都市伝説
半年前の回想。
それは幸せだったあの時の記憶。
夢を見た……
見知らぬ土地で、懐かしい場所。
風がそよぎ、空は青く、木々が茂っている。
大自然の中の小高い丘。そこに俺は立っていた。
丘には高い木が2本。その丘にはそれ以外に高い木はなく草が茂る心地の良い場所。
まるでそこは楽園のような……
ああ……こんな場所にずっと居られたなら……
ふと気づくと隣に誰かがいた。
見知った顔なのに、誰なのか思い出せない。
もどかしい。靄がかかったかのようだ。
そんな時にその誰かは口を開いた。
「目を覚まして」
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「…い、…さと。おい真人」
目が覚めた……
綺麗な夢だったな……
「おーい?起きてるかー?」
声が聞こえる……
ボヤけた目で隣を見る、今度はハッキリと分かった。
「なんだよ、勇気……」
相馬 勇気。大学に入学にして一番最初につるみ始めたいわば友達と言うやつだ。
なんとも残念な気持ちでいっぱいだな……
隣に居るのが美女だったら、目覚めもよかっただろうに……
「なんだよって、もう講義終わってるぞ。飯食いに行こうぜ」
教室を見渡す。確かに誰も居なくなっていた。
そんなに寝ていたのか……
「そうだな……行くか」
そう言って勇気と共に外のベンチへ向かった。
「なぁ、お前これ見たか?」
ベンチに座り安物のパンを貪っていると勇気が携帯を見せてきた。
「またこれか……すげぇ流行ってるよな」
そこには最近起きている怪奇事件について書かれていた。
火の気の無いところから火事がおきる。
一部の林の木がなぎ倒されている。
謎の民家の倒壊。
時には惨殺死体まで。
奇々怪々な事件が頻発していた。
そして一貫しているのは、事件が起きる寸前事件現場で眩いほどの光が目撃されていることだ。
その不自然過ぎる現象の犯行と何も証拠の掴めない謎があいまって学生の間では都市伝説として話題の中心になっている。
爆弾テロ、謎の団体による組織的犯行。
中には宇宙人の侵略なんて言うやつまでいるくらいだ。
「ほんとに不思議だよな〜、俺は宇宙人説に一票!」
勇気は軽く笑いながら俺の回答を待つ。
「おい、不謹慎だぞ。死人だって出てるんだ、軽々しく言っていい事じゃないだろ」
「わりぃ、確かにそうだな」
俺がそう言うと勇気は申し訳無さそうな笑い顔で手を顔の前にやった。
正直な所俺はこの手の話に興味がない。
オカルトに興味が無いこともそうだが、それ以上に関係のない人間がどうなるかなど、自分が考えるだけの余裕など持ち合わせてないんだ。
あるとすれば、自分の幸せ。
自分の周りの自分に関わるものを大切にしようという気持ちだけだ。
だからこの流行りの都市伝説にも興味を抱けずにいた。
それでも、その事を不謹慎だと分かる程度には常識は持ち合わせているつもりだ。
「まぁそんな怖い顔すんなって!ほら俺のチョココロネやるからよ!」
まぁ……しかし!
勇気はバカだがいい奴であることに間違いはない!
そう思いながら、素早くチョココロネを受け取り口へ運んだ。
チョココロネを食べながら勇気から受け取った携帯に書かれていた都市伝説の記事の本文を読み進める。
そこには、
『判明!都市伝説の原因とは!
今回起きた鉄筋コンクリートでの火災、そして前回の人間には不可能と思われる身体を二つに引きちぎられた惨殺死体などから、強力な力をもったなにかがこの全ての事件を起こしているのではないかと考えられている。
そこで私が独自に情報、証言などからこの都市伝説の原因を調べていた所、ある一つの仮説が浮かんだ。
終焉の再来。
これが真実であると仮定するのであれば……
人間社会の存続の危機であると言えるだろう。
城木 彰彦』
そう書かれていた。
あまりにもぶっ飛んだ考え過ぎて全く思考が追いつかない……
「ああ、その記事の著者って都市伝説を初めて広めたって言われてる人だよ」
勇気は横から携帯を覗き込みながらそういった。
なるほど、理解出来ない訳だ……
都市伝説ですら興味を持てないのに、それを広めた人の話が理解出来るはずがないか……
「ん、サンキュー。携帯返す」
「まぁなんだ、楽しめるやつが楽しめばいいと思うぞこういうのは」
勇気は携帯を受け取りながら苦笑いをしていた。
話に一段落ついたころ広場の向かいにある校舎のほうから声が近づいて来た。
「おーい!私も仲間に入れて!」
そこにいたのは、俺の幼馴染みの神木 夏目だった。
「よし、勇気。教室に戻るか」
「ああ!そうだな!」
「待て待て、泣くぞ?お?泣くぞ?」
夏目は神社の娘で巫女をしていながら、女の子らしさが皆無という奇跡的に絶望的な女の子であった。
「分かったよ。飯は食ったのか?」
「ん、食べたよ。それより2人で何話してたの?」
夏目が、興味津々に訪ねてくる。
「ああ、最近話題の都市伝説の話だよ」
俺がそう答えると夏目の顔が少し曇り
「そんな話よりさっきの私の武勇伝を聞いておくれよ!」
と言ってきた。
さっきまでの興味はどこかへ失せてしまった様だ。
本当に移り気なやつだ……
そうして、勇気と2人で夏目のラグビー部に早食いで勝ったという武勇伝を聞きながら、次の講義の教室へと戻った。
この時は感じなかった。
この日常がどれほどに幸せで、どれほど尊いものなのか。
そして、この日常が全て壊されてしまうことに気づくことすら出来なかった。
プロローグのような内容が続いてしまいましたが、次話から話が動き始めます。
続きも是非見ていただきたいです。