欲と義と
「今回君に任せる件の詳細は、以下の通り。
先のN準州開発に絡む汚職事件についての追求を逃れ蒸発した代議士、セオドア・スティルマンの捜索、及び拘束だ。
無論、罪に問われているとは言え、まだ犯罪者と確定したわけでもない男を、我々が勝手に拘束するわけにはいかん。そこで逮捕権を持つ連邦特務捜査局の人間に同行し、名目上は彼に拘束させるようにしてほしい。
(と言うよりもこの件、捜査局からの依頼なんだ。また人員不足だとか予算が十分じゃあ無いだとか、何だかんだと文句をこぼしていたよ)
そう、今回もまたあのお坊ちゃん、サミュエル・クインシー捜査官と一緒に仕事してもらう。言うまでもないが、勿論エミルにも同行してもらうこと。
あと、あの、……イタリア君にも初仕事をさせてやろう。一緒に連れて行くように。
P.S.
イタリア君の名前をど忘れした。何となくは覚えているんだが。彼、名前なんだったっけか?」
「このメモ、局長から?」
尋ねたエミルに、アデルはこくりとうなずく。
「ああ。彼は今、別の事件を追っているらしい。だもんで、こうして書面での指示をもらってるってワケだ」
「……ああ、だから?」
そう返し、エミルは呆れた目を向ける。
「局長の目が届かないうちにお宝探しして、ちゃっかり独り占めしようってわけね」
「いやいや、二人占めさ。俺とお前で」
「それでも強欲ね。サムとロバートも絡むことになるのに、二人には何も無し?」
「あいつらには何かしら、俺からボーナスを出すさ。お宝が本当にあったならな」
「あ、そ。慈悲深いこと」
エミルにそう返されつつ冷たい目でじろっと眺められ、アデルは顔を背け、やがてぼそっとこうつぶやいた。
「……分かったよ。4等分だ」
「5等分にしなさいよ、そう言うのは。
仕事にかこつけて宝探しするんだから、機会を与えてくれた局長にもきっちり分けるべきじゃないの?」
エミルの言葉に、アデルは顔をしかめる。
「エミル、お前ってそんなに博愛主義だったか? いいじゃねーか、局長に内緒でも」
「一人でカネだの利権だのを独り占めしようなんて意地汚い奴は、結局ひどい目に遭うのよ。
そりゃあたしだって儲け話は嫌いじゃないけど、出さなくていいバカみたいな欲を出して、ひどい目に遭いたくないもの」
そう言ってエミルは新聞紙を広げ、アデルに紙面を見せつける。
「『スティルマン議員 新たに脱税疑惑も浮上』ですってよ?
独り占めしようとするようなろくでなしは結局悪事がバレて、こうやって追い回されて大損するのよ。
あんた、こいつに悪事の指南を受けるつもりで捜索するの?」
「……」
アデルは憮然としていたが、やがてがっくりと肩を落とし、うなずいた。
「……ごもっとも過ぎて反論できねーな、くそっ」
「ま、そんなわけだから」
そう言って、エミルはアデルの前方、衝立の向こうに声をかけた。
「もしお宝の分け前があれば、あんたにもちゃんとあげるわよ」
「どーもっス」
衝立の陰から「イタリア君」――パディントン探偵局の新人、ロバート・ビアンキが苦笑いしつつ、ひょいと顔を出した。
「あ、お前? もしかしてずっとそこにいたのか?」
目を丸くしたアデルに、ロバートは口をとがらせてこう返す。
「先輩、ひどいじゃないっスか。俺にタダ働きさせようなんて」
「反省してるって。ちゃんと渡すさ」
「へいへーい。ま、今回はそれで許してあげるっスよ、へへ」
ばつが悪そうに答えたアデルに、ロバートはニヤニヤ笑いながら、肩をすくめて返した。