祭りの夜に
学校が始まり、一月以上が経った。
10月中旬の、ある日の夜。
(ガヤガヤガヤ)
「ねえ、陽ちゃん。
早よう[早く]〜、行こう〜」
「う、うん……」
今日は、近くの神社で祭りがあると言う事で、
僕は女の子と一緒に、賑やかな人混みの中にいた。
女の子は、僕より頭一つ分低いくらいの身長で。
垂れ目が特徴的な整った顔の美人で、セミロングのボブカットが似合っている。
服装も、大分涼しくなった上、夜になっているのもあり。
ゆったりした紺色の長袖のシャツに、膝が隠れる長さの、黄土色のチェックのスカート姿であった。
僕は左腕に感じる、とても柔らかな感触にドキドキしながら。
隣の女の子に、引っ張られていた。
**********
僕の名前は古閑 陽太、高校一年生。
僕は親の海外転勤の関係で、熊本北部の伯父さんの家に夏休みから厄介になっており。
二学期が始まると同時に、地元の高校に編入した。
新しく入った学校は、思ったよりも居心地が良く。
余所者の僕も、難なく溶け込む事ができた。
そして、僕の肘に腕を絡ませ、柔らかい膨らみを押し付けていたのが。
伯父さんの娘で、僕の従姉に当たる古閑 夕貴で。
僕の一個上の、今年高校二年生になる娘だ。
ゆき姉ちゃんとは昔から仲が良く、ここに来ると必ず一緒に居たので。
また、昔みたいに仲良くやれると思っていたのだが。
久しぶりに彼女を見て、僕は驚いてしまう。
久しぶりに見た、ゆき姉ちゃんは、とても綺麗になっただけで無く。
出ている所はアンバランスにならない程度に出て、引っ込んでいる所は細い、とてもスタイルが良くなっていて。
僕は思わず、特に大きなその胸に目が行ってしまった。
それは彼女も同じらしく。
久しぶりに見た僕を上から下まで見た後、驚いたような恥ずかしいような、そんな表情をしているのが見える。
そんな二人の変化を、お互いが意識してしまい。
しばらくの間、二人の関係が妙にギクシャクしていた。
・
・
・
それからしばらく経ち、大分慣れたとは言え。
今だに油断すると、その大きな胸に、つい目が行きそうになってしまい。
ゆき姉ちゃんも、その事に気付いたみたいで。
再会して初めの頃は、僕にくっつくのを何だか恥ずかしそうにしていたが。
今では逆に、その胸を何かに付け、僕に押し付けていた。
再び会った時から、彼女を従姉以上に思うようになり。
それは日にちを追う毎に大きくなって行き。
また、ゆき姉ちゃんの方も、僕と同じ気持ちだと思われるが。
年上としてのプライドなのか、何としても僕の方から告白させようとしており。
その為に、僕を色々と誘惑している様である。
「あっ、陽ちゃん。
あれば買たかけん行こう〜」
(グイッ!)
「ちょ、ちょっと〜、ゆき姉ちゃん待って〜」
そんな事を思っていると、イキナリ、ゆき姉ちゃんがそう言って。
向こうにある屋台を指差しながら、僕を引っ張って行ったのだった。
・・・
「うふふ〜ん♪」
ゆき姉ちゃんは、組んだ腕の反対の手でチョコバナナを持って、ご機嫌になっていた。
「……ゆき姉ちゃん。
さっき夕飯食べたばかりなのに、良く入るね……」
「ん? 甘か[甘い]物は別腹たい♪」
夕飯を済ませて来たので、あまり食欲が無い僕と比べ。
ゆき姉ちゃんは、早速、買ったチョコバナナを齧っていた。
そんな彼女を見て、僕はゲッソリした様な感じで聞くと。
当の本人は、事無げにそう答える。
ゆき姉ちゃんは、さっきから甘い系の屋台を廻り、色々と買って食べていた。
彼女は一見、シッカリした様に見えるが。
おっとりした顔付きとふんわりとした雰囲気どおり、少々、天然の気もあり。
だから時折、こう言った子供っぽい面を見せることもあった。
「ねえ、陽ちゃん。
これ食べてみんね?」
「?!」
僕が呆れた様に、ゆき姉ちゃんを見ていたら。
急にそんな事を、言ってきた。
僕の目の前には、彼女が持っていたチョコバナナが突き出されていた。
——しかも、先端が齧られていた。
これを齧ると言うことは、つまり、ゆき姉ちゃんと間接キスをすると言う事である。
「ねえ〜、ほら、食べんね!」
「ええっ〜」
「もお、食べんね!」
(ズボッ!)
「んんっーー!」
ゆき姉ちゃんが食べるように催促するが。
躊躇する僕に業を煮やし、突然、僕の口にチョコバナナを突っ込んだ。
(ガブッ!)
「ん〜っ」
反射的に噛んだチョコバナナを引き抜き。
ゆき姉ちゃんが、僕が噛んだ部分を更に噛む。
「ふふっ。
ねえ、これって、間接キスだよね?」
(カーーーッ!)
チョコバナナを噛んだ後、小悪魔の様な笑みを浮かべながら。
イタズラっぽく、そう呟く彼女。
それを聞き僕の顔は、瞬間的に熱くなる。
——ワザとやったな。
天然の気があるとは言え、考えられない行為に不思議に思っていたら。
その言葉で、すべてを悟る。
「ふふふっ」
(ギュッ)
間接キスが成功して、満足そうな彼女が更に抱き付き、柔らかい感触が強くなるが。
間接キスの衝撃で混乱していた僕は、それどころでは無かった。
**********
・
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「……ねえ、陽ちゃん。
口ん横に、チョコが付いとるけん舐めてくれん……」
海岸の木の陰で、彼の胸元に縋り付き、そう囁く。
数年ぶりに、家に来て。
しかも、家に一緒に住むだけでなく、学校も一緒になった従弟の陽ちゃん。
私は、彼に従弟以上の気持ちを持っていたが。
自分の方から告白するのも、シャクなので何とか誘惑して、陽ちゃんの方から言わせようとしていた。
そんな中、今日、近くで祭りがあるので。
折角だから、彼を祭りに連れてきた。
祭りの会場で散々、陽ちゃんを引っ張り廻した私は。
まっすぐ家には帰らず、海の方へと彼を連れて行く。
その場の思い付きで、最初はフリのつもりが。
つい流れで、思わず間接キスをしてしまったのだけど。
何だか落ち着かなくて、そのまま家に帰る気がしなかった。
(チラッ)
あれから陽ちゃんが、何回も私の唇をチラチラと見。
その視線に、私は次第に興奮してきたのである。
唇が熱くなった私は、無性に彼の本当のキスが欲くなったけど。
私から強請るのも何なので、そんな事を言って誘ってみた。
幾らニブチンの陽ちゃんでも、こう言えば流石に分かるだろう。
「早く舐めて……」
(ゴクリ……)
つま先立ちをしながら目を閉じ、唇を軽く突き出して催促しているのに。
喉を鳴らして、なかなかキスをしようともしない陽ちゃん。
「ねえ……、早く舐めてぇ……」
(ガシッ!)
(チュッ)
堪らず、甘えるような声で誘うと。
突然、私の両肩を掴み、強引にキスをしてきた陽ちゃん。
——ああっ……、あついよぉ……。
触れた彼の唇は、熱くなった私の唇以上に熱い。
(チロッ、チロッ)
「はぁ……っ……」
熱い唇が触れたかと思うと、次に私の口の横を舌でチロチロと舐める。
私が誘った通りの事を行うが、その舌の動きに背筋がゾクゾクする。
(スッ……)
「はあ、はあ、はあ」
「はあ、はあ、はあ」
しばらくの間、熱い陽ちゃんの、唇と舌の感触を感じていたら。
突然、唇が離れると同時に、彼の荒い息が聞こえ。
同時に、私も荒い息を吐いていた。
(ガクガクガク)
(ギュッ!)
荒かった息も落ち着いた所で、快感の余り膝が笑っているのに気付き。
真っ直ぐに立てなくなった私は、目の前の陽ちゃんに抱き付く。
(ギュッ)
倒れる様に抱き付く私を、抱き止めてくれた彼だが。
その足元が、微かに震えているのを感じた。
——ああ、陽ちゃんも気持ち良かったんだ。
私だけでなく、彼も気持ち良かったのが分かり。
私は、何だかとても嬉しくなる。
しかし、そのままでは、体が震えて歩けないので。
落ち着くまで、お互い抱き合う形になってしまうのだった。
・・・
こうして私達は、お互いの気持ちをハッキリさせないまま。
一時の衝動で、初めてのキスをしてしまった……。