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毒林檎と鉄仮面  作者: 小河華
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泡沫の君

こんにちは

現役高校生、初執筆です。書こうと思って書くとこんなに難しいと初めて知りました。拙いながら書きたいことは全て書くつもりです。宜しければ少し立ち寄って、ご愛読ください。

1,死んだ魚じゃないです


17回目の夏。陽炎が揺れ、頰の上を一筋の汗が流れた。僕はあの暑い夏の日を死んでも忘れることが出来ないだろう。

お気に入りの1番後ろの席。そこは惜しくも窓際では無かったが内職も出来るし寝ててもバレづらくて最高だった。その席から少し首を伸ばし窓の外を見ると春には満開だった桜がすっかり蒼く生い茂っていた。葉たちは少し湿ぼったくて息がしづらくて喉に詰まるような、生暖かい風に踊らされていた。転入生がやってきた。最高気温30度を超える真夏日のはずの今日、転入生の少女は1人涼しげにこの暑さが何の支障もきたさないと言いたげな澄ました顔をしていた。彼女は長袖の制服を身にしていた。白色がベースの、紺色のリボンに目が止まるセーラー服だった。この学校の女子の制服はブレザーだった為、彼女のその制服はこの空間においてとても異質なものだった。見てるこっちに暑さが感染りそうだ。朝のホームルーム開始のチャイムが鳴り、その音と同時に教室は沈黙で満ちた。外から近所の工事現場の機械音が聞こえる。

彼女が教室に足を踏み入れた瞬間、僕は魅了されてしまった。彼女の美しすぎる容姿に。彼女の容姿はまさに天使そのものだった。美しく長いその髪は一本一本が繊細でかつ白く輝き、長袖から出る腕や足は透き通るほど白い。そして瞳は葡萄色の宝石のような、例えるならブルーアメジスト。それに加え細く筋の通った鼻、薄く小さくてほんのり赤らんだ唇、そして細身の身躯と女子の中では大きい方だと思われるやや高めの背丈。その異次元の美しさに僕は思わず息を呑んだ。彼女の生き生きとした美しさから彼女の身体の1つ1つのパーツが命を宿しているように感じられた。彼女の瞳や肌、髪の毛の1本までも。周りの女全てが薄っぺらい二次元に見えてしまう。

「じゃあ自己紹介お願いします」

僕のクラスの若い女の担任が声を発した。そこでようやくクラスの時が再び流れ出した。彼女は葡萄色の瞳でどこか遠くを見つめながら

「ノアです」

と、一言だけ呟いた。担任は少し困惑しているようだった。担任は‘ノア’と名乗る彼女に声をかける。

「えっと、本名じゃないよね?彼女の名前は…」

そう喋り出す担任をノアは鋭い眼光で刺す。

「名前、言わないで下さい」

担任の目を真っ直ぐに見て彼女ははっきりとそう言った。ブルーアメジストが影の中冷ややかに光る。

「でもほら、自己紹介はしないとダメじゃないかしら?」

「名前、嫌いなんです。この学校の校長先生にも事情はお伝えしてあります。ノアでいいです」

「でも…」

担任が困った様子でいると

「何回も言わせないで下さい」

先ほどまでの大人しい彼女とはうってかわって圧のある声で担任を威嚇した。あまりの変わり様に、この時クラスにいる生徒全員が声の出所が分からず、状況が把握出来ずにいた。ようやく理解した頃には僕の心臓が大きく脈を打っていた。普段から大人しい僕たちのクラスの担任にはもうお手上げだ。一気に弱々しくなった担任は

「じゃあ、空いてる席に座って…」

と下を見ながら言った。空いているのは窓側の1番後ろの席だった。彼女はこちらに向かって歩き出す。彼女が歩みを進める姿をクラスのモブたちが目で追う、勿論僕もそのモブの1人だ。彼女の白い髪が揺れる。歩く芸術作品のようだ。見つめる僕に気づいた彼女と目が合ったわ冷たくも美しい葡萄色の瞳に吸い込まれそうになった。僕の目を見た彼女は

「君、どうしてそんなに人生つまんねぇみたいな顔して生きてるの。まるで死んだ魚みたいな顔ね」

突然に僕に向けられたその言葉たちを理解するまでに5秒の時間を要した。静かに目を見開いた。クラスのモブたちも驚いて顔が固まっている。その驚きはすぐに上書きされ、ぶっきらぼうにこう言う冷たい彼女さえも美しいとういう感想だけが僕の中に残った。きっとこの瞬間から僕の人生はゆっくりと動き出していたんだ。僕はこの時に確かに見た。彼女の瞳に静かに籠る熱を。

 僕らのクラスに転入してきた彼女は天使ではなく正真正銘の堕天使だった。彼女の背中には黒い翼が見えた。



朝のホームルームが終わるとさっそく、クラスの中でスクールカーストというやつの上層部にいる女子たちがノアを囲んだ。

 「ノアちゃんよろしくね!」

 「うん、よろしく」

 ノアも静かに微笑む。さっきの冷たい顔は何処へ。

 「それにしてもよく“笑わない男”にあんな強く言えるねぇ」

 僕の方をチラッと見てニヤニヤしながらうるさい女子Aがノアに囁く。聞こえてますよ。

 「…笑わない男?」

 「そう、ノアちゃんの隣の席の彼。見た目よし、成績優秀、運動神経抜群で完璧って感じなんだけど一つだけ欠点があるの。彼、笑えないのよ」

 「怖いよねぇ、ノアちゃんもあんまり関わらないほうがいいよ。ところでノアちゃんのその髪すっごく綺麗だよね、どっかの国とのハーフとか…」

 「笑えないから何?」

 上層部の女子たちの会話をノアが遮った。これ、なんかデジャヴだ。さっきも感じたばかりの空気だ。クラスの生徒全員の顔が再びが固まる。これはドラマか何かの撮影ですかと誰かに尋ねたい。かなり嫌な予感がする。うるさい女子たちの薄っぺらい顔の眉間にシワが寄る。ノアは彼女らの顔色なんて御構い無しに言葉を続ける。

 「笑えないだけでしょ?別にいいじゃん。私なんて日本人なのに病気のおかげでこんな容姿だよ。私こそ変だから関わらない方がいいんじゃない?こんな変な見た目、うつっちゃうかもよ?」

 さっきまで笑っていたうるさい女子たちの顔が明らかに歪んだ。それと代わって、冷たい表情をしていたノアが美しい笑顔で微笑んだ。明らかに相手を煽っているその姿までも憎たらしい程美しかった。ノアは白い髪を揺らしながら背筋をピンと伸ばして歩き、教室から静かに出て行った。教室の気温が一気に下がるのを感じて僕は一人身震いをした。


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