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 瀬世良せせら透子とおこは魔女である。超常を知り異世界に関わる魔性の女だ。よって、「異常なこと」が起きたら彼女が関わっているか原因か、最低でもなにかしら知っている。

 だから放課後を待って、彼女に会うことにした。学校の床に犇めくくらげについて訊くために。


 僕と魔女が通う私立慧塔学園の中等部は経営が不安になるほど教室が余っている。おかげで謎めいた文化部の濫立が推奨すらされているが、魔女は建て前だけの部活動設立(結構多い)すらせず、勝手に空き教室──日によって変わる──に巣食っている。

 今日の魔女の部屋は、放送準備室隣の狭い倉庫だ。当然、鍵はかかっていない。魔女が開けたのだろう。

 魔女は安っぽい机の上に腰掛け、上靴を脱いだ脚を蠱惑的に組んでいた。赤髪が混ざった明るい髪は腰まで艶めいている(この長さの髪は結んでいないと校則違反なので、教室では二つくくりにしていた)。

「あれ?」

 と少しだけ常より高い、幼気な声を出しながら魔女が振り返る。ボリュームのある髪が流れ、緑にも茶にも見える虹彩を輝かせ、僕を視認する。

「今日もきたの?」

「うん。土日を挟む前に訊きたいことがあって」

 僕が魔女の元を訪ねるのは週に二回、月曜と木曜と決まっている。それ以外で会いにいくのは「なにかあったとき」だけだ。

「今日の朝から、学校でくらげが潰れてる」

「潰れてる?」

 端正な顔を端正なまま歪める。表情程度では魔女の美貌は揺るがせない。

「うん。半透明な大きめのくらげが、床にべったりと」

「床にべったり。どれくらい?」

「ちょくちょく消えるけど、見えるときはずらっと」

「触れる?」

「僕は無理」

 魔女はうーん、と小さく声を上げながら首を傾げた。

「くらげはわたしの使い魔ね。何匹か学校に放してるの」

 なんて迷惑な。

「でも’何匹か’だし浮かんでるはずだから、たつみ君が見たくらげはわたしのじゃないわ」

 器用に整った顔立ちを崩さないまま拗ねた顔をする。

「……透子さんは見てないんだよな?」

「うん」

 ふむ。

「最初は僕の目が悪化したかなと思ったんだけど。違うなら、知ってるかなと思って」

「知らないわ。……うーん、一応診てあげようか」

「え? あ、僕の目か。うん、お願」い、と言い終わる前に顔面を固定された。両手で。頬に食い込む指。と爪。

 痛みを主張する予定だった喉は機能を忘れたのか放棄したのか声が出ない。そのくせ、酸素を取り入れることにはあっさり成功する。こちらが少しだけ混乱と痛みに慣れた頃にようやく、魔女の目が僕の目を見る。覗き込む。この距離だと、魔女の虹彩は澄んだ緑色に見える。黒よりは明るい色のくせに人間よりずっと深い深い瞳孔と、澄んだ緑色と、濁りのない白目の境目は綺麗に縁取られている。その眼球に映る僕の眼球は模様として調和していて、それでも邪魔で、だから取り除きたいと思いつつも身体は動かない。

「おしまい」

 という声を聴いて、喉は発声機能を復活させる。

「痛い」


「道具がないから簡易診察だけど、特に良化も悪化もしてないわ」

「……良化もしていないか」

「残念ながら」

 基本的に良化するものじゃないのよ、と魔女は付け加える。いつも通りの注釈だ。

「そういえば、透子さんの使い魔っていうくらげは見たことないな」

「当たり前じゃない。隠密行動させてるんだもの。こんなに目が良い人がいるんだから、視力で捉えられないようにしないと」

 迷彩かけてるの、と注釈。未だ魔女の技術に関してはほぼ知らない身なので、なにを言われても「へぇ」としか返せない。

「さて、床に潰れたくらげの群々について」

 繊細そうな指と指を絡ませながら、魔女は微笑する。

「たつみくんが解決してみなさいな。上手くやれたら、助手から弟子に格上げしてあげる」


 二ヶ月前、四月の入学式。魔女は驚異的な存在感を放ち、皆の視線を集めた。髪も虹彩も肌も日本人の平均よりはるかに色素が薄いからか、新入生とは思えないほど制服──可愛いとそこそこ高評価のセーラー服──を着こなしてるからか、単純に目鼻立ちが整っているからかは分からないが(これら全てかもしれないし、魔女の術が関わっているのかもしれない)、とにかく注目されていた。地味に進行がグダったくらいに。しかも新入生代表。つまり、スピーチをするのだ。あの、妖艶と幼気とを融かした、抵抗できない声で。その割に、入学式が終わった後に彼女が話題になることはほぼなかった。夢から醒めたように。

 でも、僕は夢から醒めることができなかった。元々、現実よりは夢に近いものを見ているから。


 さて。今週の土日は帰宅部の僕に通学義務は一切ないが、私立なだけあって学園は来るもの拒まずなので遠慮なく明日調査に行かせて貰おう。ちなみに、カトリック系でもプロテスタント系でもないからか(宗教関係なしの学校だ)日曜も部活動が結構な頑張り方をしているので、やろうと思えば日曜も調査はできる。ただ、学校には僕の眼球を強硬手段で狙いかねない存在がいるので、できれば行きたくない。危ない。

 公立中学校より生徒数が少ない癖に敷地も校舎も広いから、一通り見て回るだけでも時間がかかる。とはいえ迂闊に飛ばしてなにか見落としでもしたら「僕ひとりで解決」は不可能になる。いや、元々不可能寄りだろうけれど、それでも。今のところ、僕の武器は自分の目だけしかない。超常も知らず異世界の存在も良く知らない人間が持ってしまった、現実が見えない目。

 校門を通り、靴箱へ向かう。地面に異常は見られない。一階の廊下および中を覗ける教室には現状異常なし。昨日もここでくらげを見ることはなかった。階段を上る。異常なし。

 二階。

「……うわぁ」

ずらぁっと。

 無色透明に、少しだけ白と水色が混ざった柔らかそうな物体が、廊下に。

 始点と終点を確認するために、歩く。床にはくらげが敷き詰められていて、足の踏み場がないけれど、踏んでも全く感触がないので遠慮なく歩く。くらげは僕の足(や体重)を意に介さず犇めいて、僅かに動く。ある個体は右にとてもゆっくりと動いていて、ある個体は後ろにゆっくり動いている。動いていないくらげもいるけれど、表面の色彩がゆっくり変化していくので生きてはいるんだろう。……いや、これって生物に該当しない気はするけれど。廊下は端から端までびっしり、教室の中にもそこそこ、侵入している。階段を上──らない。三階は三年生の教室があるエリアで、三年になるともう土曜は完全に休みじゃなくなるので(やだなぁ)今は授業中だ。邪魔すると悪いし、目立つのはごめんだ。特別教室棟に向かう。とりあえず音楽系の部活は今日なにもしてなかったっけと渡り廊下を目指す。感触がないとはくらげを踏み続けることに精神がやられてきているような。

「小清水?」

 後ろから苗字を呼ばれた。元クラスメイトの声だ。

「どうしたん、お前部活もないよな?」

「自習の息抜きに散歩」

 あらかじめ用意していた一番嘘っぽくない嘘を吐く。

「そういや家近かったっけ。まあ頑張れー」

「ありがとう。そっちもね」

 そんな感じで別れる。多分彼は階段を下りて靴箱に向かうだろう。僕は渡り廊下に到着する。ふと振り返ったのは第六感でも鍛えられたからかもしれない。

 二階の、渡り廊下の手前まで犇めいているくらげが全て、ぼんやりと赤く発光した。クラスメイトは階段の手前で消えた。

 消えた?

 慌てて駆け寄る。くらげはとっくにいなくなっている。元クラスメイトの彼も。忽然と。くらげが赤く光った以外にはなにもなかった。階段にも廊下にも天井にも異常はない。超常も異世界の技術も視認できない。少なくとも僕の目では。

「……えー」

 思ったより大事かもしれない。


 本日の調査結果。

 ①くらげは少なくとも「現実」の存在ではない。しかし、異世界から召喚した痕跡は見当たらない。

 ②くらげは一般教室棟二階、特別棟二階、三階の床に犇めいている。

 ③「発現」してから「消滅」(不可視化しているだけかもしれないが、暫定で)するまでは長くて42分、短くて7分。「消滅」してから「発現」するまでは長くて4時間半。短くて52分。

 ④「消滅」する条件は不明。なんの前触れもなく消える場合と、赤く発光してから消える場合がある。

 ⑤赤く発光してから消えたのは一度だけ、人がくらげの上に居た時のみ。その際、人も消える。

 ⑥部活の途中で消えただろう彼は見つけられなかったが特に騒ぎにもなっていなかった。

 仮説。

 ①くらげを創って学校の床に敷き詰めた犯人は瀬世良透子である。

 根拠は「魔女だから」で十分。そしてこの場合、打つ手はなにもないので考えてもしょうがない。

 ②犯人は学校関係者である。

 中等部の生徒だと一番楽で、高等部の教師だと調査難易度が一気に跳ね上がる。……魔女ほどではないなら、超常を知る存在はそれなりに居る。僕みたいに。

 ③犯人は学校に関係していない、遠隔でこのようなことができる存在である。

 「魔女に近しい存在」である。お手上げ。

 ④犯人は存在しない。自然発生の類である。

 動機もへったくれもない。解除方法を犯人から訊く等、犯人経由してショートカットできないので全面的に魔女頼りになる。

 あのくらげを「どうにかする」ために僕ができる(かもしれない)ことは少ない。いくつかの裏技で犯人を探し出し、いろいろな伏線を無視した解決編でまとめるのが精々だろう。

 調査術は多少できてるから、と魔女に放置された(そして僕も大して鍛えなかった)ことを恨めしく思いながら、今後のプランをゆるゆると立てる。

 とりあえず、明後日の放課後、魔女に会う前にもう少しだけ確認しなければならないことがある。明日は日曜日だからお休みだ。残念なことに、最低限の勉学には励まないといけないのだけれど。


 生まれつき、僕の目は正常ではない。生まれつきなのに何故異常であることが分かるのかというと、これでも良化したからだ。幼少期と比べて、随分「正常な世界」が見えるようになった。なのでまあ、大体は、普通の人間は正常とほぼ変わらない範囲で視認することができている。

 だから、瀬世良透子を見たとき感動した。明らかに人間とは違う、きれいな存在だったから。

 丁寧に括られた髪は月光のような魔力で編まれていて、不思議な色の虹彩はあらゆる深淵を映し取り、華奢な指は世界を操作するのに最適だった。そう見えた。

 この目を中心に、「正常な能力」では解決できない問題を抱えている身なので、超常者に助力を得たかった。僕が彼女と知り合う──知り合おうと奮闘したきっかけ。

 入学式から二週間後、僕は魔女の部屋を発見することに成功する。後で知ったのだが、「帰宅部で、一年生に友人がいるわけでもなさそうな二年生が頻繁に一年生の教室付近に現れる」ということで結構目立っていたらしい。勘の良い人には目標もバレて、それが幸いして「美人を見たいんだなぁ」くらいに流され、余り不審がられなかったらしい。なにも幸いではない。

「大丈夫よ。すぐに忘れられるわ」

 魔女は言った。

「わたしのことを長く考えるのは難しいの。そういう風に振る舞っているから」

 ああ、それで。と納得した。

 入学式が終わって、教室に戻る途中までは随分話題になっていたのに──次の日には夢から醒めて、誰も彼

女のことを話さい。現代っ子の忙しさ故とかだけが理由ではなかったようだ。

「さて、小清水こしみずたつみくん」

 確認するようにフルネームで呼ばれる。

「きみの抱える問題はたしかに、通常の手段で解決するのは極めて困難ね。しかも、一過性のものではないから『魔法をかけてあげる』だけでどうにかなるものでもない──魔女の技術を『習得』する必要がある」

 魔女は微笑みを深める。

「その目は魔女を凌駕している。君より’現実以外’が見える存在はまずいない、解析者たる魔女にとってその眼球は手に入れたくもなる」

 どうぞ、と差し出したくなる声は続ける。

「……でも、わたしから見れば、視覚を失わせるのは惜しいわね」

 手を軽く打ち鳴らして、魔女は立ち上がる。

「いいわ。わたしの技術を教えてあげる」

 僕に歩み寄る。

「まずは魔女の助手としてはたらけるか見てみましょう」

 魔女の指が、僕の顔を緩く固定する。

「この目以外の才能も伸びたなら、弟子にしてあげる。だから頑張りなさいな」

 瞼ごしに、眼球を指で撫でられる。

「その目を抉られないために。その目に食い潰されないために」


 ちなみに「弟子にレベルアップしたときは『透子ちゃん』と呼ぶことを許すわ」と微笑まれたけれど、それは固辞した。一つ年下(魔女は四月生まれなのでお互い13歳ではあるけれど)相手に名前さん付けなのもどうかと思ってはいる。いや、呼び捨ても嫌だから妥当なんだけれど。なんにせよちゃん付けは嫌だ。

 さて、月曜日。梅雨を思い出したのか土砂降り。もう少し穏やかに思い出してほしい。

 こういう日にくらげはなるほど似合いそうだが、屋内の床にしかいないのでよりじめじめする(気がする)。ちなみに、魔女が放しているというくらげは見えない。時々空や天井を見上げているというのに。

 今のところ、消えた元クラスメイトは発見できていない。申し訳ないことに何組か知らないのでちゃんと確認はできていないが、放課後までに見つけられなかったら今日は休みだろう。

 ……ん、あれ。もうちょいスマートな確認方法がある気がする。

「数学のさー」

 と、クラスメイトが話しかけてくる。

「宿題が多い」

「まったくだ」

 他の教科もあるんだぞ。そこらへん分かってるのか。あの……えっと、中学生の教師に対する暴言にしては問題がある単語を思いついてしまったので、割愛。

 ……あ、そうだ。

「去年クラス一緒だったよな?」

「え、二ヶ月で忘れる?」

「いやいや、前振り」

 アイツ何組だったっけ、の前振り。


 自分の目に頼らない、「人に話しを聞く」という通常の手段での調査(慣れない)によると、やはりあの元クラスメイトは休みだった。それから、どのクラスにも欠席者が居た。多いという程ではない。ないけれど、少なくはない。

 床のくらげは土曜の調査を覆すようなことは起こさなかった。赤い発光も、人間の消滅もなし。

 魔女の部屋に向かいながら、検討する。

 くらげに「魔術」らしき仕掛けは一向に見つからない。一定の場所にランダムな時間、異世界の要素を発現させるには目印なり仕組みなりが必要なはずなのに。

 自然発生なのかなぁ、と途方に暮れながら部屋に入ると、

「……あの、初めまして」

 不安げな、少女の声。


「……初めまして」

 大急ぎで扉を閉めてから、返事をする。魔女ではない誰か。……上履きの色で判断する。一年生。

「と、瀬世良さんに呼ばれてきたのかな?」

「え? いえ、違います」

「…………」

 じゃあなんで、とか聞いていいのだろうか。向こうからの質問を待つべきだろうか。少し黙る。

 恐る恐ると言った

「ええとその、先輩は瀬世良さん? に呼ばれてここに来たんですか?」

「いや、僕は呼ばれてなくて勝手に来てる。……知らない? 瀬世良透子。一年の女子」

「そうなんですか……私はその、悩み相談、みたいなのを」

 悩み相談。ここで? 

 魔女以外の誰かに?

「誰かとここで待ち合わせしてたのかな。だったら僕は出」「あ、違います、すみません」「……いや」結構パニクってらっしゃる。こっちも取り乱したくはあるんだけれど。

「その、手紙をもらったんです。ここで待ってろって」

 と言って、可愛らしいうさぎが描かれた便箋を差し出してきた。脱力。

「……えーと、差出人不明の置手紙に放課後ここに来い、そこに居る男が悩み解決してくれるからって書いてあるのを藁にも縋る気持ちでやってきた、であってる?」

「はい! あってます!」

「……分かった。力になれるか自信はないけれど、最低限守秘義務は守るし、請け負うよ」

 思いっきり魔女の字だったので、乗っかるしかない。

「とりあえず座ろうか。……小清水巽って言います、よろしく」

楠原くすはら紅里あかりです。よろしくお願いします」

 さて。この子は被害者か、犯人か。


「いきなりだけど、悩みってのは?」

「はい、その……身体が重いというか、動かしづらくて」

「だろうね」

「え?」

 おっとまずい。……ん、いや。納得してはいけない。

 だってあのくらげは、触れないし踏んでもなんの感触もなかった。

 だからこの子の身体にびっしりと、足元以外ろくに見えないくらいびっしりと赤く発光した半透明のくらげがまとわりついていても、身体が重いのと直接関係しているとは限らない。

 ……いやまあ、決めつけは良くないとはいえ、ねぇ。

「いつから?」

「土曜からです」

 くらげの発生より後。

「動きづらさはどう? 変わってない?」

「だんだん、ひどくなってます」

 回答を聞き流しながら、彼女にまとわりつくくらげを数える。数えづらい。

「ちょっと後ろ向いてもらえる?」

「え? はい」

 37……38匹か。

「ちょっと失礼」

 彼女の肩に手を伸ばす。……触れる。というかすごい、ぶよっとぬめっとしている。くらげよりもタコのイメージに近い。

「……あ、すごい! 軽くなりました!」

 ばっ、と勢いよく振り返る。うわあ、目が輝いている。

「詐欺っぽくて悪いけど、すぐに完全に治すことはできない。ただ、そう危ないものではないし、少しずつはなんとかなりそうだから安心して」

「はい! ありがとうございます!」

「……どういたしまして。今日は解散だ。よく休んで」

 

 楠原紅里が退室してすぐに魔女が入ってきた。

「なんとかごまかせたみたいね」

「ごまかせてない。霊能力者かなんかだと思われた……手回し早いな」

「魔女だもの」

 万能ワード。定位置、とばかりに机に座った。

「さて。解決編の前に、確認しましょうか」

「……くらげの発生場所、発生しなかった場所に大した理由はない。学校内だったのはまあ、当然だろうけれど」

「なんで?」

「原因が生徒だ」

「原因? 犯人のこと?」

「……原因。で、赤く光るのは……強いていえば、分かりやすい起動のサインだ。赤色であることに意味があったりはしない、と思う」

「あのくらげは通常の世界に存在しないものね。では、異世界からんだもの?」

「僕の目ではいくら見ても、魔術の痕跡はなかった。僕が見えない召喚術はそうそうない、はず」

「ええ、その目から隠すなんてこと、魔女にだってそうそうできやしない。それじゃ、楠原紅里さんに憑いたくらげについても説明してね」

「……なんで彼女に憑いたのかは分からない。誰でも良かったんじゃないかな。彼女に異物を寄せ付けるような要素は見当たらなかったし、付与されたようにも見えなかった。……赤いくらげは日を重ねる毎に増えていったんだろう。消えていく人の分だけ」

「つまり今、失踪している生徒の数は」

「38人。……じゃなく、35人。さっき減らした」

「不可視のくらげを踏んだ人の一部が消え、赤いくらげに変換され、楠原紅里さんに取り憑いた。じゃあ、その犯人……」

 魔女はくすくす、と小さく声を上げて笑った。

「もとい、原因は?」

「君と僕」

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