表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

欲と義と

「今回君に任せる件の詳細は、以下の通り。

 先のN準州開発に絡む汚職事件についての追求を逃れ蒸発した代議士、セオドア・スティルマンの捜索、及び拘束だ。

 無論、罪に問われているとは言え、まだ犯罪者と確定したわけでもない男を、我々が勝手に拘束するわけにはいかん。そこで逮捕権を持つ連邦特務捜査局の人間に同行し、名目上は彼に拘束させるようにしてほしい。

(と言うよりもこの件、捜査局からの依頼なんだ。また人員不足だとか予算が十分じゃあ無いだとか、何だかんだと文句をこぼしていたよ)

 そう、今回もまたあのお坊ちゃん、サミュエル・クインシー捜査官と一緒に仕事してもらう。言うまでもないが、勿論エミルにも同行してもらうこと。

 あと、あの、……イタリア君にも初仕事をさせてやろう。一緒に連れて行くように。


P.S.

 イタリア君の名前をど忘れした。何となくは覚えているんだが。彼、名前なんだったっけか?」




「このメモ、局長から?」

 尋ねたエミルに、アデルはこくりとうなずく。

「ああ。彼は今、別の事件を追っているらしい。だもんで、こうして書面での指示をもらってるってワケだ」

「……ああ、だから?」

 そう返し、エミルは呆れた目を向ける。

「局長の目が届かないうちにお宝探しして、ちゃっかり独り占めしようってわけね」

「いやいや、二人占めさ。俺とお前で」

「それでも強欲ね。サムとロバートも絡むことになるのに、二人には何も無し?」

「あいつらには何かしら、俺からボーナスを出すさ。お宝が本当にあったならな」

「あ、そ。慈悲深いこと」

 エミルにそう返されつつ冷たい目でじろっと眺められ、アデルは顔を背け、やがてぼそっとこうつぶやいた。

「……分かったよ。4等分だ」

「5等分にしなさいよ、そう言うのは。

 仕事にかこつけて宝探しするんだから、機会を与えてくれた局長にもきっちり分けるべきじゃないの?」

 エミルの言葉に、アデルは顔をしかめる。

「エミル、お前ってそんなに博愛主義だったか? いいじゃねーか、局長に内緒でも」

「一人でカネだの利権だのを独り占めしようなんて意地汚い奴は、結局ひどい目に遭うのよ。

 そりゃあたしだって儲け話は嫌いじゃないけど、出さなくていいバカみたいな欲を出して、ひどい目に遭いたくないもの」

 そう言ってエミルは新聞紙を広げ、アデルに紙面を見せつける。

「『スティルマン議員 新たに脱税疑惑も浮上』ですってよ?

 独り占めしようとするようなろくでなしは結局悪事がバレて、こうやって追い回されて大損するのよ。

 あんた、こいつに悪事の指南を受けるつもりで捜索するの?」

「……」

 アデルは憮然としていたが、やがてがっくりと肩を落とし、うなずいた。

「……ごもっとも過ぎて反論できねーな、くそっ」

「ま、そんなわけだから」

 そう言って、エミルはアデルの前方、衝立の向こうに声をかけた。

「もしお宝の分け前があれば、あんたにもちゃんとあげるわよ」

「どーもっス」

 衝立の陰から「イタリア君」――パディントン探偵局の新人、ロバート・ビアンキが苦笑いしつつ、ひょいと顔を出した。

「あ、お前? もしかしてずっとそこにいたのか?」

 目を丸くしたアデルに、ロバートは口をとがらせてこう返す。

「先輩、ひどいじゃないっスか。俺にタダ働きさせようなんて」

「反省してるって。ちゃんと渡すさ」

「へいへーい。ま、今回はそれで許してあげるっスよ、へへ」

 ばつが悪そうに答えたアデルに、ロバートはニヤニヤ笑いながら、肩をすくめて返した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ