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議員先生の足取り予測

 司法省ビルでの情報収集を終えたアデルたちは、その日のうちに、T州行きの列車に乗り込んでいた。

「サム、到着は何日後だ?」

 列車がワシントン郊外に差し掛かった辺りで、アデルがサムに尋ねる。

「えーと……、8日後の予定です」

 手帳に視線を落としながらサムがそう返したところで、横に座っていたロバートが愕然とした表情を浮かべる。

「8日後ぉ!? 議員先生が逃げ出してからもう3日、4日経ってるってのに、さらにそんなにかかんのかよ!?」

「し、仕方ないですよ、ロバートさん。

 で、でもですね、相手だって目的地へ向かうのに同じだけの日数を要しますし、それに加えて、資産を現金化する時間も必要になります。

 それを考えれば、僕たちには若干の余裕があるはずです」

「現金化? つまり、カネを集めるってことか?」

 サムの説明に、ロバートは首を傾げる。

「カネ持ちだって話なんだろ、議員先生は? なんでカネを集める必要があるんだ?」

 これを聞いて、アデルが呆れた声を出した。

「ロバート、お前さんまさか、『カネ持ち』がそのまんま、ドル紙幣をわんさか持ってる奴だって思ってんじゃないだろうな」

「え? そうでしょ?」

「アホか。本物のカネ持ちはカネじゃなく、カネを株式やら土地やらの動産・不動産と言った資産にして持ってんだよ。資産にして置いときゃ地代やら配当やらで、さらにカネが入るからな。

 だが今回みたいに、いざ逃げなきゃならんって時にそんなもん持ってても、全然役には立たない。だからカネに戻すってわけだ」

「あー、なーるほど」

「は、話を戻しますと」

 サムが恐る恐ると言った口ぶりで、説明を続ける。

「当然ながら、スティルマン議員がワシントンなど合衆国東部地域で有していた資産に関しては、既に凍結されています。

 ですが彼の本拠地であるT州サンクリストには、まだ相当額の資産が蓄えられていますし、地元で顔が利く分、こちらの現金化は容易なはずです。

 とは言えその総額は、資料によれば10万ドルは下らないとのことですし、完全に現金化するまでには相当の日数を要するでしょう」

「じゅっ……」

 額を聞いて、ロバートはまた目を丸くした。

「なんだよ、すげえカネ持ちじゃねえか!? なのになんで、裏金なんかもらおうとしてたんだよ……?」

「答えは簡単。カネの亡者だからよ」

 窓の外を眺めていたエミルが、話の輪に入る。

「この世には2種類の人間がいるのよ。生活に困らない程度のおカネが手に入ったらいいやって言うタイプと、おカネはいくらでもほしいってタイプ。

 あたしは前者だけど、隣のアホとか議員さんは後者みたいね」

「アホって言うなよ……、ったく」

 口をとがらせるアデルをよそに、エミルはサムの説明を継ぐ。

「ともかく、そう言うタイプだろうから、捜査の手が伸びるギリギリまで現金化を進めるでしょうね。

 サム、その現金化だけど、最短で何日くらいかかるか、算出できる?」

「えーと……、そうですね、大部分が土地と債券、株式とのことですから、近隣に売却するとして、……とは言え銀行なんかを介した表向きの取引は、買い手側が後々まずいことになるでしょうから断るでしょうし、帳簿や証文の無い裏取引として……でも現金がそこまで町全体にあるか……うーん……」

 サムはぶつぶつとつぶやきながら、大まかな所要時間を返した。

「恐らくですけど、半分の5万ドルなら一週間くらいでできると思います。ただ、残り半分も現金化しようとしたら、周りの町からかき集める必要が出るでしょうし、一ヶ月以上かかるでしょうね」

「流石に一ヶ月もじっとしてなんかしやしないわね。じゃあ恐らく、一週間で町を立つでしょうね。

 合計すれば――ワシントンからサンクリストまで8日、半分を現金化するのに7日だから――最低でも半月はかかるってことになるわね」

 これを聞いて、アデルが話をまとめようとした。

「となると、既に事件発覚から一週間が経過している今、明日か明後日くらいで議員先生は本拠地に到着し、現金化を始めるだろう。

 だが半分カネにするのに一週間。その間に俺たちがサンクリストに到着し、奴さんをとっ捕まえるってわけだな」

 が――エミルはこれを聞いた途端、鼻で笑った。

「そんなの上手く行くわけないじゃない」

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