仲間外れ
真実。
それは残酷で理不尽なものだった。
かの偉人・宮沢賢治は言った。
「世界全体が幸福にならないかぎりは、個人の幸福はありえない」と。
本当にそうだろうか?
幸福を感じることは多々ある。
それを感じないのは幸福を見過ごしているからではないだろうか?
そう思っていた。
でも、それは違う。
この言葉の本当の意味、真意は不幸というものに目を向けた時に分かるものだろう。
きっと不幸は蔓延する。
幸せな場所に不幸が割り込み、嘲笑うかのように幸福を消し去ってしまう。
世界のどこかに不幸がある限り安心出来る幸福などないのだ。
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講義を終え勇気、夏目と帰っていると夏目が突然
「今日、美香さんと美久ちゃんが家に遊びに来るけど真人も来るの?」
と話をふってきた。
美香さんと美久ちゃん。
俺の母親と一つ下の妹のことだ。
そんな話を全く聞いていなかったので迷ったが、幼い頃から行きなれた家。
落ち着ける第2の実家の様な場所だ。
暇な時間をマッタリ過ごすには丁度いい。
「んー……まぁ気が向いたら行くかな」
と適当に相づちをうつと、すかさずに夏目が
「じゃあ家に帰って着替えたらきなよ!」
と話を進めてきた。
断る理由もないので
「了解」
とだけ返事をしていつも通りの3人の雑談に戻ることにした。
この時は気づくことが出来なかったんだ。
この幸せが過去のものになると。
この時は思っていたんだ。
ずっとこんな時間が続くのだと。
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「ただいま〜」
家に帰ったが声が聞こえない。
2人はもう夏目の家に行ってしまったのだろう。
俺は急ぐこともなく夏目の家に行く準備を始めた。
「楽な服装でいいか……」
着ていた服ををベットに放り、クローゼットのパーカーを手に取る。
着替えを済ませ、家の戸締りをしようと鍵を手に取った時にその音は聞こえてきた。
ドゴォン!!
「な、なんだ!?」
近くで輝く眩いほどの光に目をしかめながら、確認する。
……目を疑った。
その目に映ったものが嘘だと、幻だと。
しかし、確かにその目には映っていた。
夏目の家の方角から紅く燃え上がる炎と大量の黒煙が上がっていることが。
一瞬思考が止まり、何も考えられなくなる。
そして次の瞬間には走り出していた。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
走って走って走って
燃え盛るあの紅色に向かって。
10分ほど走ってたどり着いた場所。
山の途中にある大きな神社。
大きな人集りと数台の消防車。
そしてそこで燃えていたのは紛れもなく、夏目の家だった。
隣接した神木の神社も大きな炎に包まれている。
少し距離のある所からでも分かるほどの熱量が伝わってきた。
「はぁ……!ゴホッゴホッ!はぁ……!夏目!母さん!美久!」
そこにいたであろう人の名を呼ぶ。
必死に。そして願った。
どうか生きていて欲しいと……
「君!!危ないから下がって!!」
消防士の人からの警告によって前に進むことを遮られる。
「お、おい……中に……中に居るんだよ……助けてくれよ!おい!」
消防士は俺の叫びを聞いた後、ゆっくりと首を横に振る。
「中にいた人は……」
そう言い淀み消防士は俯く。
その姿をみて、全てを察した。
体から力が抜け、呆然とする。
「危ないから、下がっていなさい」
最後にそう言い残し、消防士は消火へと戻って行った。
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どれほどの時間が経ったのだろう。
神社と家の炎は完全に鎮火した。
どちらも全焼半壊。
中からは完全に燃え尽きた1体の遺体が出された。
人集りも消防車も消え、残ったのは俺1人となった。
あの後からずっと動けずにいる。
燃え尽きた神社を眺めながら呆然としていると、山の林のほうから足音が聞こえてきた。
「やぁ、こんにちは」
声のする方を見るとそこには男が立っていた。
ニヤついた顔に軽い声、見るからにチャラそうなその男に嫌悪感が隠せない。
気色が悪い。
火災が起きた現場で何故こうもニヤついていられるんだ。
腹の奥が煮えるような気分に襲われ、気づくとその男を睨んでいた。
「怖いなぁ、そう睨まないでくれよ。これは僕がやったんじゃないんだから」
男はニヤついた表情を崩さずに話し始めた。
「すごい炎だったね。まるで地獄のようだったよ。君は見たかい綺麗な炎だったよね」
その言葉で頭に血が上るのを感じる。
自分の大事な人が巻き込まれ、悲しんでいる俺に何故そんなことを言えるのか。
歯を食いしばり、噴き出しそうな感情を抑えていた。
「ここにいた女の子達の悲鳴ですら甘美だったよ」
その時自分の中の何かが切れた。
拳を握り、その男に殴りかかろうとしたその瞬間。
「この事件の真相を僕は知ってるよ」
その言葉に俺の拳が止まった。
こいつはなんて言った。
真相を知ってるだって?……
怒りと困惑が渦巻き、混乱している俺に男は続ける。
「君は代理戦争という言葉を知っているかい?」
いつぞやの記事で見た言葉だった。
「この事件の真相はそれさ。今はネットでも噂になっているんだろう?
その噂が、都市伝説が、今回の火災の真相だよ」
こいつは何を言っているんだ……?
本気で言ってるのか……?
「信じられないかもしれないけど真実だよ。
この事件は全て『神』と『悪魔』による戦争さ」
俺の顔を見て何かを察したのだろう。
そう補足して焦げた神社に腰掛け、続けた。
「不思議だとは思わないかい?こんな山の中で火の気もそんなにない。
人がいたなら尚更すぐに消火できる。
なのにここまで大きな火災が起きた。しかも、この神社の壊れ具合、火事でこんなふうにになると思うかい?」
男はニヤついた表情を崩さず、飄々と語り始めた。
「これは神の成した偉業ってやつさ。
神の加護を受けた人間の偉業。
『神』の力を持って心が異形となったものの果ての行為さ。
人間を狙い、『悪魔』に狙われ、戦い、結果として人を殺す」
「僕は知っている。『神』と『悪魔』が戦っていることも。
そして今回何故ここが被害にあったかも。
そして君は知らない。ここで何が起きたかを。
君には知る権利がある。義務がある。
この世界で何が起き、どうなっているかを。
君は戦わなければいけない。
大事なものを守るために。
『神』と。『悪魔』と」
その男の突拍子もないその言葉が何故か重く、自分にのしかかってくるのを感じた……
男は手を広げ、天を仰ぎ言った。
「神は正義じゃない。悪魔は言わずもがな。
正義っていうのはその人自身にしか存在しない揺るぎない絶対だ。
それを犯すものは全て悪なんだよ」
そしてまた俺をみる。
「そして君はそれを犯された。
君にとって『神』も『悪魔』も悪だ」
重い重い俺の口がようやく動いた。
「お前は、なんなんだ……」
その質問に男はニヤついたまま答える。
「僕かい?そうだな、僕は真実を知るもの。
どちらでもない。『神』でも『悪魔』でもない。
僕は仲間外れのババさ」
そう言って男は林の方へ歩き始めた。
「残念だけど僕には君に全てを話している時間はない。
全部知りたいなら、3日後ここにおいで」
一度振り返りそう言い残すと男は再び林へと歩き去って行った。
やっと物語が動き始めます。
読んでくださる方、楽しみにして下さる方がいると信じて、頑張って書いていきたいと思います!
面白い、楽しみと思う方は是非ブックマーク、評価よろしくお願いします!
では次回、お楽しみに