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脇役人生異常あり!?  作者: 弱者
 第二章 リスタート
20/44

18話:ビター&スイート・マイ・ライフ!①


 大変お待たせいたしました。

 第二章の3分の1(嵐の前の静けさ的なところまで)程度まで執筆・第一推敲のメドがたちましたので投稿させていただきます。私事等の異常がなければ、また数日間ほど毎日投稿させていただきます。

 ……また長らく投稿が途絶えていたのにも限らず、こんなクソみたいなでだしで申し訳ございません。次話からはまた元の作風に戻ります。


 俺は考えた。




 考えた。


 考えた。


 考えた。



 考えて、考えて、考えて、考えて、考えて――考え続けた。

 考えて、考えて、考えて、考えて、考えて――考え抜いた。




 そして。




 考え抜いた末に――俺はここらでひとつ妄想してみた。



     ・

     ・

     ・

     ・

     ・



「――はい、カット!」


 冬の真夜中の公園。



 野太い人の大声と映画撮影用の道具である『カチンコ』を鳴らした甲高い音が響き渡る。


「はい、オッケーです! 問題ありません!」

「よーし! じゃあ、今日はもうこれで終わりにしよう!」


 自分専用に設営された野外用の椅子に座り、偉そうに踏ん反り返っていた監督の一声をきっかけに静まり返っていた撮影現場が一気に騒がしくなる。


「では、これで本日の撮影は終了となります! 皆さん、お疲れ様でした!」


 周囲から、ちらほらと呼応する声があがる。



「また、刺殺女さんは本日をもって撮影終了クランクアップとなります! 刺殺女さん、本当にお疲れ様でした!」


 周囲から、ちらほらと歓声の声があがる。



 すると、当の本人は少しだけ気恥ずかしそうにはにかみながら、


「こちらこそ、お疲れ様でした! 皆さん、本当にありがとうございました!」


 周囲の人々にお礼の言葉を述べて、深々とお辞儀する。


 礼儀正しく、感謝の気持ちを伝えるというよりも、気に入られるため、取り入るために愛想良く、振る舞っているような大人の笑みを浮かべながら。

 

 周囲から、刺殺女に向けた労いの言葉や拍手が送られる。



 冬の真夜中の公園――撮影現場は温かくて和気あいあいとした空気に包まれており、ほのぼのとした雰囲気が流れている。




「終わったぁ……これでようやく帰れるわぁ」


 真っ赤な血糊のぶちまけられた地面に倒れていた血まみれの女性――綾野愛花が独り言を呟きながら立ち上がろうとする。


「お疲れ様です、綾野さん!」


 血糊の付いた本物の包丁を片手に持ち、血糊である偽物の返り血を浴びた女性――刺殺女がもう片方の手で立ち上がろうとしている綾野に手を差し伸べる。


「あら、ありがとう」

「いえ、お気になさらないでください!」


 お互いに撮影中の険悪な態度とは打って変わり、表面上は友好的な態度で接しながら手を取り合う。

 

「1回目で撮れてよかったですね」

「本当よぉ。ミステイクが何度も出て、そのたびに地面に寝っ転がるなんて、絶対に嫌だったから1度目で決まって本当に良かったわぁ」


 血糊によって濡れた服越しに自分の両腕を抱き、冷えた肌をさする。


「ずいぶんと身体が冷えちゃったわ」

「綾野さんはまだ撮影がありますし、身体が冷える前に早く着替えた方がいいですよ」

「そうね。風邪を引く前に着替えるとするわ」


 置いてあった誰かのブランケットを手に取り、持ち主の了承も得ずにそれをケープ代わりにして羽織る。


「それにしても、さすがは綾野さんでしたね! 迫真の演技でした!」

「ありがとう。あなたも新人とは思えないくらいに演技が上手かったわよ」

「本当ですかぁ! やったぁー!」

「ええ。とっても上手だったし……なんていうか、鬼気迫る演技だったわ」


 綾野は笑いながら、肩をすくめる。


「本番の撮影中、私、あなたに本当に刺されるじゃないかって、内心、気が気じゃなかったわ」

「す、すみませんっ。初めて貰った大きな役でしたので演技に熱が入りすぎちゃいましたっ」


 刺殺女は苦笑いを浮かべては頭を下げる。


「私って、学生の頃から演劇部に所属していたんですけど、その頃から演技に夢中になって自分の役にのめり込んじゃうです……」

「自分の演じる役に成りきってたものねぇ。まだ新人なのに大したプロ意識じゃない」


 綾野がなにげなく言った言葉に刺殺女は大きく反応する。


「なに言ってるんですか! 綾野さんこそ、女優としての意識が高すぎますよ!」

「そうかしら?」

「そうですよ!」

「べつにそんなことないと思うけど?」

「ありますよ! 自分が演じる役の気持ちを掴むために自分の身体を売るだなんて……普通、そこまでしませんよっ!!」


 周囲の人々が驚きと同様のあまり、どよめく。



「ええ! うそっ!?」


「ちょ、それって、本当なんですか!!」


「もしかして、綾野さん、自分の春、3万で売っちゃったんですか……!?」

「おい、ばかっ! なに失礼なことを言ってんだ!」

「す、すいませんっ! 俺、軽率でしたっ……!」

「まったく……いくらなんでも安すぎるだろうが!」

「そうですよね、綾野さんの春でしたら、この1.5倍は出さないと……」

「当たり前だろうが……いくらなんでも3万はあまりにも綾野さんのことを軽視しすぎだ」


「ちょっと、そこのバカでゲスなクズ男2人! それも失礼でしょうが!」

「え、なんで?」

「そうですか?」

「ああ、もうっ、これだから脳味噌が股間に直結している生き物は……」

「なんだよ?」

「また、俺、何か失礼なことを言っちゃってましたか……?」

「あのねぇ、常識的に考えてみなさいよ。綾野さんが未だに春を持ち続けていたわけないでしょう? とっくに枕営業で喪失してるに決まってるじゃないのよ」

「あー……それもそうだな」

「た、たしかに言われてみれば、そうですよね……!」


「ちくしょう……! この情報をもっと早くに知ってたら、俺も絶対に金を出して頼んでたのに……!」

「俺だって、同じ気持ちだよっ! そんでもって、そのときの様子を隠し撮りしておいて、あとから脅迫するのにっ!」

「俺なんて、身体だけの関係を続けたあと、飽きたら金をせびってたのに……!」



 みんなして、言いたい放題言いまくる。


 撮影が夜遅くまで続いていたということもあり、誰もがハイテンションとなっており、どこかおかしくなっている。

 公園内はカオスと化していた。



「べつにそんなに驚くことでもないでしょ?」


 なんで、そんなに驚くの?

 そう言いたげな表情で首をかしげる綾野を見て、また刺殺女が大きく反応する。


「驚きますよ! 役作りとはいえ、なんで、そんなことしたんですか?」

「だって、そうでもして演じる役と同じ経験をしてみないと共感できなかったのよ……なんていうか、ずいぶんと極端な思考回路を持ったヤバい人の役だし」


 そう言ってから、綾野は思い出したように口を開く。


「ていうか、それを言ったら刺殺女ちゃんだって凄いじゃない。自分の演じる役の気持ちを掴むために実際に人を刺したんでしょ?」


 また、周囲の人々が驚きと同様のあまり、どよめく。



「さすがに殺してはいませんけどね」


 そんなに驚かないでくださいよ。

 そう言いたげな表情で苦笑いを浮かべる刺殺女は自らを弁解するかのような口調で話す。


「ほら、やっぱり、人を刺した人の気持ちは実際に人を刺してみないとわからないじゃないですか?」

「つまり、犯行に及んだ動機は私と同じということよね?」

「そういうことになりますね。だから、父に頼んだんですよ。『役作りのために刺してもいい?』って。でも、父ったら、本気で嫌がるんですよ。だから、仕方なく、むりやり刺したんです」

「へぇ、そうなんだぁ。なるほどねぇ……」


 綾野は一度、喋る口を閉じてから、再び――


「刺殺女ちゃん。あなた、かなりヤバいわね。頭が。それも相当に。一言で言って、気が狂ってるわ」


 笑いながら、自身がしみじみ思った刺殺女への気持ちを素直に言い放つ。


 対して、当の本人は、


「はい、昔からよく言われます! 『お前はなにかに夢中になると頭がおかしくなる真正のキチガ――(自主規制のピー音)――だ』って!」


 笑いながら、いけしゃあしゃあと言ってのける。


「私、最初は父のことを本気で刺し殺そうと思ってたんですよ。でも、父は必死に本気で抵抗してくるから、手元が狂ちゃって上手く刺し殺せないなかったんです」

「当たり前よ。生きるか死ぬかの瀬戸際なんだから。あと、狂ったのは手元だけじゃないわ。あなたの頭もよ、頭」


 綾野の言葉を華麗にスルーして、刺殺女は包丁を握る自身の手のひらを見せる。


 包丁にこびりついている血糊はどことなく黒ずんでおり、本物さながらの臭いがこびりついている。また、包丁を持つ彼女の手は指が一本欠損していた。


「ほらぁ、見てくださいよ、ここ」

「あらら……まるでエンコ詰めしたみたいになっちゃてるわね」

「そうなんですよぉ。間違って、自分の指を切り落としちゃったって……おかげで利き手なのに、こっちの手では物を強く握ることができなくなちゃったんですっ」

「大変ねぇ……でも、これで今後は任侠ヤクザ映画や殺人映画スナッフムービーに出演するときは特殊メイクがいらなくなったじゃない。むしろ、よかったわねぇ、刺殺女ちゃん」

「はいっ、不幸中の幸いでした!」

「それで、その切り落とした指はどうしたの?」

「せっかくなので、記念として、父と一緒に家の冷蔵庫で冷凍保存してます」

「なんの記念なのよ」


 おもわず、吹き出してしまう。


 笑いすぎて、涙が出てきた。あと鼻水も。


「ていうか、やっぱり殺してるんじゃない」


 ツッコミを入れる綾野。


「いりませんか? 欲しければ、どちらもタダであげますよ?」


 ボケを入れてくる刺殺女。


「いらないわよ、そんなもの」

「えー貰ってくださいよ。私もいらないんですよ」

「知らないわよ、そんなこと」

「むぅ……綾野さん、1人焼肉や1人闇鍋をしたり、1人食人カニバリズムをする予定とかって、ないんですか?」

「あるわけないでしょう」


 指で目元の涙を拭う。あと鼻水も。



「まったく……前々から色々な意味でヤバい子だと思ってはいたけど、あなたって、本物なのねぇ。とりあえず、帰宅する前にこのまま病院に行って、診察してもらったら? 頭よ、頭」

「ええ、そんなぁ! 綾野さんにだけは言われたくないですよぉ」

「あら、私はマトモよ? 少なくとも、あなたよりは絶対に」

「なに言ってるんですか! さすがの私も演じる役の気持ちを掴むために身体を売ろうとは思いませんよ。誰がどう見たって、私よりも綾野さんの方が頭がおかしいじゃないですかぁ?」


 お互い、言いたい放題言い合ってはほのぼのとした顔で笑い合う。



「いえ、お二人とも十分頭がおかしいですよ」

「そうですよぉ、だから安心してください」

「むしろ、狂ってるのがお二人の平常運転ですから、お気になさらずに」



 周囲から、以下略。



 みんな笑顔で笑い合う。


 みんな楽しそうだ。

 

 温かくて和気あいあいとした空気が流れており、ほのぼのとした雰囲気だ。



 それは、じつに……じつに優しい世界だった。



      ・

      ・

      ・

      ・

      ・



「――って、いくらなんでもおかしすぎるだろうっ!!?」


 おもわず、自分自身にセルフツッコミを入れる。


 309行・5444文字も使い、無意味且つ不必要に長ったらしく続いていた己のアホな妄想を強制的にログアウトさせる。



 椅子から立ち上がり、勢いよくかぶりを振る。


 

 そんな頭のおかしくて殺伐としたゆるふわガールズトークを和気あいあいと話す女性たちがどこにいるんだよっ!

 いや、女性たちが普段どんなことを話しているのかなんて知らねぇけど!


 でも、さすがにそんな会話は絶対にしねぇよ。たぶん。

 ていうか、なんで周りの人たちもおかしいと思わないんだよ!


 笑顔の絶えない職場ってやつか?


 頭がおかしいし、ヤバいだろう――そんな妄想を永遠と繰り広げていた俺の頭が。



 突然、椅子から立ち上がり、意味不明な独り言を叫ぶ……そんな奇行を繰り返す俺のことを、同じクラスの同級生たちが若干ドン引きした様子で遠巻きから眺めてくる。俺の両隣の席の同級生が無言のまま、机を離した。

 


 あ、やべぇ……。

 すぐに我に返った俺は顔を伏せて、椅子に座り、身体を縮こまらせる。


 そして、そのまま素知らぬ顔で何事も無かったように振る舞う。

 やがて、同級生たちはまた踵を返して、誰かとのお喋りに花を咲かせる。

 

 俺に話しかけてくる同級生は誰もいなかった。

 マジで誰も1人もいないかった。




 このとき、俺はまだ気づいていなかった。




 同級生たちの心の中で、俺に1度目の人生ではなかった新しいキャラ設定と属性が付いたことを。

 


 おめでとう!

 杉崎勇気のキャラ設定は大人しくて意志薄弱な同級生から、あんまり関わらない方がいいタイプのやべー奴に強制的に進化した!

 属性は陰キャ・無能から、キ〇ガイ・電波さんに強制的にジョブチェンジだ!



 

 同級生たちの心の中で、このクラスのスクールカーストにおける俺の立場が変化したことを。



 市立元湊ヶ丘小学校、6年2組、杉崎勇気(28)……スクールカースト最下層への永続的強制収容決定の瞬間でした。

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