないのをいいことに、あることないことを話して盛り上がっている。



 そんななかで、織部がポツリと言い放った。


「そういえば、恵理子も桜大の付属高校に通ってたわよね」


 と。


 その言葉を俺は聞き逃さなかった。


 俺はなにか道が切り開かれたような奇妙な衝撃を感じた。


「うそっ! 本当に!?」

「恵理子って、桜大の付属高校に通ってたの!?」


 織部の一言に、今度は取り巻きの方が驚きの声を上げる。


「恵理子って……仲田さんが?」


 女子の会話におもわず俺も入る。


 俺もまた取り巻き2人のように俄かには信じることができなかったから。


「らしいわよ。私、高校生のときに出会い系アプリをやっててさぁ、恵理子もそのアプリをやってたみたいで偶然にマッチしたのよ」

「そうなんだ。それで?」


 2点ほど突っ込みたいことがあったけど、それはスルーしておく。


「それで久しぶりに会って話をしたんだけど、そのときに『6年生の頃に転校してきた綾野愛花と同じ学校に通ってるんだぁ』、みたいなことを言ってたから」

「へぇ、そうだったんだっ」


 無意識に適当な返事で言葉を濁してしまう。



 俺の反応が大して面白くもなかったのか、織部は俺を置いて、戸山たちや自身の取り巻きたちとの会話に戻る。



 俺は静かに佇み、酒を飲みながら、先程、織部が言っていた言葉を思い出す。



『そういえば、恵理子も桜大の付属高校に通ってたわよね』


『それで久しぶりに会って話をしたんだけど、そのときに『6年生の頃に転校してきた綾野愛花と同じ学校に通ってるんだぁ』、みたいなことを言ってたから』




 仲田さんは綾野と同じ高校に通っていた。

 なら、綾野について、なにか知っているかもしれないっ!



 そんなことを考える俺をよそに、戸山や織部たちの会話が耳に入ってくる。



「綾野からピアノコンクールの招待状を貰ったことって、なかったっけ?」

「そういえば、あったな。たしか、あれだろ? 自分も参加してるから、もしよかったら来てって、言って渡してきたやつ」

「俺は行かなかったんだけど、あれ、誰か行った奴いるのか?」

「いないんじゃない? せっかくの休みなんだから遊びたいし、せっかくの休みに友達でもない、ただの同級生が参加するだけのイベントなんか行きたくないでしょう」

「いや……たしか、誰かが行ってきたとか言ってたような気がするんだよな……」

「それって、誰?」

「誰だっけな……駄目だ。思い出せない」


「ていうかさ。話変わるんだけど、綾野が学校に来なくなったのって、絶対いじめられてたからだよな?」

「事実、そうでしょうね」

「えー、うちのクラスでいじめなんて、あったっけ?」

「いや、どう考えてもあっただろうっ」

「あいつ、間違いなく、うちのクラスにおけるいじめられっ子のポジションだったぞ」

「具体的にどんな風にいじめられてたんだっけ?」

「文房具を隠されてたり、教科書に悪質な落書きされたり……うわばきの中に絵具を仕込まれたり……けっこう色んなことされてたはずだぞ」

「私、綾野が学校で上履きじゃなくて、来客用のスリッパを履いてるのを見たことがあるわ」

「俺は夏休み明け初日にあいつの机の上に菊の花を生けた花瓶が置いてあったり、彫刻刀で机に悪口を刻まれてるのを見たのが一番印象に残ってる」

「あー、それ、俺も覚えてる。あれは俺もいくらなんでもかわいそうだと思ったし、ドン引きしたわ」


「でもさぁ。ぶっちゃけ、仕方ないでしょ? だって、あいつ、友達いなかったし」

「転校したての頃、せっかく、私たちが気を利かせて話しかけてあげたのに、強気っていうか、なんていうか、なんかお高くとまっているみたいな、いかにも『自分はあんたたちとは住む世界が違うのよ』って思ってるような、すました態度をとるのよねぇ。あれ、私、すっごいムカついたんだよねぇ」

「あ、それ、私も」

「私だわ。正直、あいつのこと、嫌いだったわ」

「ていうか、クラスのみんなが、あいつのことを嫌ってたんじゃない?」

「たぶん、そうよね」

「それで、なんとなく、女子のみんなであいつのことを無視し始めて……たぶん、それがきっかけだったんじゃない?」

「張本人のくせに、なに言ってんだよ」

「なにがよ?」

「綾野へのいじめって……麗奈、お前が言い出したんじゃないのか?」

「そんなわけないじゃない。むしろ、私、あいつに一切手を出してないんだけど」

「そうなのか?」

「そうよ。当たり前じゃない。なんで、私がいじめなんて、そんな幼稚で低レベルなことをしなきゃいけないのよ」

「でも、お前、あいつのこと嫌ってただろう?」

「嫌いだったわよ。それは否定しない。私の家と違って、あいつの家って、すっごいお金持ちだったし。でも、だからといって、いじめなんて下らないことしないわよ」


「じゃあ、なんで、お前は綾野のこと無視したり、いじめられてるのに助けなかったんだ? お前の一言があれば、綾野はみんなからいじめられなかっただろうに」

「それはさっきも言った通り、あいつのことが嫌いだったから。私、あいつとできるだけ関わりたくなかったのよ」

「だから、いじめられてても助けなかったのか?」

「そうよ。私はべつにあいつの友達でもなかったし、あいつがいじめられてても、ずっと傍観してたわ」

「ふーん。そういうもんか」

「そういうもんよ」


「でも、私は綾野がいじめられていたときに助けてあげなかったことを反省してるし、後悔もしてるかなぁ」

「どうしてよ?」

「だって、綾野の家って、超が付くお金持ちだったんでしょう? 綾野と仲良くしておけば、色々と都合よく利用できたじゃない。今頃、もっといいお仕事に綾野の家のコネで就職できたかもしれないわ。そしたら、今の彼氏よりも、もっと高収入で高ステータスな社会的偏差値の高いイケメンと知り合うことができたかもしれないし」

「そう言われてみれば、そうねぇ……たしかに私も麗奈じゃなくて、綾野と仲良くしておけばよかったかもっ」

「ちょっと、あんたたちは私の取り巻きでしょう? なに私から綾野に鞍替えして、謀反を起こそうとしてるのよ」

「うそよ、うそ」

「冗談よ、冗談」

「綾野より、麗奈と一緒にいる方が楽しいし、そんな理由で麗奈との縁を切ったりなんかしないって」

「そうよ。それに麗奈と縁を切ったら、そのあとが怖いし」

「どういう意味よ?」

「そのまんまの意味。中学の頃の麗奈を知ってると、ねぇ……?」

「家族のこともあったし……あの頃が麗奈にとって、一番大変だったんじゃない?」

「……まぁね。あのときは色々と迷惑をかけたわ。ごめんっ。あと、ありがとうっ」

「なに言ってるのよ。なんだかんだ、私たち、友達じゃない」

「そうよ。友達じゃなきゃ、まさか大人になってまで付き合い続けないわよ。嫌いだったら、とっくの昔に無言で去ってるわよ」

「あんたたち……!」

「お前らって、本当に仲が良いんだな。普通に羨まし――」


「去年、ねずみ講紛いのマルチ商法の勧誘をしてきたあんたたちが言っても、ちっとも響きやしないわよっ!」

「なんでよっ!? 私たちはただ2人で苦しい思いをするぐらいなら、せめて麗奈にも一緒に私たちの苦しみに付き合ってほしかっただけよっ!」

「そうだよぉ! それにしょうがないじゃん! 私たちだって、心が痛かったんだから! 色んな人に必死に勧誘しても、相手は内心、絶対に半笑いで私のことを馬鹿にしているんだと思うと死にたくなったし、家に置いてある洗剤の入ったダンボールを見るたびに『私はなにやってるだう……』って、思ってたんだからっ!」

「心の底からどうでもいいわよ、そんなこと! 完全に完璧に自業自得でしかないのに私を巻き込まないでくれるっ!? 言っておくけど、あのときに買ってあげた洗剤、未だに山ほど残ってるんだからね!」

「そんな酷いっ!? つらいときに一緒にいてくれるのが本当の友達じゃないっ!?」

「それに実際にあの洗剤良いでしょっ! 汚れがよく落ちるでしょっ!」

「手を出した人はみんな負け惜しみでそれを言うのよ!」

「でも、実際、本当によく落ちるのよ! 麗奈も使ってみたならわかるでしょ!」

「それはただのプラシーボ効果! ただの思い込みだから! 現実を受け入れたくない、あんたの脳みそが全力で現実逃避してるだけっ! あれは至って普通の洗剤だから!」

「――羨ましく、ないな……お前ら、本当に仲が良いんだよな?」



 色々な話が俺の耳に入ってくる。


 だけど、俺は仲田さんが綾野のことをなにか知っているかもしれないと考え込むあまり、その話の内容を理解することができなかったし、頭に入ってこなかった。



 俺は「ちょっと夜風に当たってくる」とだけ言い残して、席を立つ。


 そして、口角泡を飛ばしながら夢中で話し込む織部におそるおそる話しかける。


「……織部さん」

「だから――んっ? あれ、杉崎くん? どうしたの?」


 きょとんとした顔で俺のことを見てくる。戸山も同様の反応を示す。


 なぜか取り巻きの2人は「グッジョブ!」と言わんばかりの表情で俺に親指を立ててくる。……なんで?


「俺、ちょっと仲田さんに聞きたいことがあるから外に出るんだけど……ついでだから、仲田さんに酒を差し入れしようと思うんだ」


 そう言ってから、「仲田さん、せっかくお店に来たのにあんまりお酒飲めていないんでしょう?」と付け足す。


 すると、俺の要件を理解してくれた織部は、


「あ、そうなの? そしたらさぁ……」


 と言って、自身のテーブルに置かれていた、まだ口をつけていないと思われる酒が入ったグラスを取り出す。

 たぶん、織部が自分で飲むために新しく注文した酒だろう。



「これを渡してあげてくれる?」

「いいよ。ありがとう」


 それを受け取る。


「こっちこそ、ありがとう。あとで私も顔を出すって、伝えておいてくれる?」

「わかった」



 俺はグラスの中身を零さないように、店員に見つからないように、細心の注意を払いながら、店の外へと出た。

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