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脇役人生異常あり!?  作者: 弱者
 第二章 リスタート
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25話:ビター&スイート・マイ・ライフ!⑧

 申し訳ありません。

 思いのほか長くなってしまったので、2話に分割して投稿させていただきます。


 夕食を食べ終わる。


 父さんは夕食を食べ終わると真っ先に自分の部屋へと戻っていった。たぶん、まだやらなければいけない仕事が残ってるのだろう。帰宅してからも仕事……しかも、酒を飲んだあとに働くなんて、すごいな……。


 兄貴は風呂に入っている。部活と塾を終えて、家に帰ってからも参考書を片手に夕食を食べていた兄貴のことだ。ようやく空腹も満たされ、勉強も一息ついたので、身体に染み付いた汗と汚れと疲れを落としたいのだろう。


 今、夕食後もリビングに残っている我が家の男は俺だけ。あと部屋に残っているのは我が家の女子全員であり、酒に酔っぱらっている母さん主催による女子会らしきものを開いていた。


 正確には、主な会話は母さんと友美によるもので、姉ちゃんはキッチンで夕食の後片付けをしながら二人の会話に参加しているという構図なのだが。



 母さんは本日五本目となる缶ビールを片手に友美と話している。

 俺はテーブルに置かれたままの食器を片付けながら、なんとなく二人の会話を盗み聞く。


 正直、あまり興味がないので、詳しい内容までは頭に入ってこないけど。


「ママが働き始めた頃って、そんなにすごかったの?」

「そうよぉ。とにかく、もう、めちゃくちゃ忙しかったわぁ。あの頃は仕事はたくさんあったのにプログラムを組める人がまったくいなかったから、よく夜遅くまで会社に残って残業したものよぉ」

「嫌にならなかったの? 早く帰りたいって、思わなかった?」

「べつに思わなかったわねぇ。まだ新卒で入社して一年目だったから基本給は低かったけど、残業をすればいくらでも稼げたし、一円の得にもならない家の手伝いと比べたらちゃんと給料も出るし、なによりも自分で稼いだお金で好きなモノを買えるんだから、ぜんぜん嫌だとは思わなかったわぁ」


 ふーん……昔はいい時代だったんだねぇ。


 未来の日本では底辺職や中小企業以下の零細企業では残業代なんて出ないのが当たり前だし、下請けに仕事を押し付けることができる大手企業以外では定時であがることなんて、まず、できないんだよねぇ。

 それに昔と違って、法令遵守コンプライアンスもしないといけないから、余計な手間がかかる上に仕事の効率は悪いし、サービス残業なんて当たり前なんだよねぇ。


 心の中で毒づく。 


 もちろん、『昔はよかった』とか『昔の方がラクだし、簡単だった』とか『今は昔よりも働くのが大変になった』とか、そういう言葉ですべてを片付けるつもりもないが……話を聞いていると、どうしても嫉妬してしまうし、羨ましく思ってしまう。



 たぶん……昔の日本には必死に頑張って努力すれば、報われると信じられるだけの希望があったんだ。

 だから、みんな、必死に努力したし……本当に報われたんだろう。


 本当にいい時代だったんだと思う。

 だからこそ、それが羨ましくて仕方なかった。



「いいなー。私も早く大人になって自分で働いて稼げるようになりたいなぁ。絶対、大人になって働いている方が楽しそうだもん」

「そりゃあ、楽しいわよ、大人は。自分のことはぜんぶ自分でやならきゃいけないけど、その分だけ、なにをするにしても自由だし、自分でなりたいと思ってなった仕事は学校の勉強なんかよりも、よっぽど楽しいわよ」

「じゃあ、ママは……プログラマー?……っていう仕事をしてて、楽しいと思うんだ?」

「ええ、すっごく楽しいわよぉ。まぁ、ママは元々、キーパンチャーだったんだけどねぇ。当時はまだプログラムを組める人が会社はおろか日本にもあんまりいなかったから、休日のたびに上司に会社まで呼び出されて休日出勤をして、プログラムの勉強をしたものよぉ」

「休みの日まで仕事の勉強してたの? ママはその仕事が本当に好きなんだねぇ」

「まぁねぇ。あの頃は『コボル』っていう言語を使ってプログラムを組んでいたんだけど、使い方が英語に近くて楽だったわぁ。大学の卒業制作でも、上から流れてくる数字を処理するだけのプログラムだけでもA評価を貰えたし」


 酒に酔い饒舌となっているのか、母さんは聞かれてもいないのに自分の昔話を語り出す。


 こうなると、いつも母さんの話は長くなる。

 あまり興味がある話でもないし、聞いて為になる話でもないと判断した思った俺は、そのまま、まとめた食器を持ってキッチンへと向かう。




「もう、本当に、あの頃はすごかったのよぉ。私と一緒に新卒で入社した同期だった綾野くんなんて、いきなりお客様クライアントのところに連れていかれて、『この子はもう5年以上この仕事で食ってます! だから、どんなプログラムでも組むことができます!』……なんて、紹介されてたわ」


「それで、その人はどういう反応してたの?」

「もちろん、すっごく焦ってたわぁ。私も一緒にその案件プロジェクトに参加してたから、そいつとよく一緒に話してたんだけど、弱音ばっかり吐いてたわぁ」

「そりゃあ、そうだよ。いくら人が足りていないからって、新人にそんな仕事を押し付けるなんてぇ」


「でも、当時はどこもそんな感じだったわよぉ。実際、ママの会社以外にも、その案件に参加してた元受けの会社があったんだけど、そこの会社の子なんて、なにもわからないのに一人でお客様のところまで行かされてたし、なにをどうすればいいのかもわからなくて、パソコンの前で泣き出しちゃってたわぁ」


「うっわぁ、可哀想……すごい時代だったんだねぇ」


「まぁ、そういう人たちばっかりだったから、依頼してきた会社の担当者も私たちが新人だっていうことに気付いていたでしょうし、ママたちにすごく優しかったし、よくしてくれたわぁ。よく、回らない寿司屋に連れて行ってもらったし……そうそう! ママなんて服まで買ってもらっちゃったわ! 頑張ってる御褒美って、言われてぇ」


「いい人だったんだねぇ」

「そうねぇ。まぁ、ママと同じくらいの娘が二人いるって言ってたし、子供の成長を見守る親みたいな感覚だったんじゃないかしらぁ?」

「ふーん。それで結局、その仕事はできたの?」

「ママたちが担当していた部分のシステムは無事に完成したし、ちゃんと動いたわよ」

「自分たちだけで完成させたんだ? すごいじゃん」


「何度も言うけど、動いたのはママたちが作った部分だけだったけどねぇ。結局、元受けの会社が担当していたホストコンピュータのシステムの方が動かなくて、その案件もぽしゃったわぁ。そのときの依頼料がうちの会社にちゃんと支払われたのかまではママも知らないけど……その依頼してきた会社、数年後に倒産しちゃって再生法を受けたのよねぇ」


「へぇー。でも、ママたちがつくってたところは問題なかったんでしょう? ママたち、すっごい頑張ってたんだねぇ」


「ママもだけど、やっぱり一番頑張ってたのは綾野くんかしらぁ? 毎日会社に寝泊まりして、必死にプログラムを組んでたわ。当時はプログラムの仕様書もぜんぶ手書きだったんだけど……あいつ、ほとんど寝ない状態で仕様書を書いてたから、いつも字が汚くて、解読するのが大変だったわよぉ。なんか、よだれまでついてたし……まぁ、でも、あの頃は毎日すっごく忙しくて大変だったけど、すごく充実してたし、楽しかったわよぉ。私も、綾野くんも、あの経験があるからこそ、今の自分がいるわけだしね」


「その人はどうなったの?」


「数年後に……ちょうど、その依頼してきた会社が倒産したときと同じ時期に会社を辞めて、自分で会社を立ち上げてたわよ。『将来、絶対に成功するプログラムシステムを思い付いた!!』とか、なんとか言って」


「会社を立ち上げるって、自分で会社をつくったってこと?」


「そうよぉ。えーと、なんていう会社名だったかしら……たしか、小売店や飲食店のレジに搭載するPOSシステムをつくるって言ってたんだけど……あいつが会社を辞めてからは会ってないし、忘れちゃったわぁ。まぁ、でも、あいつ、仕事はむちゃくちゃできたし、もしかしたら今頃、大会社の社長にでもなってるかもしれないわねぇ」


「そんなに仕事できたんだ? ママよりも?」


「できたわねぇ! 悔しいけど、センスがママとはまるで違ってたし、それに自分に対するプライドがすっごく強くて、辞める頃には『この会社に俺よりもいいプログラムを組めるやつはいない』って豪語してたぐらいだもん。事実、新しい言語が出るたびに、いつも誰よりも早く、人一倍勉強してたし、『仕事を残したまま家に帰るなんてできない』なんて言っては、いつも夜遅くまで会社に残って残業してたわぁ」


「へぇ、ママよりも仕事ができるんだぁ! じゃあ、その人はママなんかよりもずっと仕事が好きだったんだねぇ?」


「その言い方だと、なんか妙に引っかかるわねぇ……あーでも、あいつ、なまじ自分が仕事できるから、他人の仕事ぶりをぜんぜん信用しなかったのよねぇ。だから、部下や同僚にぜんぜん仕事を任せなくて……だから、いつも夜遅くまで残業してたってのはあるだろうしぃ、プログラマーとしては優秀だったけど、会社を経営する管理者してはあんまり仕事ができないタイプかもぉ」


「私はその人のことをママの話からでしか知らないけど……なんか結婚とかできなさそうだなぁ……って、思ったぁ」


「あー! それ、ママもすっごくわかるわぁ! あいつ、たしかに仕事はできるから社会人としては成功していそうだけど、結婚とかして子供ができても仕事に夢中で家族のことを一切顧みない仕事中毒ワーカーホリックになってそうだわ!」


「……私が言うのもなんだけど、ママってば、今はどこでなにをしてるのかもわからない人のことをよくそこまで言えるね……」




 リビングの方では母さんと友美がなにか話し込んでいる。


 しかし、俺が()()に気が付くことはなかった。

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