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アビューズ・クリーチャー  作者: カルマ
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1.バイオラジカルプロテクション

逸樹は、全力で暗い夜道を走っていた。地面に厚く積もっている雪が逸樹の足を締め付けるようにまとわりついてくる。


ふと、足の方を見る。真っ赤になっており、少し腫れているように見えた。

痛い…それ以外なにも考えられなかった。



なぜ、こんな雪道を全力で走ることになったのか。その原因を探っていくと、1時間前の出来事にまでさかのぼることになる。


彼には両親がいない。彼は5歳の頃から衛生環境の極めて悪い、いわゆるスラムという場所で育ってきた。逸樹はいつものように段ボールで寝床をつくり、寒さに備えて睡魔が訪れるのをまっていた。


しかし、空腹で全く寝つけない。とうとう限界になり逸樹はボロボロになった上着を着て、自分で編んだ草履のような物を履き、食べ物を求めて町に出た。


町は、やはり夜とあってかシーンと静まり返っていた。街灯の光が優しく逸樹の足元を照らしている。雪が足の上に3センチほど積もっているのが見えた。


彼は、かがみこんで積もっていた雪を払いわけ、手のひらでそっと足先を包み込んだ。少し温まったところで、逸樹はもう一度前を向き、歩き始めた。


どのくらい歩いただろう。彼は一つのゴミ箱を見つけた。レストランの裏にあるゴミ箱だった。そっと中を覗きこむ。そこには、この寒さのおかげかまだ腐っていない残飯があった。逸樹は無我夢中に残飯にかぶりついた。決して美味しいものとは言えないが、空腹を満たすことはできた。


しかし、直後に絶望する。今自分がどこにいるのか彼は分からなくなってしまっていた。このままここで、うずくまって朝まで意識を保ったまま起きているのかと考えると、泣きそうになった。


逸樹は元来た道を帰ろうと必死で走った。


そして今に至る。


足の感覚はもう限界に達していて走れそうにない。近くの公園らしき場所に出る。そしてベンチに腰を掛けた。すぐに、足に手を伸ばして優しく包み込む。


足の腫れはひいていない。唇はガタガタ震えていた。


ザッザッザ


足音だ。少しずつ逸樹に近づいて来ていた。逸樹は恐くなって身構えた。その足音は逸樹の前で止まった。そっと足を見る。黒い温かそうな靴を履いている。


「どうしてこんな時間にこんなところにいるの?」


逸樹はそっと顔をあげた。身長は目測で180センチぐらいかな。どこの会社のものかわからないが、ピシッとした制服に身を包んでいた。


「ん?君は…………………………………。少し話さない?薪ならここにあるよ。魚だってあるし♪」


見るとてさげ袋のようなものを携えていた。


逸樹は小さくうなずいた。そういえば、逸樹は小さいときからあまり人と関わっていなかった。この人と話すのもいつぶりだろう。それぐらいの感覚だった。


「それじゃあ、火をおこすのを手伝ってくれないかな?」

「いいですよ。」


二人は火を起こしたあと、逸樹が先程座っていたベンチに二人で座った。


「君はどうしてここに?」



逸樹は今まであったこと、今自分が、スラムで生活していること。自分の両親のことを彼に語った。


話を聞いていると、彼もスラム育ちだということが分かってきた。


名前は望月 陵。23歳らしい。


「あ!そうだ♪今日はこんな時間だ。泊まる場所がないんなら、僕の家に泊まっていくといい。」

「え!いいんですか?」


何日ぶりの寝床だろう。今まで温かいものにくるまって寝ることはなかった。


「でも、一つ条件があるんだ。明日僕に付き合ってくれないか?」

「もちろんです!」


ひさしぶりの寝床とあってか、とても興奮していた。


僕たちは少し話したあと、薪に水をかけ、近くの川に落とした。


「それじゃあ少し歩くよ」


歩き始めて15分ぐらいたっただろうか。


「着いたよ。」


そこにあったものは、逸樹の想像を遥かに越えている……


大豪邸だった。門の前には6人ほどの門番が配置されており、奥を見ると噴水だってあった。


「この男の子は僕の客人だ。中にいれてくれ。」

「はっ!」


門番が答える。その瞬間門が勝手に開いていく。ものが勝手に動くなんてはじめてみた。


「それじゃあいこう」

「は…はぁ…」


感心してそれ以上はしゃべれなかった。


「逸樹くん。よかったらお風呂に入らないか?」

「え!いいんですか?ほんとに何から何までお世話になってもらって。」

「いいんだよいいんだよ。それより、明日に備えておいてね。」

「はい!」


逸樹はそのあと、シャワーを浴びて、用意されていた服を着たあと、案内人に案内され、きれいに敷かれたベッドの上に横になった。


ひさしぶりの寝床は最高に気持ちよかった。


--------------------------------------------------------------------


まぶしい光が逸樹のまぶたをつつく。もう朝のようだ。目をこすって体をおこす。すると、扉が開いた。


「おはよう!!早速だが、今から出かけるよ!というか出勤だ。制服ならそこのクローゼットに入っているはずだ。君もついてきたまえ。」

「え。」

「僕が許可しよう。」


はっきりいって仕事場には行きたくない。知らない人が多くいるところはあまり好きじゃない。


「あれ?知らない人が多くいるところは嫌って顔してるね。」

「え!いやいや。そんなことないですよ。」

「心配しなくていいよ。皆優しく接してくれると思うよ。」

「は…はぁ…」

「しかもこれからずっと君がお世話になる場所だしね。」

「え?なんていいました?」

「ううん!なんでもないよ!」


逸樹はクローゼットの中を確認した。少しかっこいい制服が入っていた。しっかりとした衣服を着るのもいつぶりだろう。


逸樹は制服に着替え、案内人の方が持ってきた朝ごはんのパンにかぶりついた。二日連続でごはんを食べたのは1ヶ月ぶりぐらいだろうか。ご飯を食べ終わり、顔を洗ったところで陵が部屋に入ってきた。


「身支度は整ったかい?」

「はい。一応…。」

「うんうん!似合ってるよ!それじゃあ行こうか。」

「はい。」


逸樹は案内人の方に一礼すると豪邸を出た。

陵は門番に耳打ちをしている。


「最近やつらの動きが盛んになってる。気を付けといてね。」

「はっ!」

「じゃあ、少し歩くよ。」


30分ぐらい歩いただろうか。博物館のような場所にたどり着いた。


「ここが、僕の職場さ。」


なるほど。陵さんは研究員なのか。


「それじゃあ中に入ろうか。」

「はい。」


廊下を少しあるいて、右手にある文字が見えた。


「バイオラジカルプロテクション?」


漢字は読めないが平仮名やカタカナならかろうじて読める。


「そう!ここが、僕の担当さ。」


ガラガラガラガラ


「おはよう!!」


そこには、1人の女性と2人の男性がいた。



「おー陵さん!おはようございます。」

「陵か。」

「……」


1人だけ陵の挨拶を返した。



「冷たくなかったのは三咲だけ?笑」

「ん?君は…………?」


三咲さんは僕の方を不思議そうな目でじっと見ている。


「あー逸樹くんだ。職場体験だよ職場体験。」

「それより、その目…」

「君も気づいたか」


ん?なんの話をしているのだろう。三崎さんは僕をじっと見つめている。


「突然だけど、バイオラジカルプロテクションの説明をさせてもらうよ。この組織は、生物の保護を行っているんだ。でも、近年、生物の力を利用して強くなろうとする組織が現れたんだ。我々はそういう組織から動物たちを守る活動をしているんだ。

その組織は、動物から特殊な技術で、遺伝子だけを抜き取ることができる。そしてその遺伝子をどうすると思う?自分の体内に取り込むんだよ。そうしたら、一時的にその動物の特性を発揮することができる。

明らかに強くなるんだけど…。10分しか威力を発揮しないし、そのあとの反動がすごいんだよ。しかも、10分のためだけに一つの命がなくなるんだよ。」


「人間たちの身勝手で動物たちを殺していいはずがない。そこで、この、バイオラジカルプロテクションが作られたんだよ。」


逸樹はこの人が何をいっているのかほとんど理解できなかった。


「まあ、見てもらえれば早いかな?」


陵は逸樹の方を向いて目をつぶった。


ピィィィイイン


信じられない光景が逸樹の目に飛び込んできた。さっきまで普通だった指先に爪が生え、手のひらには肉球があった。顔にはたくさんの毛が生えており、目は黄色くなっていた。

そう、例えるとするなら、猫……だろうか。


「へ?」

「まあ、驚くのも無理ないよ。僕は生まれつきこのような体質でね。猫の能力が使えるんだ。このように変化することを憑着(ひょうちゃく)という。僕だけじゃないよ。ここにいる皆が憑着できるよ。君を含めね。」

「え!僕?」

「そう!君!ついでに言っておくと、僕たちみたいに憑着ができる人のことを憑着者(ひょうちゃくしゃ)というから覚えておいてね。」


本当に夢でも見ているのか?現実では信じられないようなことが起きているのは間違いないだろう。


「しかも、君からは僕たちからは違う動物が見える。うーん。とにかく憑着してもらわないことには……。少し集中してみてくれ。」

「うわぁー!!!」


逸樹は部屋を飛び出した。


「ちょっと!?逸樹くん!?」


逸樹は研究所を飛び出し、近くの交差点まで、走った。さっき見たこと聞いたこと、なにも信じられなかった。いや、信じたくなかった。

逸樹は手が変化する様子をイメージして集中した。しかし、憑着することはなかった。


「なーんだ!やっぱり、嘘じゃないか。」


そのときだった。


「キャーーーー!!」


誰かの叫ぶ声。ここから近い!考えるより先に体が動いていた。


すぐに現場に駆けつけた。そこには2メートルぐらいの長身の男と、その男に右手をつかまれ連れていかれそうになっている女の人がいた。


「そこの人!お願い助けて!」

「ん?なんだお前!お前も殺されてぇか」

「その人を離せ」

「黙れ!どうせ部外者に見られたんだ。殺さねぇとダメか。」


男は女の人のお腹を蹴って倒れたところをさらに踏みつけた。


「やめろ!その人はなにもしてないだろ!」

「は?この女。俺様が声をかけてあげたのに、すいませんっつって俺様を無視したんだぞ!」

「ドンマイ、くそ豚。」

「くそー!お前もこの女もぶち殺してやる。」

「やってみな」


逸樹は男に殴りかかった。腹に直撃。しかし、…


「おいおい!笑わせんなよ!まさかこれが本気じゃねーだろーな!!!」

「ゴフッッッ!」


今度は男のパンチが腹に直撃。


「ゴホッゴホッゲホゴホッ」

「なんだよてめー!くそよえぇじゃねーかよ!」


その後も男は逸樹を殴り続けた。しかし、逸樹が膝を地面につけることはなかった。


「あーー!!もういい加減に倒れろよ!しつけぇな!もう刺してしまいじゃ!」


男はナイフを取り出すと逸樹の腹に突き刺した。


「ガハァッッッッ」

「お前が倒れなかったからいけないんじゃ!」

「痛い……だが、これくらいじゃ俺は殺せないな。」


ギュィィイイン


「骨の髄まで残らないくらいに噛み砕いてやる。」


なんと、逸樹の体は、明らかに憑着していた。鼻の部分は伸び、爪は伸び、筋肉は明らかに増強している。


「ヒッ!お前は人間じゃ…なかっ…」

「砕け散れ」


逸樹は全力で男の頬を目掛け、パンチを繰り出した。


プニッ


「おおっと、これは驚いた。このパンチを食らったら100メートルは吹っ飛びそうだね。なるほど、君はニホンオオカミ?これはレア物だね。」


なんと陵が、猫の肉球でパンチを受け止めているではないか。男はショックで気絶している。


「あ?邪魔してんじゃねーよ」

「あらら、人格が変わっちゃうんだね。」

「うるせぇ。砕け散れ。」


逸樹は陵に向かってパンチを繰り出す。


しかし、陵には当たらない。当たったと思ったら肉球で衝撃を吸収されている。


「少し落ち着いてもらおうか。」


陵は殴るかまえをとった。


「効くか!」


逸樹も殴るかまえをとる。


「吹っ飛べ」


ドォォォオオン


二つの拳がぶつかり合う。しかし、陵の肉球が強かった。


ボゴッッッツ


逸樹が、約20メートル離れている住居の塀に突き刺さる。


「ゴフッッツ」

「ごめんね。少しの間眠っててくれる?」

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