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復讐するピーターパン  作者: 小秋
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数学の授業が終わり、休み時間になると教室はざわめきはじめた。

「なーに難しい顔してんの?」

いつのまにか私の席の前に七海が立っていた。ペコちゃんが描かれた赤い袋を手に持って、どこかに席を外して空席となった前の生徒の椅子に座った。


ん、と差し出された袋に、ありがと、と返し袋の中に手を入れひとつの飴玉を取り出した。

「いや…昨日さ……」

あたしは昨日幼馴染と数年ぶりに再会した話を目の前に親友に話そうと思ったけど、やめた。

はりついている包み紙をぺりぺりと剥がす。

「お母さんと喧嘩しちゃって。勉強しろってうるさくてさ」

取り出したミルキーを口の中に放り込む。じゅわっと甘さと唾液が広がった。

「うちもだわ。そんなんじゃイイ大学行けないぞって怒鳴られるし。余計やる気なくすっつの」

七海は明るいお調子者だけど、ご両親がどっちも学校の先生をしていて、なかなか厳しいご家庭だ。

大学も国公立に行くように言われいる。

「勉強しろって口癖みたいなもんだし、飛鳥も気にしない方がいいよ」

七海の励ましに、わたしは頷く。その後は七海が昨日見たテレビ番組の話になった。

10分の休憩時間はあっという間に過ぎて、次は古典の授業だ。


源氏物語に嫗として出てきそうな長い黒髪のおばあさん先生は、のっぺりとした抑揚のない声で古文を朗読している。

とくに当てられることもなく、延々と先生の声を聞くこの授業では大半の生徒が眠ることになる。

あたしもいつもならとっくにうとうとしている頃だ。

だけど、今日だけは頭をフル回転させて思考にふけっている。


昨日、ユキくんは復讐しにやって来たのだと言った。

どういう意味だと追及しようと思ったのに、ユキくんは「もう8時だぞ。家に戻れよ」と促して来た。

まだまだユキくんに色々聞きたかったのに、せき立てられるように玄関まで追いやられた。

わたしは渋々靴を履きながら、

「明日も来ていい!?」

と聞いた。思ったより必死な声が出ていた。

「……いいぜ」

一瞬戸惑った表情を浮かべたけど、ユキくんは笑って許してくれた。

あたしはまだ明日もユキくんがこの街にいることに軽い奇跡を感じたのだった。




「あり、をり、はべり、いまそかり」

嫗の古文を文法をBGMに、手元の電子辞書の検索キーワードに復讐と入れた。


【復讐】

かたきうちをする。仕返しする。報復。


ユキくんは誰に敵討ちしに来たのだろう。

昨日からぐるぐるとある仮定があたしの脳内を支配していた。

ユキくんはご両親を亡くしたんじゃないんだろうか。

家族のことを聞いた時の反応は、氷のように冷たかった。

もし、何者かの手で、お父さんとお母さんを奪われたとしたなら。

その何者かに復讐しに来たんじゃないだろうか。

そしてさらに仄暗い考えがある。

ユキくん自体ももしかしたら……。

なんでも話せる親友に話せなかったのは、時を止めた幼馴染が幽霊なんじゃないかと思ってしまったからだ。




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