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戦略、戦術、交差する思い

敵の大胆な攻撃に対し、お返しにとばかりに大胆な守りをする真人。


両者1歩も譲らない拮抗状態。


しかし、それは思わぬことから崩れることになる。

「これが……後の先だ……!」


俺の考えていた防衛策。

そのいくつかの一つ。

もしも、突然に戦況が変わり、不利な状況に立たされそうな時から優位を取る受けの一手。


誘導を指示した青陣営の部隊が本陣に向かって退陣してくる。

それを追って、ブライアン陣営……赤陣営が詰めてくる。


「誘導隊、散開!」


その合図によって、青陣営の部隊はそれぞれバラバラの方向へ進路を変える。

ある兵は90度右へ、ある兵は左へ。

それを見た赤陣営は困惑し、足が止まった。


当然。

1人1人が自由に兵を追えば、隊列が崩れてしまうから。

この散開によって、部隊を引き剥がされ、分断されるのではないか。

優秀で経験ある兵ならそう思う。


敵の作戦のうち部隊の分断、それこそが1番危惧しなければいけないことだ。

だからこそ一瞬足を止め、個人ではなく部隊がどう動くか。

その総意がないといけない。


……その一瞬。

その場で止まることがどういう意味を持つかも知らずに……



「……今です」


その瞬間、敵の足元が、塀が、柱が、木が爆発した。

誘導した場所、模擬戦フィールドの中央を通る大きな道路には自陣防衛の為に設置した遠隔操作式センサー爆弾。

c4だ。


爆発そのものは大して大きくはない。

しかし、そのセンサーの効果範囲は絶大。


地雷のないこの戦闘において、遠隔操作式の爆弾は防衛において最大の武器になる。


その八割程度を使った、最大防衛戦術。

それをこの優勢争奪のタイミングで切る。

敵の戦力を削ぎ、数に差をつける。


最終局面に残すべき作戦をここで使い、虚を衝く。


ビィービィービィー!


音が鳴り響くと同時にマップの赤いマークにバツが付き、すぐさまdeadの文字が浮かぶ。


約300人。

マーキングされた敵の赤いマークが約300、マップから消えた。


形勢逆転。

その言葉が相応しい状況。


「こちらの数が上回りました。

B~Hの部隊は隊列を組み直したのち、中央の敵へ突撃をかけます」


「「了解」」


これで、右翼左翼どちらも数で上回った。

マップに映る赤のマークが次々と消えていく。


その速度は青陣営の減る速度の倍に近い。


しかし、ここは市街地。

遮蔽物も多く、考えていたよりも制圧に時間がかかっている……


「戦線を上げた5部隊へ、各部隊散開し敵陣を包囲、I8(アイ エイト)J8(ジェイ エイト)はそこからさらに戦線を上げ敵配置を確認、報告せよ。

また、各5部隊90~100番の兵はそれを援護」


この優位を保ったまま終わらせてしまいたい。

長引けば今の優勢は簡単覆る。


青陣営のフィールド中央付近と右翼。

混戦の続く今が敵陣を崩すチャンスだ。


そう考えたその時、自分達が立たされている状況を理解させられた。


敵の戦術によって。

視線がそこから外れていたことを。


ザー……ザー……

「こちらI8……敵陣の偵察終了……

敵数、およそ300……」


……


……………


やられた……


ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「さて……作戦決行だ」


右翼左翼に兵を突撃させた後、すぐに残った500の兵は動いた。


真人はきっと事前の防衛策かなんかでこの突撃を乗り切るだろう。


それぐらいは出来てもらわなくちゃあ困る。

この程度の奇抜さは大した事はない。

俺達はもっと“異常”な相手と戦っているのだから。


「さぁみんな、自陣の守りを固めろ!

ここからは根比べだ!」


自陣に残った兵はビルに残った棚や椅子や机を運びバリケードを作り始めた。


両陣営の、基地は5階建て雑居ビル。

入口は狭く、階段は2つ、どちらも1本道。

どこまで数で押し入ろうとも一度に通れる人数はせいぜい10やそこらだ。

防衛に人数は必要ない。

必要なものは……遮蔽物。



1階を固め、その他の階は人が数人隠れられる程度の簡易的なバリケードだ。

しかしこの小さな遮蔽物のありとなしでこの陣営内の戦いの優劣が決まる。


「指揮官、先鋒右翼は敵のc4の戦術により約3割がOUT。

残り700、後退しながら敵と交戦中」


「了解だ」


流石だな。

この程度じゃあ焦ってすらくれないか。


しっかりと用意した戦術を応用して戦ってる。

その証拠が数の差だ。


自分の防衛策でどれほど敵の戦力を削げるかを把握してないと出来ないことだ。

混戦している2つの優勢はあっさりと取られてしまった。


しかしまぁ、まさか動き始めてすぐにこんな大掛かりな戦術カードを切るとはな……


「奇抜さには奇抜さを……アイツらしいな」


ただ、この先の戦術は読めたか?

真人。


「自陣の守りを固めたら、状況開始だ。

γ1(ガンマ ワン)から順に所定の位置へ移動」


「「了解」」


「右翼部隊はそのまま後退。

作戦コードγ(ガンマ)を開始する」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やられた……」


今更に気づいた。

普段のゲームなら、きっと気づいていた……

実戦において優勢を取る作戦。

その場の優勢ではなく、この戦いそのものの優勢。

テレビゲームのように、チェスのように、盤面が一目では分かるようなものではない実戦という場。

だからこそ使える戦術。



ひし形のフィールド。

右翼には混戦。

左翼はフィールド中央からこちらの陣営に入って数km。

ひし形を中央線で分けたこちらの三角形の真ん中、これもまた混戦。

数で勝り、数で押し、数で優勢をとった。

それがこの戦いを有利に進める最善と、そう考えて。


ただ“見落とした”

ある1点を。

最も取られてはならない位置を。


最も見晴らしが良く、最も危険な地帯。


このオフィスビル街の最も高いビル。

中小企業のビルが並ぶ中にある、立派な大企業のビル。

もっと都会にあっても不思議はない、ガラス張りの10階建てのビル。


近くに建つ民家がそのビルの大きさをより一層際立てる。

フィールド中央に交差する大きな十字路、その交差点に位置する一回り大きな巨塔。


この作戦……この動き……

ブライアンは間違いなくそのビルを取りに来るつもりだったんだ……


そう……この戦いで最も気を張らなければいけなかったことは、フィールド中央地帯の独占。

最も見晴らしのいいあのビルに、拠点を作らせてはならないと言うことだ……


それは、この混戦状態でのみ可能になるもの。

通常の場合、中央が混戦状態になりやすく拠点の維持が難しい。

しかし、混戦がその他の場所で行われている場合は話が変わる。


混戦を制し、前線を上げ敵陣へ攻め入ろうとしても、中央には万全の状況で待ち構える敵兵。

混戦で人数の減ったこちらにはその防衛の突破は難しい。

かといって、その中央ビルの籠城を崩すことも難しい。

不利だ。


両側から兵を振って突破……

これも難しい。

取られたビルからはフィールド中央に横断する道がよく見える。

こちらが敵陣に入る場合、その中央の道を必ず通らなければならない。

たとえマーキングをされていなかったとしても、こちらの動きは筒抜け。

こちらが不利になる一方だ。


「どうする……」


自分の頭上のマップに映る赤と青が徐々にへっていく。

混戦を抜けた先に残されたものは残り少ない兵と劣勢という状況だけだ。


「どうする……どうする……どうする……」


今まで対戦してきたブライアンとは一味違う。

そんな苦い事実を突きつけられた。


「指揮官、こちらの兵は約3割がOUT。

敵兵5割がOUTです」


数の理はまだこっちにある……

きっと打開策はある……

まだ詰んじゃいない……


「どうする……!!」


ぎしりと歯が軋む。

それほどまでに口を強く噛み締め考えこんでいた。


頭が熱くなり、汗が滴る。


たった数手。

お互いに指し合ったのは2、3度程度。


簡単な戦略のやり取りで圧倒的不利に貶められた。


ここからの動きは決まっている……が、それは先の見えない動き。

その場しのぎの策だ……


「後退だ……

全兵、本陣周辺まで後退。

体制を立て直します」


ここから先はジリ貧だ……



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「真人……!」


夏目が手を組み、祈るように画面を見る。

俺も気持ちは同じだ……


戦闘を見る限り、途中まではほぼ互角。

しかし、今の一手で形勢が決まった。


それだけ、力の差があったという事だ……

やはり、無謀だったのかもしれない……

……それが悔しい。


握った拳に力が籠る。


頑張れと。


諦めるなと。


この完全劣勢の状態を見ても、応援してしまう。

……これが親心というものだろうか……


組織の長としてはどちらかに肩入れしてしまうのはやってはいけないことだろう。


それでも、考えてしまう。


我が“子”が勝ち、活躍する姿を。



握る拳にさらに力が籠る。


「大丈夫ですよ」


そう言ったのは、相馬くんだった。

今日の仕事を終え、ここへきたのだろう。


「大丈夫ですよ。

あいつは誰よりも負けることは嫌いなんです。

あいつの目はまだ死んでない」


息を切らしながら、夏目の横に立つ。

……心配だったのだろう。


夏目と俺の顔にはほんの少し、笑みがこぼれた。


「ただ、ここから優勢を取るのは俺でも難しい。

真人にそれが出来ると思うか?」


「テスト戦が決まったとき、真人と話したんです。

あいつはまだ、爪を隠してますよ」


「なにか作戦があるのか?」


ここから優勢を取りかえす。

それは簡単な事じゃない。


「真人は何を考えているんだ?」


「それは……見てからのお楽しみですよ!」


キラキラとした相馬くんの目には真人への期待と信頼が垣間見えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


後退させられた。

完全劣勢。


きっと組織のみんなや、今戦っている兵はそれが当たり前だと思っているだろう。


それはそうだ。

俺はただの一般人。


戦略の指揮を取るなんて最初から無謀だった。


俺に勝ち目なんかない……口を揃えてみんな言うだろう。


「ははっ……」


笑いが漏れる。

この状況を諦めた笑いじゃない。


“この状況を覆したときみんながどんな顔をするだろうか”


そんな馬鹿みたいなことを考えていた。


最初から分かっている。

無謀で、当然で、勝ち目なんかないと。


でも……それを覆すからこそ、気持ちが良い


諦めるなんて……勿体ない。


勝負はここからだよ、ブライアン。



「部隊編成を変更します」


レシーバーを通し、全兵に通達。

自陣近くまで下がった兵が敵兵を近づけまいと応戦している。


銃声は鳴り止まない。

家の中から、塀の裏から、電柱の影から、あらゆる所で鳴り響く。

それが民家やビルに反響し、指令室の俺の耳に届く。


心地がいい。

いつの間にか、戦場という場に慣れてしまった……

もう最初の気負いも、緊張もない。


あとは、やりたいことをやるだけだ。


「作戦コード Ω(オメガ)を行います」


お待たせ致しました。

第14話です!


いつも投稿の遅い私ですが、今回は力を入れて書いたため、さらに遅く……なってしまいました……


皆様にもっともっと楽しんで頂けるように、更新頻度を倍速、さらに倍速でいきたいと思います!


これからも「この世界の果てに」よろしくお願いします!


面白いと思った方は、評価、感想、ブクマ、レビューをどうぞよろしくお願いします!


それでは次の話でお会いしましょう!お楽しみに!

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