その2 35話:翌朝の叫び の後の二人
ヘンリーとエマの会話です。裏話とは少々違います。
「今朝の騒動は何だったのですか」
夜、自室のベッドで横になりながらヘンリーはエマに尋ねる。彼女は微笑んだ。
「クリフォード様がサラ様を浴室に運ぼうとして、それをサラ様が嫌がったのです」
ヘンリーは理解出来ないといった表情をエマに向ける。クリフォードは結婚したら落ち着くかと思ったが、何故か感情が落ち着かず、傍から見ていてこの結婚が正しかったのかわからなかった。しかしエマがサラはクリフォードの事を受け入れようとしているし、絶対いい夫婦になると言い切るのでそれを信じていたのだが、今朝屋敷に響いたのはサラの悲鳴であった。
「ヘンリーさんは私と一緒にお風呂に入りたいですか?」
「答えがわかっている事を聞かないで下さい」
「そうですよね。やはり嫌ですよね」
エマが珍しく寂しそうにしたので、ヘンリーは気になって受け流せなかった。
「エマもそういうのは好きではないと思っていたのですが」
「私も一緒に入浴は抵抗があります。ただサラ様がクリフォード様に横抱きされていたのが少し羨ましかったのです」
「申し訳ありませんが、私にはその体力も筋力もありません」
「わかっています。ただ一回くらいされてみたいなという乙女心です。ごめんなさい」
エマは寂しそうに微笑んだ。ヘンリーは身体を起こすと両手を広げた。
「抱き上げるのは出来ません。この状態で良ければ」
ヘンリーの申し出にエマは微笑む。
「いいのですか?」
「抱き上げるのは出来ません。あくまでも雰囲気です」
「それでもいいです。ありがとうございます」
エマは嬉しそうに微笑むと、ヘンリーの腿の上に腰を落として首に腕を回した。彼は彼女の背中と膝の裏に手を回す。彼女は満足そうに微笑んだ。
「これは結構密着度高いですね。確かに寝起きでこれは叫んでしまうかもしれません」
「寝起きとはどういう意味でしょうか」
「クリフォード様は寝ているサラ様を運ぼうとしたのです。その途中でサラ様が目を覚まされて叫ばれたのですよ」
ヘンリーは内心呆れた。彼にはクリフォードの行動が理解出来ない。
「ですがお二人は心身ともに夫婦として歩み始めたようなので一安心しました」
「そうですね。坊が女性を抱けない疑惑がありましたから、それが払拭されたなら何よりです」
「娼婦と毎晩遊んでいたのに、そのような疑惑がどこから出てきたのですか?」
エマはクリフォードの噂について、噂しか知らない。ヘンリーは微笑むと事実を告げた。
「そういう事ですから多分坊はサラ様に固執されると思いますので、サラ様の事を支えてあげて下さい」
「わかりました。サラ様は本当に素敵な方ですもの。将来は立派な公爵夫人になりますよ」
「ところでそろそろ満足してもらえましたか。私は寝たいのですが」
「あ、ごめんなさい。満足しました。ありがとうございます」
エマは慌てて腕を解いて離れようとした。しかしヘンリーは彼女の背中に腕を回したまま優しくベッドへと押し倒す。彼女は嬉しそうに微笑んだ。夜はまだまだ長い。