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二手、三手先を読む

「え……?」

 思ってもいなかったエミルの返答に、アデルは面食らう。

「いや、変な話じゃないだろ? 時間差があるから……」「そこじゃ無いわよ、問題は」

 エミルは肩をすくめつつ、こう返した。

「あんた、火が点いたダイナマイトが目の前に落ちてるのを見付けても、その場でじっと突っ立ってるの?」

「どう言う意味だよ?」

「危ないと思ったらすぐ逃げるだろ、って話よ。

 事件発覚が公になるかならないかのタイミングで、まんまとワシントンから逃げおおせた奴が相手よ? そんな相手が本拠地のド真ん中で、『捕まるかも』って危険を冒しておいて、追手の心配をしてないわけが無いじゃない。

 あたしたちがのこのこ本拠地に乗り込んだら、全力で逃げ出すに決まってるわ。相手にとってはるかに地の利がある町から、ね」

「なるほど……。言われりゃ確かに、その危険は無視できないか。そこで逃げるか隠れるかされれば、見付け出すことは難しくなるだろうな。

 だが本拠地で追わなけりゃ、どこで追うんだ?」

「これよ」

 エミルは地図を広げ、2つの町を指し示した。

「ここが議員さんの本拠地である、サンクリスト。

 ここから70マイルほど南にもう一つ、フランコビルって言う町があるの。隣駅でもあり、その路線の終着駅でもある町よ。

 そしてさらに南へ進んでいけば国境、その先はメキシコってわけ」

「高飛びするには手頃なルートだな。となると馬が必要か、……あー、なるほど」

「そうですね。そちらを抑える方が、より確実だと思います」

 うなずいているアデルとサムに対し、ロバートはぽかんとしている。

「どう言うことっスか? その、フランコビルって町で待ち構えるってことっスか?」

「ああ、そうだ。この町から南の国境まではかなりの距離があるし、馬の手入れや食糧なんかの補給は入念にしなきゃならない。でなきゃ国境を越える前に、地獄の門をくぐる羽目になるからな。

 そしてこの町の近隣百数十マイルにはサンクリスト以外の、他の町は無い。言い換えれば、この町以外に補給ができるところは皆無ってことだ」

「つまりここで待ち構えてれば……」

 ロバートの言葉に、アデルは大仰にうなずいた。

「そう、議員先生の方からやって来るはずだ。

 後はきちっと拘束し、しれっとF資金について聞き出す。ミッション終了ってわけだ」


 行動指針がまとまった後は、特に何かを検討するようなことも無く、それぞれが到着までの時間を潰していた。

「ようやく次の町が見えてきたなー」

「そうね」

「今日はどの辺りまで行けるかな」

「さあ?」

「お、湖だ。なんだっけ、エリー湖だったか?」

「そうじゃない?」

 ずっと外の景色を眺めているエミルに、アデルは色々話しかけてみるが、生返事しか返って来ない。

 まともな会話をあきらめたアデルは、今度はサムに話しかける。

「なあ、サム」

「え、あっ、はい?」

 手帳に目を通していたサムが、ぎょっとした顔をする。

「なんだよ、声かけただけだろ」

「あ、すみません。えーと、何でしょう?」

「お前さん、いくつって言ってたっけ?」

「22です」

「ロバートのいっこ下か。大学も出てるんだよな?」

「あ、はい。去年、H大のロースクールを」

「……は?」

 サムの学歴を聞いて、アデルは面食らう。

「22歳って言ったよな?」

「はい」

「去年、ロースクール卒業? H大の?」

「ええ」

「すげえな、飛び級してんじゃねえか。

 お前さん、実はものすげえ奴なんだな」

「いや、そんなことは、全然。人と話すの、苦手ですし」

「謙遜すんなっつの。なんだよ、超エリートだなぁ。とてもチンピラ上がりの隣に座ってる奴とは思えん」

「ちょっ……、ひどいっスね先輩」

 サムと比較され、ロバートが口をへの字に曲げた。

「そーゆー先輩はどうなんスか? どうせやんごとなき大学を主席で卒業とかでしょ?」

「局長じゃあるまいし。俺はふつーの、名前も聞いたこと無いような大学の出身だよ」

 そう返したアデルに、サムが食いつく。

「パディントン局長の母校って、どちらなんですか? あの方、イギリス訛りがありますし、やっぱりそちらの……?」

「らしいぜ。若い頃はイギリス人だったって聞いてるしな」

「……納得っスねぇ」

 アデルの話にロバートもサムも、うんうんとうなずいていた。

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