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「……よし」
あたしは学校が終わるとユキくんちの前にいた。
昨日見た明かりの真偽を確かめるために。
今日は委員会があったから、あたりはすでに薄紫に包まれ始めていた。
こっそりとユキくんちの敷地内へと足を進める。
荒れ放題になってしまった庭を抜けて、玄関へとたどり着く。
ドアに手をかけてそっと引いてみると、ガチャっと音がなった。
「開いた」
だれも管理するものがいないから当然なのかもしれないけど。
中は暗くて良く見えない。
靴を履いたままでいくか迷ったが、しのびなくてやっぱり脱ぐことにした。
靴を玄関に置いて、あたしはそおっと進み始めた。
玄関から廊下を少し歩くと、リビングがあった。7年前、あたしもよく遊びに来た場所だった。
すっかり埃を帯びたソファやテレビなど家具たち。意外にも当時のままだった。
「引っ越しのときに置いていったのかな…?」
チェストの上には、木製のフレームに飾られた家族写真だった。笑顔にあふれた、理想の3人家族の姿がそのままに写っている。
ユキくんちのパパはIT系の重役だったと聞いたことがある。会社が傾いて夜逃げすることになったんじゃないかと密かに思っていた。
写真にかぶった埃を指で払いながら、思いを馳せていたとき。
ゴトッ
二階からなにか物音が聞こえた。
ビクッとあたしの肩も大きく震える。
『泥棒か…不良かも…』
昨日の母の言葉がふいに思い出されて、途端に恐怖がせり上がってきた。
もし空き巣が入ってきて鉢合わせたら……
トン、トン、と階段を誰かが降りる音がする。
どうしよう、と頭の中はぐるぐると回っているに、怖くて体が動くなってしまった。
どうしよう。
とにかく逃げよう。
背を向けて、玄関に向かおうと一歩踏み出したとき。
「……飛鳥?」
甘いソプラノの声が響いた。
懐かしさを感じる声に思わず振り向くと、そこには先程見たままの少年の姿があった。
「……ユ、ユキくん……?」
あたしは先程の恐怖と驚きで、声がうまく出せない。
なのに少年は思い出のときのままニコっと笑った。
「久しぶりだな!元気だったか?」