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米連邦司法省ビルにて

「あ、そ、その、ビアンキさん、よ、よろしく……、お願いします」

 前回共に仕事をしてから半年ほど経っていたが、やはりサムは以前と変わらず、シャイな様子を見せていた。

「ロバートでいいぜ。こいつもお前さんと同じヒヨッコだ。仲良くしてやってくれ」

「何スかそれ、子供扱いして……」

 口をとがらせつつも、ロバートは素直に、サムに右手を差し出す。

「まあ、よろしくっス」

「あ、はい」

 サムも恐る恐ると言った様子で右手を伸ばし、握手を交わした。

「よし、挨拶も済んだところで、だ。

 早速で悪いが、ちょっとばかしお前さんの職場にお邪魔させてもらうぜ」

 そう切り出したアデルに、サムはこくっと短くうなずいた。

「ええ、伺っています。セオドア・スティルマン議員の消息をたどるため、資料室で彼の身辺情報を……、と言うことでしたね」

「そうだ。今から一々、巷で情報集めしてたんじゃ、下手すりゃ議員さん、海の向こうに行っちまうか、馴染みの深いだろうメキシコへ柵越えしちまう。

 それよりか、既にある程度の情報持ってるおたくらに知恵を借りた方が、拿捕できる可能性は高くなるからな」

「ええ、特に国政に関わる人間であれば、一定の身辺調査を行うようにしていますからね。スティルマン議員についてもファイルされているはずです」


 サムを筆頭にして、エミルたち一行は連邦特務捜査局のオフィスがある、司法省ビルの中を進む。

「てっきり中にいる奴、みんな俺たちに敵意むき出しにしてにらんでくるかと思ってたっスけど……」

 そうつぶやいたロバートに、エミルが苦笑しつつ返す。

「あくまで捜査局は司法省の一セクションだもの。このビルに勤めてる大部分の人たちはそいつらと無関係だろうし、何とも思って無いわよ」

「へへ、そっスよねぇ」

 と、アデルがトン、とロバートの肩を叩く。

「だが、彼は別だろうな」

「彼?」

 ロバートが聞き返したが、アデルは答えず、前方、廊下の奥から歩いてくる初老の男を、それとなく指し示した。

「……」

 アデルが言った通り、その男はエミルたちを、胡散臭いものを見るような目で眺めながら近付いて来る。

「あ、局長。おはようございます」

 サムが立ち止まり、彼に会釈する。

「……ああ、おはよう、クインシー捜査官」

 一方、相手は立ち止まらず、サムに手を挙げて返し、そのまま通り過ぎる。

 こう言う状況であれば大抵はアデルが突っかかるのだが、この時ばかりは流石の彼も、会釈するだけに留めていた。

「局長って?」

 ぼそっと尋ねたロバートの頭を、アデルがぺちっと叩く。

「サムが局長って呼ぶような奴っつったら、連邦特務捜査局の局長だろうが。

 ウィリアム・J・ミラー、司法省でも重鎮の男だ」

「まあ、はい、そう言うことです。……ちゃんと挨拶してほしかったんですが、ロバートさん」

「す、すんませんっス」

 ロバートが慌てて振り返るが、ミラー局長の姿は既に、廊下に無かった。


 ともかくアデルたちは資料室へ向かい、所期の目的を果たすことにした。

「えーと、S……Sの項の……T……I……あ、あった」

 サムが言っていた通り、確かにスティルマン議員についての資料は、すぐに見つけることができた。

「セオドア・S・スティルマン。183X年、T州出身。

 1855年に父親の事業であったS&S農園を継ぎ、57年に南部の有力政治家だったヘクター・フィッシャー元上院議員と関係を持つ。……関係?」

「え、関係ってまさかこいつ……」「じゃないです!」

 声を上げかけたロバートを、サムが珍しく大声を出して遮った。

「4年後の1861年、スティルマン議員はフィッシャー議員から政治基盤を受け継いでいます! 関係を持ったって言うのは、政治活動の関係のことですから! へ、変なこと言わないで下さいよ、ロバートさん!」

 一方、ロバートはニヤニヤと笑みを浮かべてこう返す。

「……あのー、まだ俺『まさかこいつ』しか言ってないっスよ。一体ナニと思ったんスか?」

「え、……あっ、あっ、そのっ、いやっ」

 サムは顔を真っ赤にし、その場にうずくまってしまった。

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