消えた幼馴染
ネバーランドは大人がいない子供だけの国。
どうしてか知っている?
汚い大人になる前に、
ピーターパンが殺しているのさ。
あたしには昔、幼馴染がいた。
亜麻色の髪に、色白の肌、ぱっちり二重の可愛い少年だった。
家が隣同士だったから、小学生の頃はいつも二人で遊んでいた。
もしあたしと同じ高校生になっていたら、少女漫画もびっくりな胸キュン幼馴染ラブが始まっていたかもしれないのに。
その子は小学3年生のある日、突然いなくなってしまった。転校していったのかどうか記憶がおぼろげになっていてわからないけど、とにかくなんの挨拶もなしにいなくなってしまった。
「えっ、じゃあ飛鳥ってその男の子がいつか迎えに来てくれる…!とでも思って、待っちゃってるワケ?怖ッ!!」
学校からの帰り道、親友の七海が大げさに腕をさすりながら言った。
「違うわよ!今頃成長していたら、イケメンの幼馴染ができてたかも、って話!」
「やっぱり夢見てるじゃん。まあ幼馴染なんて絶滅危惧種、いる可能性があるだけ羨ましいけどね」
4月に高校二年生に上がった七海が、クラスにイケメンがいない!と嘆き、そこから話しているうちにあたしの幼馴染の話になったのだ。
「はぁ~。クラス替え期待してたのに。サッカー部の木田くんとは一緒のクラスになれないし、そもそも男子が少ないし、私の青春はどうなってるのよ…」
木田君はサッカー部で1年の時からレギュラー入りしている、ジャニーズ系のイケメンなのだ。
「それはね…。木田くん理系だから、うちら文系じゃ絶対同じクラスになれないよ」
「わかってたけどさァ…木田級の男はいないし、灰色だわ、灰色の青春。その点、飛鳥はいいよね。可愛かった幼馴染が吉沢亮みたい成長した姿で転校してくるんでしょ?」
「それ最高じゃん…。ってどうせ痛い妄想ですよぉ…」
それから話題は移り、担任の先生の悪口のひとしきり言った後、いつもの分かれ道で七海とはバイバイした。
住宅街を進んでいけば、白い一軒家の隣にある、ブラウンの色の二階建てが我が家だ。
白い家には、幼馴染のユキくんが住んでいたのだ。ユキくんがいなくなってから、その家はずっと空き家だった。小さいころピカピカにまぶしかった白は、今はもうアイボリーといった方が正しい。
ユキくんの家族がいなくなってから、その家はずっと放置された状態で、売られることもなく、その姿のまま年を重ねていた。昔はきれいに整備された庭も、今は雑草が伸び放題となっていた。
記憶の中のユキくんちは、若くて綺麗なお母さんに、優しそうなお父さん、そして可愛い男の子のユキくんと、絵に描いたように幸せそうな家族だった。朝ごはんがいつも白米と味噌汁の我が家と違って、お母さん手作りのフレンチトーストが食卓に並ぶ、おしゃれなお家だったのだ。
そんなユキくん家族は、なんの前触れもなく、ある日突然いなくなってしまった。
家に帰って、晩御飯食べた後、あたしは自分の部屋でスマホをいじりながらベットに寝そべっていた。
ふと、カーテンをまだ閉めていなかったことに気づいて窓際によると、となりの家の窓に明かりが灯ってのが見えた。
ユキくんがいなくなって、8年間消えたままだった光が。
「お母さんッッ!!!」
転がるように階段を降りて、台所にいる母のもとへ来た。
「なによ、慌てて。どうしたの?」
もしかして明日お弁当の日だった?と母はとぼけたことを言うが、それどころではない。
「隣の家!明かりがついてたから人がいる!」
「お隣?お隣はずっと空き家でしょ?」
「ちがうの!明かりがついてて…だからユキくんが帰ってきたのかもしれない!」
あたしは興奮を抑えきれない勢いなのに、母はまったくピンと来ていない。
「お隣にだれか引っ越してきた様子なんてないわよ。あんたの見間違いでしょ?」
「本当についてたもん」
「じゃあ泥棒とか不良がいるのかしら…」
怖いわね…と言いながら母はとなりの居間の方に進み出したので、ついて行く。
窓のそばまで行き、カーテンを開けた。この窓はお隣の方を向いているのだ。
シャッと強く開けた先に、残るは暗闇だけだった。
「なによ〜。やっぱりあんたの勘違いだったのね」
ユキくんと仲よかったものね、と笑いながらまた皿洗いのために台所へと戻っていた。
あたしはもう一度よく向こうの家を見たけど、相変わらず暗闇の中ひっそりと静かに佇んでいるだけで、あったはずの光は見えなかった。