こんなに変わったの!
(ゴトン……、ゴトン……)
今僕は、微かに聞こえるレールの音を聞きながら。
遠くを見ている。
・・・
僕の名前は古閑 陽太、高校一年生。
僕は親の海外転勤の関係で、伯父さんの所に厄介になる事になって。
それで今は、熊本北部の伯父さんの家に向かっている所だ。
福岡まで飛行機で行き、そこからは新幹線に乗り、途中の駅から鹿児島本線に乗り換えた。
(※熊本北部だと、熊本経由よりも福岡経由の方が便利な場合があるので)
在来線に乗り換えると、乗り換えるまでが慌ただしかったので。
車窓を見ながら、ようやくノンビリする。
僕は車窓から見える、外の風景を見ながら、昔の事を思い出していた。
――ゆきねえちゃん〜
――陽ちゃ〜ん〜
そうやって、お互い呼び合いながら、いつもくっついていたなぁ……。
脳裏に浮かんでいた相手は。
古閑 夕貴、僕の一個上の、今年高校二年生になる娘だ。
彼女は、僕の従姉に当たる。
彼女とは、とても仲が良くて。
僕が来ると、いつも一緒に居て、色々と遊んだのである。
目の前に、見えている風景も。
初めは、ずっと長閑な田園風景が続いていたが。
目的地に近づくと、一旦市街地に入り、それから海岸沿いを走っていた。
窓の外を見ると、遠くに雲仙らしき山が見えるが、いまいちハッキリとは見えない。
そうやって遠くを見ている内に、記憶にある風景が見え出し。
いつの間にか、目的の駅へと着いた。
(キーッ……)
(プシュ〜)
空気音と共にドアが開き、それ同時にホームへとおり。
それから、荷物を持ったまま改札をくぐり、駅の外へと出た。
「陽ちゃん、コッチ、コッチ〜」
外に出て、眩しい夏の光を受けると、僕を呼ぶ声が聞こえる。
思わず、そちらの方を見ると、伯母さんが僕を呼んでいた。
……ちょっと、老けたみたいだあ。
叔母さんを見て。
失礼ながら、記憶にあるよりも、少々老けた様に感じてしまった。
隣には、同じように少し老けた叔父さんと、綺麗な女の子が居る。
「(えっ、ゆき姉ちゃん……?)」
一瞬、誰か分からなかったが、顔を良く見ると。
綺麗な中にも、一族特有の少し垂れた目元であったので、すぐに分かった。
彼女は、セミロングのボブカットと言う髪型で。
全体的にスラリとしたスタイルだが、出ている所はアンバランスにならない位に出ており。
特に目立つ、その胸に視線が行きそうになったので、慌てて外してしまった。
服装は、少し丈が短い白いワンピースを着ていて。
その短い袖から見える腕や、ワンピースの裾から伸びる脚。
あるいは大きく開いた胸元から覗く白い肌が、暑い風景の中で浮いていた。
「伯父さん、伯母さん、お世話になります」
「おおっ、陽ちゃん、久しぶりやね〜」
「ホント、こぎゃん大きゅうなって〜」
ゆき姉ちゃんに見惚れていた僕は、気を取り直し。
近くに駆け寄り、伯父さん達に挨拶をする。
「……陽ちゃん、大きゅうなったねぇ……」
「……ゆき姉ちゃんも綺麗になったね……」
すると、伯父さんの隣に居たゆき姉ちゃんが、何だか恥ずかしそうに言うと。
余りにも綺麗になってた事に動揺していたので、同じ様な返事を返した。
・・・
「こっちが、陽ちゃんの部屋になるけん」
あれから、伯父さんの車で家に向かった僕は。
ゆき姉ちゃんの案内で、僕に割り当てられる部屋に行く。
同乗した車の中では、伯母さんによる質問の嵐が吹いていたが。
しかし僕は、一緒に後部座席に座っている、ゆき姉ちゃんに意識が集中して。
どんな質問内容だったか、よく覚えていない。
車の中で僕は、彼女の括れた細い腰。
短いワンピースから覗く、白くてスラリとしてるが相反するようにムッチリとした脚。
そして何より、ワンピースを押し上げる大きな胸に意識が向いていた。
……ぼくは、こんなにムッツリだったのかな?
実際、今も、階段を登ろうとしている、ゆき姉ちゃんの大きなお尻に目が向いている。
その様子は、自分でも呆れる位だった。
(ズルっ)
「あっ!」
そんな事を考えていたら。
目の前のゆき姉ちゃんが、登ろうとした階段を踏み外した。
再会した時から、ボーとしたみたいで。
何だか様子がおかしかった。
そんな状態で階段を登ったから、不注意で踏み外したみたいだ。
「あ! 危ない!」
階段の五段くらいを、登った状態で落ちようとしたので。
それを見た僕が、慌てて受け止めようとする。
(ドン!)
「ん! うん?」
彼女を受け止めると、衝撃を受けるが。
予想よりも軽かったので、一瞬、不思議に思った。
……えっ? 女の子って、こんなに軽いんだ。
学校で、男同士ジャレている時に、時々飛び掛かられる事もあるのが。
その時の衝撃を予想していたので、軽く驚く。
全く無くは無いが、そんなに耐えきれない程でも無かった。
また念の為、後ろに一歩踏み出していたおかげで。
上手く衝撃も吸収できたみたいだ。
「ゆき姉ちゃん、大丈夫?」
「……う、うん、ありがと……」
(スリ……、スリ……)
「はっ!」
気が付くと、僕の胸に顔を埋める形になっていた彼女が。
僕に抱き付き、胸板に頬ずりをしていた。
それに気付いた僕が、思わずそう言うと。
ようやく彼女が、自分の行動に気が付いた様である。
「あ、ああっ! ご、ごめんなさい!」
(バッ!)
自分の行動気付いた、ゆき姉ちゃんが顔を真っ赤にしながら。
急いで、僕から離れたのである。
**********
(ボ〜……)
駅で、久しぶりに見た陽ちゃんは、すっかり男っぽくなっていたけど。
同時に昔通りの、優しくて親しみやすい部分も残っていて。
余り、怖いとか近付き難いとか言う感情は湧かなかった。
だから、優しい大型犬に寄っていく感覚で、何の気兼ねも無かった。
しかし、男っぽくなった体。
特に、広い肩と胸板、そして広い背中。
それらを見ると、ドキッとすると同時に、抱き付いて頬ずりしたくなる。
他の男の子なら、そんなHな事すら考えられないが。
陽ちゃんとは小さい頃から、下手にスキンシップを重ねてきたから。
そんな事を、つい考えてしまう。
先程まで、車の中で一緒に過ごし。
車中で陽ちゃんが、お母さんから質問攻めにあって、慌てて答えていたけど。
私は、そんな彼の広い胸と背中を、思わずチラチラと盗み見をして。
“はぁ〜、あの胸に顔を埋めて、頬ずりしたいなあ……”
彼の胸板を見ながら、そんな事を考えていたのである。
だが一方で私も、胸やお尻に、視線があるのに気付くが。
その視線に対し、私は不快感は全く感じず。
逆に、“あぁ、私をそんな対象に見ていてくれるんだ”と、嬉しささえ感じていた。
私がボンヤリとした頭のまま、彼を二階の部屋へと案内しようとした時。
(ズルっ)
「あっ!」
普段なら有り得ないが、不注意で階段を踏み外し、転げ落ちそうになる。
(ドン!)
「(あ、あれ?)」
床にぶつかると思い、身を固くしていたが。
ぶつかったのは床ではなく、クッションみたいな物だった。
〝えっ? 受け止められるの!″
私は、陽ちゃんに受け止められたのに気付き、驚く。
陽ちゃんは、ほとんど動くこと無く、私を受け止めている。
しかも私は、全く痛みも感じず。
まるで、クッションが利いた、ベッドに飛び込んだ様な感じであった。
(スリ……、スリ……)
陽ちゃんに受け止められた私は、彼の体の気持ち良さと、頬に熱い彼の体温を感じて。
無意識の内に、頬ずりを始めてしまう。
「ゆき姉ちゃん、大丈夫?」
「……う、うん、ありがと……」
(スリ……、スリ……)
「はっ!」
陽ちゃんの心配する優しい声に、返事を返した私は。
無意識の内に、頬ずりをしていたのに気付く。
「あ、ああっ! ご、ごめんなさい!」
(バッ!)
私は無意識とは言え、自分のやった行動が恥ずかしくなり。
慌てて、彼から離れる。
「じゃ、じゃあ、部屋さん案内するけん」
「う、うん」
何とか取り繕うようにして、再び二階に案内するのだが。
先程の陽ちゃんの感触と、自分の行為が恥ずかしくて。
その後、しばらくの間、顔が熱くなっていたのであった。