33話:ラビットハウス・オン・ザ・ラブ!①
更新が長期間途絶えてしまい、本当に申し訳ございません。
第二章を書き終えましたので、本日より、正午と夜中の12時に毎日連続投稿させていただきます。
次の日の金曜日。
綾野は学校に来なかった。
姫川先生の話によると、綾野は体調が悪いらしく、親の判断により念のため学校を休むことになったらしい。
そのため、その日、金曜日の午後の授業である5~6時間目は委員会活動だったが綾野は欠席しているため、しかたなく俺は1人で参加することになった。
帰り際、顧問の先生に言われる。
「あの子も転校してまだ間もなくていろいろと不安なんだろう。まだ友達もろくにいないだろうしな。大変かもしれないが面倒をみてやってくれ」
先生は俺の肩をポンと叩く。
先生にとっては軽いお願い程度のものだったのだろうが……俺にはそれがとほうもない重圧に感じた。
・・・・・
そして土日あけの月曜日。早朝。
「こないなぁ……」
俺はうさぎ小屋の前で大きな溜息を吐く。
今日は俺と綾野がうさぎの世話をする初の担当日だ。
しかし、いくら待っても綾野が来る様子はない。
生徒が登校してくるにはまだまだ早いような時間ということもあり、綾野はおろか、登校してくる生徒もほとんどいない。
綾野は自分が飼育委員になったことを知っているのだろうか、と考えてみる。
「絶対に知らないだろうな……」
そもそも綾野が今日必ず学校に来るなんて保障もない。
「はぁ……しかたない」
気持ちを入れ替えて、心機一転。
ひとりでうさぎの世話をはじめる。
仕事をしていれば時間が経つのは早いもので気が付くとホームルームのチャイムがもうすぐ鳴るような時間になっていた。
「やべ、急いでエサを回収しに行かなくちゃ」
校舎を外から回り込んで裏手に向かう。
学校関係者向けの駐車場を突っ切り、給食室の裏口に行くと扉付近に、うさぎのエサであるにんじんの皮がまとめて置いてった。
それを回収した俺は急ぎ足で踵を返す。
そのとき、駐車場に一台の車が入って来るのが見えた。
ずいぶんと高そうな車だな……。
ガラスにスモークが貼ってあるし……。
目を凝らして遠巻きに眺めていると、車の後部座席から女の子が出てくる。
それを見て、俺は驚く。
女の子は、綾野だった。
ためらいがちに車から降りた綾野は運転手と思われる男性にお辞儀をする。
「どうか、お気をつけて。また学校でなにかございましたら連絡をください」
「……わかりました。いつも送っていただき、ありがとうございます」
「いえ、それではお嬢様、いってらっしゃいませ」
「……いってきます」
綾野は小さく頷く。
やがて車は再び発進し、学校の外へと出て行った。
ひとり残された彼女は大きな溜息を吐く。
そして――振り返り、俺に気付く。
「え、えっと……綾野さん、おはよう」
「お、おはよう」
「もう大丈夫なの?」
「う、うん……」
緊張しているのか。
警戒しているのか。
あいかわらず彼女の反応はぎこちなく、よそよそしい。
そのとき、予鈴のチャイムが鳴った。
「そ、それじゃあ、私もう行くね……」
「ちょ、ちょっと待って! 綾野さん!」
立ち去ろうとする彼女を慌てて呼び止める。
「じつは綾野さん、俺とおんなじ飼育委員になったんだっ」
「えっ?」
「綾野さんが早退した日なんだけど……あのあと、みんなが所属する委員会を決めたんだ。でも、綾野さんはそのときにいなかったから最後まで余っていた飼育委員に入れることになって……」
「そ、そうだったの?」
「うん……なんかごめんね。綾野さんがいないのをいいことに勝手に押し付けたみたいに……」
「う、ううん。いなかった私が悪いから……」
「ありがとう……それで、じつは今日が俺と綾野さんのウサギの世話をする担当日なんだけど……あ、それで俺は今日いつもより早くから学校に来ているんだ」
「ごめんなさい、私なにも知らなくて……」
綾野は申し訳なさそうに視線を落とす。
「べ、べつに大丈夫だよ。朝は俺一人でやっておいたから。……それで今日の昼休みと放課後にもうさぎの世話をしなくちゃいけないんだけど……」
俺は言葉を慎重に選びながら。
「あ、あの、べつに必ず来てほしいっていうわけじゃなくて……あ、でも、俺自身は来てくれたら嬉しいかなっ。だけど、それも無理に強制してるっていうわけじゃなくて……もし昼休みのときとかに教室にいたくなかったら飼育小屋に来てよ」
「…………」
綾野はなにも言わない。だから、どう思っているのかわからない。
「俺、待ってるから……気が向いたら、うさぎ小屋に来てよ」
だから俺なりに綾野の気持ちを考えて、汲み取ろうとする。
「い、いいの?」
「もちろんだよ。だって、綾野さんも飼育委員なんだし……」
「う、うんっ。わかった。あ、ありがとう」
そのとき、学校の裏門を閉めていた先生が俺たちのことを見つけて叫ぶ。
「おい、お前たち! なにをしているんだ! もう予鈴は鳴ってるぞ!」
「は、はい! すぐに教室に行きます!」
「そ、それじゃあ、私、先に教室に行くから」
「う、うん。呼び止めちゃって、ごめんね」
「ううんっ。大丈夫っ」
「……もうひとつだけ、いい?」
「な、なに?」
「その……がんばってね」
俺は目を逸らしながら言った。
「ごめん……俺、とくになにもできないけど」
自分でも、なんでわざわざそんなことを言ったのかはわからなかった。
「うん……ありがとう……」
綾野は、気弱に力なくそう呟いてから、おどおどとした足取りで校舎へと入っていった。




