27話:ビター&スイート・マイ・ライフ!⑩
超長期間更新停止になってしまい、本当に申し訳ございません。
とりあえず、ヒロインが泣き喚くところまでは来週中までには投稿します。
翌日。
俺は勇気をだして、自分から綾野愛花に話しかけた。積極的に。何度も。
例えば、朝。
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・
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「お、おはようっ!」
「!? お、おはよう……」
「…………」
「…………」
「い、いい天気だね!」
「そ、そうね……」
「…………」
「…………」
「……あ、あのさ、今日も車で学校に来たの?」
「う、うん。家から学校まではけっこう遠いし、危ないからって、親が……」
「へぇ! そうなんだ!」
「う、うん。そうなの……」
「…………」
「…………」
「……えっと、か、帰りも車なの?」
「う、うん……」
「いいなぁ! 車で登下校なんて羨ましいよ!」
「どうして?」
「だって、車ならクーラーがあるし、乗ってる間も寝てられるじゃん! それに、やり忘れてた宿題なんかも乗ってる間にできるし! 車で登下校できるなんて最高じゃん!」
「…………」
「あ、あれ……どうしたの?」
「……し……だって……」
「綾野さん……? あの、聞いてる……?」
「……じゃないし、本当は私だって……」
「綾野さん!」
「!?」
「だ、大丈夫? 具合でも悪いの?」
「う、ううん。大丈夫……ごめんなさい。なんでもない」
「そ、そう?」
「ええ、だから気にしないで……」
「う、うん、わかった……」
「…………」
「…………」
「…………」
「で、でもさぁ、車で送り迎えしてくれるなんて優しい親だね?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっと、車の運転は親じゃなくて、運転手の人がいるからその人が……」
「あ……ああー! そうなんだ! ごめん、俺、なんか勘違いしてたよ! で、でも、やっぱり、すごいね! 専属の運転手がいるなんて!」
「う、うん……」
「…………」
「…………」
「…………」
「え、えっと………じゃあ、俺、そろそろ自分の席に戻るから!」
「う、うん、それじゃあ……」
「ま、またね!」
「う、うん、またね……!」
・
・
・
例えば、授業と授業の間にある中休み。
・
・
・
「綾野さん!」
「な、なに?」
「さっきの授業、どうだった?」
「ど、どうだったって言われても……」
「やっぱり、綾野さんが前にいた学校の授業の方が難しい?」
「えっと……たぶん、そうだと思うっ」
「やっぱり! 綾野さんが前に通ってた学校って、私立だったんだよね?」
「う、うん。そ、そうだけど……」
「じゃあ、綾野さんにとってはこの学校の授業なんて簡単すぎるかもしれないね」
「……どうして、そう思うの?」
「え? だって、前の学校の授業の方が難しかったんでしょう?」
「…………」
「いや、ほら、私立の学校って公立の学校と比べて、生徒の教育にすごく力を入れてるっていうじゃん?」
「………………」
「なんていうのかな? 英才教育っていうやつ?」
「……………………」
「授業が難しくて大変な分、やっぱり、私立に通ってる子は勉強ができる子や頭の良い子ばっかりだろうしさぁ、だから、綾野さんだったら――」
「…………でよ」
「えっ?」
「……だから……たのに……」
「あ、綾野さん!」
「!?」
「朝も苦しそうにしてたけど……本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫っ……気にしないでっ」
「で、でも、やっぱり気分悪いんじゃない? もし、そうなら保健室に行った方が……」
「……なんでもないっ。ほんとうになんでもないからっ」
「でも……!」
「なんでもないっ!」
「!?」
「お願いだから、放っておいてよっ!」
「!?」
「!?」
「…………」
「ご、ごめんなさいっ! いきなり大声を出したりしてっ……!」
「う、ううん、大丈夫っ。むしろ俺の方こそ……ごめんっ」
「…………」
「…………」
「…………」
「あ、あのさ、綾野さんって――」
「ごめんなさいっ」
「――え?」
「私……ちょっと、お手洗いに行きたいからっ」
「え……あ、う、うんっ……じゃあ、俺も自分の席に戻るよ……」
「う、うん、それじゃあ……」
「ま、またね……」
「うん……またね……」
・
・
・
例えば、授業が終わったあとの休み時間。
・
・
・
「綾野さん!」
「……なに?」
「さっきは本当ごめん! たぶんだけど……俺、綾野さんを傷付けるようなこと言ったよね……?」
「もういいから。私も気にしていないし」
「あ、ありがとうっ」
「それで、なに?」
「え、えっと…………綾野さんの趣味ってなに?」
「趣味……?」
「う、うん! ほら、俺って、綾野さんのこと、まだぜんぜん知らないから……綾野さんはなにが好きなの?」
「いきなり、そんなことを言われても――」
「――あ! ちなみに俺の趣味は読書かな!」
「…………」
「まぁ、読んでるのはだいたいがマンガとラノベだけどね! あはは!」
「……ふーん。そうなんだ」
「それで、綾野さんの趣味ってなに?」
「…………私も読書かな、一応……」
「へぇ! どんな本を読んでるの?」
「今は読んでるのは、これ……」
「へ、へぇ…………ごめん、俺は読んだことないし、知らないや……面白いの?」
「ふ、普通かな……」
「そうなんだ……あ、ちなみにおすすめの本とかってある?」
「お、おすすめっ?」
「うん! 綾野さんなら、いろいろな本を知ってそうだし」
「べ、べつにっ、私も、そんなにたくさんの本を読んでるわけじゃないから……」
「そうなの? でも、俺よりも綾野さんの方がきっとたくさんの本を読んでるよ? なんとなくだけど、そんな気がする」
「…………」
「それにほら、綾野さんって知的でクールな雰囲気があるし」
「………………」
「なんていうのかな? 文学少女っていうか……そう! 深窓の令嬢っていう感じ! きっと綾野さんが本を読んでる姿って、すっごい絵になるんだろうなぁ!」
「……………………」
「だから、綾野さんが面白いと思った本があったら紹介して――」
「あ、あの……!」
「!? な、なに?」
「あ、あのね、私、休み時間の間は本を読んでいたいから……」
「!?」
「だから、その、あんまり話しかけないでほしいの……」
「……そ、そっかぁ! ごめんねぇ! そうだよねぇ! 俺、邪魔だよねぇ!」
「そ、そんなことないけど……ごめんなさいっ。せっかく話しかけてくれたのに……」
「ううん! いいよ、いいよ! 気にしないで!」
「本当に、ごめんなさい……」
「こっちこそ、ごめんね! 何度も話しかけたりして……じゃあ、俺、自分の席に戻るから……」
「う、うん、それじゃあ……」
「…………」
「……じゃあね……」
・
・
・
と、まぁ、こんな感じで俺なりに勇気を振り絞って、綾野に話しかけまくったわけなんだけど……結果は惨敗。なんとも無惨な結果だった。挙句の果てに話しかけないでほしいとまで言われてしまった。
「死にたい……」
給食後のお昼休みの最中、教室に残っていた生徒たちの多くが友達とお喋りをしたり、遊んだり、ワイワイガヤガヤと騒いでいる中で、俺はひとり酷い自己嫌悪を感じながら、自分の席に突っ伏したまま呟く。
「あぁ……俺って、本当にダメなやつ……」
いくらなんでもコミュ障すぎるだろう……本気で死にたくなってくる。
「まぁまぁ、杉崎。そう落ち込むなよ」
「……ん?」
机から顔を上げると、そこには苦笑気味に笑う戸山がいた。そのまま、俺の隣の席に座る。
「元気だせよ。お前はよくがんばってたと思うよ?」
「戸山……」
「まぁ、たしかにお前とあの子の会話は超ギクシャクしてたし、話もぜんぜん盛り上がってなかったけどな」
「……うっせぇ」
わかってるよ、そんなこと。
「ていうか、杉崎。お前、会話を盛り上げようとして無理に明るく、高いテンションで喋ってただろ? しかも焦って相手の返事もろくに聞かずに一方的に喋ってたし」
「…………」
「話してるときのお前、超不自然だったし、キョドりすぎてて、超キモかったぜ。ぶっちゃけ」
「……うっせぇな。昨日、妹にも同じようなことを言われたよ」
わかってるよ、そんなこと。
「まぁ、でも、しかたないんじゃないか?」
「なにが?」
「お前があの子と上手く話せなかったことが、だよ」
「…………」
「ぶっちゃけさぁ、あの子、俺たちと仲良くする気ないだろう?」
戸山は少しだけ声を小さくする。
「あれ、見てみろよ」
「…………」
無言のまま戸山が指差す方を向くと、そこには今ちょうど話題にあげていたあの子――綾野愛花がいた。自分の席に座って読書をしている綾野の後ろ姿を、なんとなく2人して見つめる。その傍らで。
「あの子、自分から話しかけないじゃん? 今も一人でずっと本を読んでるし」
「内気な子なんだよ、きっと……」
お前みたいに自分から誰かに話しかけるのが苦手な子もいるだよ。たとえば、俺とか。
「意外と綾野さんも誰かに話しかけられるのを待ってるのかもよ?」
「でもよぉ、あの子、一人で本を読んでるじゃん。もし本当に誰かに話しかけてほしいなら、本は読まなくね?」
「それは……」
「なんていうかさぁ、あれじゃあ『話しかけるな』って言ってるみたいじゃん」
「…………」
戸山の言葉から逃げるようにして綾野の後ろ姿を凝視する。
なんてことはない。ああいう子はどこの学校にも、どんなクラスにも、一人はいるもんだ。
そして……そういう子はえてして周囲から孤立しがちだし、心証を悪く持たれているもんだ。
例えば……。
「――あの子、昼休みになってからずっと1人で本読んでるねぇ」
教室の隅でお喋りに興じている女の子たちの会話に気付き――おもわず、耳を傾けてしまう。
「ていうかさぁ、なんかあの子って反応悪くない?」
「わかる、わかる。せっかく、こっちが気を遣って話しかけてあげても話を広げてくれないから、会話が続かないんだよね」
「なんか警戒してるみたいだよね?」
「そうそう。私、べつにあの子になにもしてないのに」
「べつに、ただ単に、私たちと喋りたくないだけじゃない?」
「はぁ? なにそれぇ?」
「そうだったら、なんか感じ悪いんだけど」
その女の子たちは、わざとなんじゃないかっていうくらいに大きな声で喋っている。
「………」
だけど、綾野自身は無反応だ。振り向いて女の子たちを見ようともせず、席から立ち上がろうとも教室から出ようともせず、ただ無言のまま素知らぬ顔で本を読み続けている。
自分に向けられている陰口や視線をまるで気にも留めていないといった様子だ。
「ほんと、我関せずっていう感じだよな」
戸山が言った。
「ほんと、すげぇよ。俺なら絶対に無理だ。絶対に耐えられない」
「…………」
「気付いていないのか、それとも気にしてないのか、どっちにしてもすげぇよ。あの転校生」
「…………」
俺は戸山を無視して、綾野の後ろ姿を見つめる。
戸山にはわかんないだろうな、と思った。
誰でも自分から積極的に話しかけれるわけじゃない。大人しいとか、内気とか、気が弱いとか、自分に自信がないとか……そういう自分から話しかけられない子……ああいう子の気持ちなんて。
逆に、俺はわかる。わかってしまう。
すぐに気付くことができた。
さっきから綾野の手は――まったく動いていない。本を読んでいるのに。ページをめくる手は止まったまま。つまりはそういうことだ。
気付かないわけがないし、気にならないわけがない。
ましてや気にしないなんて――できるわけ、ないじゃないか。
誰だって意識してしまうし、聞く耳を立ててしまう。
誰かが自分のことを――悪口や陰口を話していることに気付いているのに気にしないなんて――そんなの、できるわけないじゃないか。
再び、女の子たちの会話に聞く耳を立てる。
「あの子、絶対に私たちと仲良くする気ないよね? なら、前の学校に戻ればいいのにね?」
「そうそう。ほんと、それだよね。いても空気が悪くなるだけなんだし、早くどっか行ってくれればいいのに」
「だいたい、なんで転校してきたのかしら?」
「普通に引っ越しとか、親の仕事の都合とかじゃない? もしくは前の学校でなにかあったとか?」
「なにかってなに?」
「いや、知らないけど……なにか大きな問題や事件とかを起こしたりしたんだったら、学校を追い出されることもあるんじゃない?」
「追い出されるって相当じゃん! いったい、なにしたらそうなるのよ?」
「やっぱり、あれじゃない? 誰かを殺そうとした、とかじゃない?」
「いきなりなに言ってるのよ。そんなわけないじゃん?」
「でも、あの転校生なら本当にしそうじゃない?」
「まぁ、たしかにありえるけどさぁ」
「そもそも前の学校を追い出されたのかどうかも私たちの憶測じゃん」
「あはは、たしかに~」
適当なことを話しては盛り上がっている女の子たち。いい加減、その耳障りな声に強い嫌悪感を抱いたとき。
突然、綾野が席から立ち上がった。
「!?」
「!?」
「!?」
「……ふんっ」
驚く女の子たちをよそに、綾野は小さく鼻を鳴らしたかと思うと、そのまま誰に視線を向けることもなく、教室を出て行った。
そしてすぐに。
「ビックリした!」
「いきなり立ち上がるんだもん、すっごくビビった!」
女の子たちはすぐにまた話しだす。
「聞こえてたのかな?」
「こっちを見てこなかったし、大丈夫なんじゃない?」
「もし聞こえていたとしても、あの様子だと気にもしていなさそうだけどね」
「あのすました態度、なんかムカつく~」
「やっぱり、私たちのことなんて、どうでもいいと思ってるんじゃない?」
「うっわ、超ムカつくだけど、本気で感じ悪い」
こいつら……。
本人がいなくなるとすぐに陰口を再開する女の子たちを見て、おもわず、ぽつりと漏らす。
「……本当、女って陰湿だよな」
まったく、これだから女は。女三人寄れば姦しいとは言ったもんだ。
そんな風なことを思いつつ戸山の方へと振り返ると。
「あはは、まぁね~」
「!?」
そこにはいた。苦笑いしている戸山の隣に織部麗奈がいた。




