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仕事と遊びと、宝探しと

 うずくまったままのサムを放っておき、アデルたちは引き続き、資料を確認する。

「んで、そのフィッシャー議員から政治基盤を受け継ぎ、上院議員にまで出世ってわけか。

 そして今年、汚職が発覚、と」

「汚職って、そう言やこのおっさん、何やったんスか?」

尋ねたロバートに、エミルが説明する。

「簡単に言えば収賄と背任、横領よ。

 N準州で予定されてる鉄道事業について入札が行われてたんだけど、その裏でスティルマン議員はある鉄道会社から、8000ドルの賄賂をもらったのよ。その見返りに、その会社に最低入札価格を教えるってことでね。

 その上、準州が用意してた鉄道予算の一部も着服しようとしてたって話よ」

「へぇー」

 感心した声を上げたロバートに、エミルは呆れた目を向ける。

「あなた、新聞読んでないのね?」

「え、……いやー、ははは、文字見るのが嫌いなんスよ、俺」

「この半月で一番ホットな話題よ? 少しくらい、目を通しておいた方がいいわよ」

 エミルに続き、アデルもたしなめる。

「そうだぜ、ロバート。学が無いオトコはモテねーぞぉ」

「ん、んなこと無いっスよ! オトコは腕っ節っス!」

 反論するロバートに、アデルは肩をすくめて返す。

「局長を見てみろよ、たまにご婦人の依頼人が来るが、最初はどんなに憂鬱そうにしていても、局長と話すと途端に顔をほころばせる。

 あの人はユーモアと機知にあふれてるし、何よりどんな話題にも柔軟かつ広範に応じられるからな、どんな相手でも心を開いちまう」

「流石っスねー」

 ロバートが感心する一方で、エミルはクスクスと笑っている。

「なんだよ?」

「だからあなた、おしゃべりなのね。局長みたいになりたくて」

「……」

 エミルの指摘に、アデルも顔を赤くした。


 と、先に赤面していたサムがようやく立ち直ったらしく、机に戻って来た。

「え、えーと、それでその、資料はお役に立ったでしょうか?」

「ん? あ、ああ」

 アデルはぷるぷると首を振り、サムに応じる。

「そうだな、奴さんが隠れそうなところ、行きそうなところの目星は大方付いた。

 こっちの方は終わりだな」

「こっち?」

 きょとんとした顔で尋ねたサムに、アデルはニヤニヤ笑いながら、そーっと近付いた。

「あ、あの?」

 目を白黒させているサムの耳に、アデルはこうささやく。

「ここからは秘密のお話だ。ここにいる俺たち以外には、他言無用だぜ?」

「え? え?」

「いいか、俺はある情報筋から、この資料室にはお宝のありかを示す手がかりがあると言う情報をつかんでいる。実を言えば、議員先生の情報集めなんてのは単なる口実だ」

「な、何を?」

「と言うわけで、今からそっちの情報集めを始める。お前さんも手伝え」

「ま、待って下さい」

 サムはふたたび顔を真っ赤にして、慌ててアデルとの距離を取る。

「じゃ、じゃあアデルさん、最初からそのつもりで、ここに? スティルマン議員の捜索も、そのために?」

「いやいや、議員先生の件の方が勿論、重要だ。局長から直々に受けた命令をないがしろにするなんてよこしまなことは、これっぽっちも考えちゃいないさ。

 だが、例えばサム、お前さんが仕事で西部の方へ行って、仕事を終えて直帰するって時に、駅近くのバーで一杯やろうかと思ったとして、それを咎める奴はいないだろ?

 それと同じさ。本来やるべき仕事をきちっとこなしてりゃ、誰も文句は言わないさ」

「それは……うーん……でも……」

 困った顔をしているサムに、エミルが声をかける。

「ま、今回だけは大目に見てあげなさいな。このバカ、言い出したらなかなか聞かないもの」

「ちぇ、バカはひでーなぁ」

 アデルが口をとがらせるが、エミルは彼に構わず、サムと話を続ける。

「あなたが清廉潔白なタイプだってことは、見てれば分かるわ。だからこいつのグレーな提案も、そう簡単には受け付けられないってことも十分理解できる。正直あたしだって、バカなこと考えてるわねって思ってるしね。

 だからこれはお宝探し(Treasure)なんて欲張った話じゃなくて、単なるお遊び、レジャー(To leisure)と思えばいいのよ。

 捜査局にだって、週末に備えてデスクで新聞の娯楽欄をニヤニヤしながら眺めてる人、いるでしょ? ここで資料探しするのも、その延長みたいなもんよ。折角遊びに行くんなら観光地の下調べくらい、事前にしときたいじゃない」

「は、はあ……」

 まだ納得しかねている様子のサムに、エミルはこう付け加えた。

「それにあなた、仕事から離れてプライベートの時間になったら、どう過ごせばいいか分かんなくなるタイプでしょ? せいぜい家で新聞読むか気になった事件をスクラップするか、頑張って図書館に行って勉強するか、って感じ」

「そ、それは、まあ、……否定しませんと言うか、できませんと言うか」

「だから、たまにはあたしたちと一緒に遊びましょ、って話よ。

 ね、それならいいでしょ?」

 エミルの説得に、サムはようやく折れた。

「……分かりました。それなら、ええ、はい」

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