神と悪魔
生きていた家族
それは真人にとっての一番の希望
そして、明かされる真実
それは希望か絶望か……
「母さん?……美久?……」
きっとこの施設に来て一番驚いたことだろう。
死んでしまったと思っていた。
幸せは壊されたと思っていた。
日常は消えたと思っていた。
その全てがいま覆された。
「お兄ちゃん!」
「真人、ごめんね。連絡もしないで」
美久と母さんの声。
たった3日。
たった3日なのにこんなに懐かしく、尊く聞こえるなんて……
その声を聞いて自然と涙が流れ出す。
3日前とは違う涙。
あぁ……消えていなかった。
失っていなかった。
大事なものは全部守られていた……
「……オッサンの仕業なのか?」
きっと察しはついただろう。
大事なものを守ってくれたであろうその本人に言葉足らずな質問を投げかける。
「まぁな。あそこは俺の家だし。
そこに遊びに来て巻き込まれたんだ。
死なせる訳には行かねぇだろ」
むず痒いのだろう。
頭を掻きながら偏屈な返答をしてくる。
その腕には包帯。
きっと命懸けで助けてくれたのだろう。
「……オッサン。ありがとう」
心の奥から素直に溢れるその感情を言葉に表す。
「いいってことよ!
まぁみんな何事もなくて何よりだ!」
オッサンはそういって俺達3人に座るよう促す。
「真人、この三日何事も無かった?」
母さんの優しい声、心地よい気持ちの落ち着く声だ……
「……あぁ、何事も無かったさ。
流石に飯は食えなかったけどさ」
「……そう、じゃあいっぱいご飯食べさせてあげなきゃね」
「……あぁ……あぁ……また食わせてくれ……美味い飯をさ……」
「任せなさい。ふふっ」
「お兄ちゃん!私も作るからね!」
「……それは勘弁してくれ」
「な、なんで!?」
何気ない会話。
いつもとなにも変わらない。
「さてと……そろそろ話を始めたいと思う」
オッサンの顔が強ばる。
「みんな、御足労感謝する」
いつもの笑顔とは違う、真剣な眼差し。
「今日ここに集まって貰ったのは他でもない。
3日前の事件の真相と今起きていることを全て話すためだ」
剣術修行以外で初めてみた。
いつも笑顔でいつも明るいオッサンからは想像も出来ないほど真剣で重い声色だ。
まるで、別人のような。
そう勘違いしてしまいそうなほど……
「少し長くなるがしっかりと聞いて欲しい。
信じられない話もきっと出てくるが、今から話す話は全て真実だ。」
"真実"
あの男が言った通りだ。
"真実を知りたければ3日後ここに"
あの言葉の通り真実を知ることができる。
「まずは、あの火事は事故ではない」
オッサンが淡々と話始めた。
「そしてあの火事を起こした原因。
それが俺がこの組織を作った理由でもある。」
それには俺自身覚えがあった。
ジョーカーの発言。
あれが本当だとするなら……
「……【代理戦争】か」
俺はボソリと口にだす。
オッサンは驚いた様子で立ち上がった。
「お前……あの男にあったのか?……」
きっと火事の日に会った男の事だろう。
「あの男のことを知ってるのか?」
その質問は疑問ではなく、確信に近いものだった。
「あぁ、この組織の中にもあの男に会っているやつが何人かいる。
俺たちはあの男のことを『ジョーカー』と呼んでいる」
"『神』でも『悪魔』でもない、仲間外れのババさ"
ジョーカー……ババという意味か……
「神木さん、私達にも分かるように話してもらえますか?……なんのことだかさっぱり……」
母さんが困惑の顔を見せていた。
「あぁこれは失礼致しました。
では、ここからが本題だ。
この事件の原因、そして組織を作った理由。
それは先程、真人が言った【代理戦争】だ」
母さんや美久はなんのことだか分かっていないようだ。
勇気も、俺から少し話したとはいえ なにも分かっていない状態。
少し理解しづらいようだ。
それもそうだ。
あの男……『ジョーカー』に話を聞いた俺でさえも困惑しているんだ。
名前だけ聞いた所で分かるわけがない。
「オッサンもっと詳しく話せるか?」
「当然、その為に集まってもらったんだ」
オッサンの後ろにスクリーンが下りてきた。
「ここからはプロジェクターで文字に表しながら説明する」
オッサンがリモコンを操作すると部屋の電気が消え、スクリーンに映像が映し出される。
「みんな神様というものを信じるか?」
スクリーン上に神という字がうかぶ。
「まぁ信じていない人が大半だろうな。
それじゃあ悪魔は?」
スクリーン上の神という字の下に悪魔という字がうかぶ。
「これはもっと信じてないだろうな。
しかし、それがもしも存在していたとするなら?」
少し こ難しくなってきた。
まるで大学の講義を受けているような気分だ。
「まぁ少し回りくどい言い方をしたが、簡単に言うとこの世界には神様や悪魔は存在していると俺達は仮定している。
ただ、見ることも触ることも出来ない
そんな神様と悪魔が今争っている。
その争いのことを『代理戦争』という」
全員が疑問に思ったであろうことを投げかける。
「見ることも触ることも出来ないんだろ?なら、どうやってそれを知ったんだ?」
当然の疑問。
突飛な発言への揚げ足取り。
しかし、それを言わずには居られなかった。
「力だよ。
神様や悪魔はおよそ人の力とは思えない不思議な力を持っている。
炎を自在に操る、原子レベルでものを破壊する、人間の数倍数十倍以上の身体能力、自然治癒能力、人の心理を読み取る力など様々な力だ。
その力の根本、力そのもののことを総称して魔力と呼んでいる。
人間も魔力を保有しているが、神様や悪魔と比べれば微々たるものだ。
魔力は身体能力の向上、生体機能の向上などにも関わっている。」
魔力……マンガやアニメで聞くようなアレの事なのだろう……
もしもそれをマンガ通りと捉えるのであれば、
つまりは魔力量で劣っている人間は、身体能力や自然治癒力、動体視力などの生体機能も劣っているということになる。
なるほど、この世界に存在している神様や悪魔はすごいということは分かった。
だが、それがあったとして見ることも触ることも出来ない神様や悪魔を人間は認識できないし、力なんて……
"代理戦争"
代理?……
代わり……
……なるほどそういうことか。
今の内容が繋がった。
わかりやすい顔をしていたのだろう。
オッサンは俺が考えていることが分かったらしい。
「真人は流石に理解が早いな。
そう、神様や悪魔は力を持っているが見ることも触ることも出来ない。
つまり、実体がないんだ。
人間や物、他の生き物に関しても干渉が出来ない。
意志の有るエネルギーの集合体の様なイメージだ。
そんな神様や悪魔は今争って戦争を行っている。
どうやって?
……それは人間だよ。
人間の身体を使ってるんだ」
スクリーン上に神様、悪魔と書いた丸が表示される。
そこには人間の様な絵もあり、丸から人間の絵に向かって矢印のような物が伸びていた。
やっぱりそういうことか……
初めて聞いた時から少し違和感があった。
争っている当人同士の話なのに『"代理"戦争』と言っていることに。
「でも、どうやって人間の身体を?
乗っ取ってるんですか?」
勇気が質問を投げかける。
多分この話についてこれているのは俺と勇気だけだろう。
母さんや美久は混乱の顔のまま固まっているからな……
「相馬くん……だったかな?
いい質問だ。
身体を乗っ取っているわけではない。
魔力を与えているんだ。
契約だよ。
魔力を与え力を渡す代わりに実体のない自分に変わって自分の目的を遂行してもらう」
目的……
神様や悪魔が人間を使ってまで達成したい目的……
「その目的というのも、
今の所分かっているのは悪魔は人間ではなく、神に対して恨みがあり神を殺すため、神に復讐するために戦っているということだけだ。
神の目的は未だ分かっていない」
「それは人間には危害を加えないってことか?」
きっとそんなことはない。
そう分かっていたが聞かずにはいられなかった。
またあんな思いをすると思うと……
「残念ながらそうでもない。
悪魔側は障害となるものを全て消す。
つまり、人間は邪魔なんだ。
特に神に味方をする人間が……
人間がいなければ神も力を発揮することができないだろうからな……
だから、無差別に殺戮を行っている。
神に味方しようがしなかろうが……」
分かっていた。
実際に自分の身の回りが巻き込まれているのだから。
すでに被害が出ているのだから……
しかし、なんだろう……
今の説明でも納得はいく。
納得しているのに、釈然としない。
なんだ?
何に違和感を感じているんだ?
「神の目的は分からないが、神と悪魔が争っていることに変わりはない。
俺たちはこの神と悪魔の人間を利用した戦争のことを『代理戦争』 そう呼んでいる。
まだまだ分からないことだらけだがな……」
……まてよ?
おかしい……
神様や悪魔が戦っていることは分かった……
でも、なんで人間がそれに協力する?
力を貰ったとはいえ、自分の命が関わって来るんだぞ?
メリットが無さ過ぎやしないか?……
「オッサン、人間はなんでその『代理戦争』に協力してるんだ?
神様や悪魔は目的を達成してもらうために力を渡すのは分かる。
でも人間は、その力以外はなにも得るものがないじゃないか……」
もしも自分がその立場に立たされたのであれば協力はしないだろう。
いや、自分だけではない。
普通なら協力なんて考えない。
こんな事件を起こすくらいなら……
「それはな……まだ分かっていないんだ。
何故協力し、何故戦うのか。
協力している当人達の理由は分かっていないんだ……」
人の命にも関わっているんだ。
きっと何かたいそうな理由があるのだろう。
そう、信じたい……
信じたいが……まだ胸につっかえている何かがある……
なんだ?……
何がそんなにおかしいんだ?……
「さぁ、話が複雑になってきたから少しまとめるぞ?
この現代、実体のない神様と悪魔が存在していて争っている。
その事を『代理戦争』と呼ぶ。
神様と悪魔はお互い人間と契約し魔力を渡すことで代理人として働いて貰っている。
争っている目的だが、悪魔は神への復讐。
神の目的と人間が協力をする目的は未だ不明。
複雑な話をしたが、まとめると簡単だ。
神様と悪魔の戦争。
その一言でまとまる」
スクリーンにはまとめという文字が表示され、次々に文章が表示されていった。
「さぁ、『代理戦争』についてはこのくらいだな。
次は、この組織についてだ。
その前にみんなには知っておいて欲しいことがある」
オッサンが更に険しい顔になる。
なんだ?
これ以上にまだ何かあるのか?
「現在この『代理戦争』は世界各地で起きている……
ということは当然、国も動く。
しかし、一般人にはその事実が知らされず、極秘となっている。
何故だと思う?」
その答えは絶望という答えに辿り着いてしまう。
そう、この世界はもう既に……
「この組織は……」
リリリリリリッ
突然、電話が鳴った。
「おっと、すまないみんな。
少し待ってくれ」
オッサンが電話を取る。
何だろうか?
少し嫌な予感がした……
「俺だ。
あぁ、目標は?
あぁ、わかった
くそ、こうなるから急いだんだけどな……」
オッサンの顔が少し険しくなる。
嫌な予感は、的中してしまった様だ……
ガチャリ
電話をきったおっさんは立ち上がり、準備を始めた。
「オッサン?どうしたんだ?……」
「敵だよ。
『神』か『悪魔』か……」
そこにいた全員がその言葉の意味を理解した。
始まるのだ……
命をかけた戦いが……
「そんな……」
現れたのか……
きっとまた被害を受ける人がでてしまう。
きっとまた自分と同じ様な思いをする人がでてしまう……
そう思うと胸が苦しいなった。
「みんな、着いてきてくれ」
オッサンがみんなに立つことを促す。
「話をするよりも見てもらった方が早い。
俺たち組織がいる理由。
しかとその目に焼き付けてくれ」
なぜだろうか。
こんな時なのに。
俺はオッサンの背中を見て固まっていた。
この絶望的な状況で希望に満ちた瞳。
その頼もしい大きな背中。
全てを守ってくれる。
そう感じさせてくれる様だった……
遅くなってしまいましたがなんとか書きあげる事ができました!
この6話は設定やこれからのバトルに関わってくる話なのでゆっくり時間をかけて書き上げました!
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