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部屋割り

 ワシントンを発ってから8日後、アデルたち一行は予定通りT州、フランコビルを訪れていた。

「西部っつーか、南の端まで来ちまったなー」

「そっスねー。って言うか鉄道自体が端っこ、終着駅っスもんねー」

 並んで立つアデルとロバートは、だらだらと汗を流している。サムも額をハンカチで拭きながら、気温の変化を分析している。

「流石に緯度10度近くも南下すると、空気が全然違いますね。ワシントンと全然、日差しが違います」

「い……ど?」

 きょとんとしたロバートを見て、サムが説明しようとする。

「あ、緯度と言うのはですね、地球上における赤道からの距離を……」「やめとけ、サム」

 が、アデルがそれを止めた。

「このアホにそんな小難しい説明はするだけ無駄だ。見ろ、このきょとぉんとした顔」

「……要するに、暑いところに来たってことです」

 噛み砕いた説明をしたサムに、ロバートは憮然とした顔を返した。

「子供だって知ってるっつの。メキシコの隣だし」

「その暑い国がなんで暑いか知らねーからアホだって言われんだよ」

「ちぇー」

 と、エミルが胸元をぱたぱたと扇ぎながら、3人に声をかける。

「いつまで日差しの真下で駄弁ってるつもり? そのまま続けてたら3人とも、マジで頭悪くなるわよ」

「ごもっとも。そんじゃ先に、宿を取りに行くか」

「賛成っスー」


 一行は駅隣のサルーンに入り、マスターに声をかける。

「ちょっと聞きたいんだが、ここって泊まれるか?」

「ええ、一泊1ドル10セントです。ただ2階に2部屋しか無いんで、2人ずつになりますが」

 マスターの返答に、4人は顔を見合わせる。

「まあ、そうよね。ニューヨークやフィラデルフィアならともかく、アメリカの端近くまで来てて、そんなに部屋数のある宿なんて普通無いわよ」

「まあ、道理だな。だが今、そこを論じたってしょうがない。部屋数が増えるわけじゃないからな。

 今論じるべきは、どう分けるか、だ」

 アデルの言葉に、ロバートが全員の顔をぐるっと見渡す。

「姉御と先輩、俺とサムって分け方じゃダメなんスか?」

「え」

 ロバートの案に、サムが目を丸くする。

「え、……って、普通に考えたらそうなるだろ?」

 けげんな顔をするロバートに、サムはしどろもどろに説明する。

「あ、でも、エミルさんとアデルさんは、そう言う関係じゃ」

「いや、それは俺も知ってるって。

 だけど例えばさ、ヒラの俺と姉御じゃ余計おかしいだろ。お前でもそれは同じだし」

「それは……うーん……そう……ですよね」

 うなずきかけたサムに、アデルがこう提案する。

「いや、それよか1対3、エミルに1部屋、残りを俺たち、って分けた方が紳士的だろ」

「あ、……そーっスよね、そっちの方がいいっス、絶対」

 ロバートは素直に納得したが――何故かサムはこの案に対しても、面食らった様子を見せた。

「えぇぇ!?」

「おいおい、待てよサム。どこも変じゃ無いだろ、今の案は? 男部屋と女部屋に分けようって話だろうが」

 アデルにそう言われ、サムは目をきょろきょろさせ、もごもごとうなるが、どうやら反論の言葉が出ないらしい。

「あっ、あの、でも、……その、……そう、ですよね」

「……」

 しゅんとなり、黙り込んでしまったサムを、エミルはじーっと眺めている。

 その間にロバートが、マスターに声をかけようとした。

「決まりっスね。んじゃ……」

 と、そこでエミルが口を開き、ロバートをさえぎる。

「マスター。部屋割りはそっちの赤毛と茶髪で1つ。それからメガネの子とあたしで1つ。よろしくね」

「……え?」

 エミルの言葉に、アデルたち3人は揃って唖然となる。

「かしこまりました、ごゆっくりどうぞ。夕食は18時に、1階で出しますので」

「分かったわ。それじゃ後でね、アデル。それからロバートも」

 その間にマスターが鍵を2つカウンターに置き、エミルは片方の鍵を受け取ると同時にサムの手を引いて、そのまま2階へ行ってしまった。

 残されたアデルは、ロバートと顔を見合わせる。

「……ちょっと待て」

「いや、俺に言ったって」

「え、エミル、ま、まさか、あいつが、あんなのが、タイプなのか? アレがタイプだってことか?」

「分かんないっスよぉ、俺に言われたって」

「い、いや、違うよな? ほ、保護欲みたいな、子犬可愛がりたいみたいな、ソレ的なアレだよな? な? なっ? なあっ!?」

「だから分かんないっスってー……」

 狼狽えるアデルをなだめつつ、ロバートはカウンターに置かれた鍵を受け取り、まだぶつぶつつぶやいている彼を引っ張るようにしつつ、2階へ向かった。

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